遺言執行と弁護士倫理

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遺言執行者というのは,読んで字のごとく,遺言の内容を執行する権限を有している者のことで,遺言で指定されている場合と家庭裁判所が選任する場合とがあります。




この遺言執行の分野については,いくつかの懲戒事例があり,この分野に携わる者としては参考になります。



1 遺言執行者である弁護士が遺留分減殺請求事件の一方当事者の代理人となったことについて,品位を失うべき非行として戒告とされた事例



 事案については簡略化しますが,亡くなった被相続人の妻と長女,二男といグループと,長男,その妻,その子二人というグループがあり,弁護士が遺言執行者として指定された遺言は長男一家に有利な内容となっていたため,妻らのグループから遺留分減殺請求調停が提起されたところ,遺言執行者である弁護士が長男一家の代理人に就任したという事例で,戒告という懲戒処分となりました。民法1015条に「遺言執行者は,相続人の代理人とみなす」という規定があり,すべての相続人に対して中立公平であるべき遺言執行者の地位と相反するという判断であると思います。




2 遺言執行者である弁護士が,相続人間の遺産分割調停において,ある相続人の代理人として同一の法律事務所のパートナー弁護士(指揮監督,命令を受ける立場にない地位にある経営者弁護士)を紹介し就任させ,戒告とされた事例



単位弁護士会は「懲戒せず」としましたが,日弁連でひっくり返って戒告という懲戒処分となりました。




弁護士が自分では受けられない案件について他の弁護士を紹介するということは,実は,よくあることです。




しかし,紹介する相手を考えないと,懲戒になり得るということです。このことは,遺言執行の場合に限られませんが。私の場合,別の弁護士を紹介する場合には「私は一切関係なくなるので,後は,その弁護士とよく話し合って進めていってください」と念押しするようにしています。




遺言執行者の場合,すべての相続人に対して中立公正でなければならない立場なので,特定の相続人に,自分の法律事務所の弁護士を紹介するという行為自体が中立性を害するという判断なのでしょう。




3 遺言執行完了後に遺言者である被相続人の相続人から依頼を受けて,別の相続人に対する建物明渡し請求を提起した行為については懲戒しないものとされた事例




建物明渡請求については相続財産に関連するものであったようですが,そうであったとしても,遺言執行業務が完了した後に,このような訴訟提起をすることについては,本件では,遺言執行とは別個の事件であるとして判断され,許されるものとされました。




4 遺言執行完了後に,相続人から提起された遺言無効確認訴訟において,別の相続人の代理人となったことについて戒告とされた事例




3の事例とも似ているのですが,この件では単位弁護士会の懲戒しないとの決定が覆り,日弁連で戒告とされました。なお,東京高裁も懲戒を受けた弁護士からの不服申し立てを請求棄却しています。遺言執行が完了していれば何でもOKというわけではなさそうです。




遺言執行者に弁護士が就任することも多いものですが,その場合,多くは,遺言作成の段階から関与しており,特定の相続人の意を汲んだ遺言内容になっていることもあります。




その場合,利益を受けられなかった別の相続人からクレームを付けられるリスクもあり,遺言執行者の公平中立性という観点から懲戒申立てがされることもあり得ますので気を付けなければなりません。






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