今でもそうだと思うのですが,不動産の物権変動の対抗問題(民法177条)というのは司法試験では最頻出の論点でした。不動産の所有権を取得しながら登記をしないというのが現実にはあまりないということから,実務に出てからはあまりお目にかかりませんが,権利と権利の調整という民法の考え方を試すのにもっとも適している一場面ということなのでしょう。



判例時報2149号で紹介された最高裁平成24年3月16日というのは,司法試験の問題に出てきそうな事例です。




取得時効と対抗要件という問題です。




不動産を善意無過失で自分の所有のものだと信じて平穏公然に10年間占有し続けると取得時効によってその不動産の所有権を取得することができます(民法162条2項)。



机の上の勉強だけだとそんなことがあるのかと思ってしまいますが,現実的にはしばしば起きているようです。



この最高裁の判例でも,Aというもともとの土地所有者からBという人が購入しサトウキビ畑として使っていた(占有していた)のですが,登記せずにそのままにしていたということです。




Bはその後10年間取得時効の要件を満たす形でサトウキビ畑としての使用を継続します。




ところが,Aが死亡し,当該土地について,AB間の売買契約から10年以上経過した時,Aの相続人が相続登記を経た上で,金融機関から金を借りた担保として抵当権を設定登記してしまいました。




ところが,融資金の返済が滞ったため,金融機関が抵当権に基づいて競売を申し立てたところ,慌てたBが競売停止とともに第三者異議という不服申立手続で金融機関の抵当権の存在を争ったというものです。




この場合に,Bが「その土地はAから買ったものだ」という主張をしてもBは敗けてしまいます。民法177条により,登記の後先で決着をつけるというルールがあるので,抵当権設定登記を先に了した金融機関の勝ちとなります。




そこで,Bが主張したのが時効取得したという理由でした。




もう少しいうと,金融機関が抵当権を設定した時点から10年間の取得時効要件を満たしているので,その時点でBは不動産の所有権を時効取得したと主張しました。ちなみに,Bは,一度Aから売買により所有権を取得しているはずですが,このような場合であっても時効取得の主張をすることができるというのが判例の立場です(時効取得の対象は完全な他人の不動産のみに限られないということです)。




さらに言うと,時効取得というのは原始取得と呼ばれているのですが,これは,取得した時点で真っ新な権利を取得する,つまり,それまで付着していた権利関係は一切合財消滅したうえで,まったく新しい権利を取得するものとされています(この点に争いはありません)。

なお,それまで付着していた権利関係も引き継いで取得することを承継取得といいます(相続などが典型です)。




この場合,権利を失う者との関係では,登記の後先で決着するというルールは

関係ありません。登記の後先で決着をつけるというのは,権利を失う者と取得する者という当事者間で適用されるルールではなく,当事者以外の第三者との関係を規律するルールだからです。




なお,時効取得した者が登記をしない間に,権利者が別の第三者に譲渡した場合には,時効取得を主張する者と第三者との間の権利関係は登記の後先で決着が付けられます。




さて,本件最高裁の事例の特徴は,権利を失う者が抵当権者であったという点です。




これが所有権同士の争いであったとすれば(簡単な事例でいえば自分の土地に占有者がいるというケース),所有権を失う者は,時効取得を主張する占有者に対して明渡訴訟を提起したり所有権確認の訴訟を提起するなどして自らの権利保全を図ることができます。



しかし,抵当権者の場合には,時効取得を主張しそうな占有者がいたとして抵当権者自身がその占有者に対してどのような権利保全の手段があるのかということが問題となります。抵当権と占有者の排除という論点がありますがこれは執行妨害を念頭にしたものなので,取得時効の完成を阻止する場合にどんな法的措置がとれるのだろうかといった問題点が判例時報の解説に記載されていました。

実際に,この最高裁判例でもその観点からの個別意見が述べられています(ただ,具体的にどのような手段があるかというところについては明示されていません)。




ただ,最高裁は,結論として,不動産に抵当権が設定された後に10年間善意無過失,平穏公然とその不動産を占有した者は,抵当権者に対して時効取得による真っ新な所有権を主張することができるとしました。




色々と頭の体操になります。








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