以前も少し記事にした成年後見人が本人の財産を横領した場合に後見人を監督する家庭裁判所の過失が認められた事例です(金融商事判例 1392号 広島高裁平成24年2月20日)。




本件の本人は交通事故で負傷し植物状態となってしまったことから,事故保険金の請求のために,保険会社からの勧めもあり,本人の姉の子である姪Aが自分を成年後見人候補者として広島家裁福山支部に対して成年後見の申立を行いました。




平成15年12月の成年後見申立当時,この本人の姪Aは35歳くらいでしたが,幼少のころから知能の発達が遅れ,平成16年1月には中度精神遅滞(精神年齢8歳4か月)と診断されています。この本人の姪Aは限られた範囲内であれば日常会話をすることもできましたが,込み入った話は難しく,簡単な読み書き(ひらがな程度),簡単な金額の計算程度しかできなかったということです。




なお,本人の姉でありAの母親であり,Aとともに横領行為を行ったBについても,平成16年3月に中度精神遅滞(精神年齢7歳2か月)と診断されていたという状態でした。





Aからの成年後見の申立を受けた家裁は,調査官に調査を命じ,調査官は本人やAと面談します。この際,調査官は,Aが知的障害者であるということには気づかなかったと認定されています。調査官は,申立の目的として保険示談金の受領をすることの確認や,Aを本人の成年後見人として選任すること,後見監督区分を「定期的な調査指導を行う必要がある」ものする内容の調査官報告書を作成します。





調査官報告に基づき,家裁の裁判官は,平成16年2月,Aを本人の成年後見人に選任しました。




Aは,保険会社と示談を行い,平成16年10月にA名義の口座に保険金約4770万円が振り込まれます。




成年後見申立てから1年後の平成17年1月,1回目の定期監督時期が到来し,家裁の調査が行われました。





調査官は,Aから預金口座の通帳や領収書を提出させ,AやBも立ち会わせて面接を行いました。




そして,調査官は,保険金約4770万円が振り込まれてから約4か月の間に470万円の引出しがなされていて,残高が約4333万円となっていることを発見します。




調査官はこのことをAに対し質問したところ,Aは「毎月の支出が約25万円,70万円はベッドの購入などの臨時の出費に充てた。急な出費に備えるため300万円は手元に置いてある」とウソの説明をしました。




調査官はこのAの説明を信じ,手元に現金を置くのではなく,毎月必要な出金を口座から行うようにし,通帳にその支出費目を書き込むように,また,A名義の口座から本人名義の口座に預金を移し替えるようにという指示をしました。




この調査官からの指示を受けてAは,成年後見人の肩書を付した口座を新たに開設して,約4333万円の預金を移し替えました。




調査官はこれを確認すると,Aらの横領については疑いを抱くことなく,調査を終了させました。




AとBは,調査官調査が無事に終わったことに安心して,その後平成17年3月初めから9月までの間に約1120万円を横領してしまいます。

その後も知人に金を貸し付けたり,結婚祝いや自宅用ににテレビを購入したり,ソファや指輪などを購入したりとやりたい放題に横領を重ねました。




そして,平成18年2月に,2回目に定期監督の時期がやってきます。




家裁調査官は,預金残高が減っていることなどからAやBに対し質問しますが,Aらは合理的な説明をすることができなかったため,調査官は,平成18年3月28日,早急に弁護士の成年後見人を選任してAらとの間で返済について取り決めさせるべきだとの調査官報告書を提出します。





ところが,これから先の家裁の動きが遅く(3月末ということで人事異動の時期でも重なったのでしょうか,私見です),弁護士が新たな成年後見人に選任されたのが平成18年7月,Aが成年後見人を解任されたのが平成18年10月でした。




調査官の調査で問い詰められて不安を抱いていたAらでしたが,4か月もの間何も動きがなかったことから「また大丈夫だ」と安心したらしく,その間に231万円を横領しています。高裁で,国家賠償を認められたのはこの金額になります。




新たに選任された弁護士の成年後見人は,家裁により不適切な成年後見人が選任されたこと,また,その監督が不十分であったことを理由として,刑事裁判(Aについては懲役1年8月の実刑判決,Bについては懲役1年6月執行猶予3年間)で認定された約3794万円の賠償を求めて提訴したという経緯です。




一審は請求棄却でしたが,高裁は,次の通り判断して,国に対して231万円の損害賠償を命じました。




まず,高裁は,Aを成年後見人に選任したこと自体については違法性を認めませんでした。Aを選任するにあたって,調査官や裁判官がAが本人の財産を横領するというような認識を有していたとまでは認められない,Aに知識障害があったとしてもAには善悪を判断する能力はあったのであるから,Aの知的障がいと横領行為には因果関係がないという判断です。




つぎに,1回目の監督でAらの横領を見抜けなかったことについても違法性はなかったとしています。




1回目の監督の際に調査官がAから受けた説明については一応合理性が認められ,その後,調査官の指示に従って預金管理の方法についても変更しているので,調査官らの調査や指示に違法性はなかったという判断です。




高裁は,2回目の監督において,調査官が早急に弁護士の成年後見人を新たに選任すべきという報告書を提出したのに,すぐに手を打たずに,Aの成年後見人解任まで7か月もかかっている点について,監督に違法性があるとしてこの間に横領された231万円について損害賠償を認めました。



ちなみに,本件では,最高裁の組織的違法とかAらが相談していた人権擁護委員がAが知的障害者であることを家裁調査官に告げなかったことについて違法があったとしてその理由からも国家賠償を請求しましたがこれについては退けられています。




なお,本件は確定しています。


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