たんれん会(9) vol.9
テーマ:ヒロくんの手紙「その答えを君は知ってるよ・・・。」
実は夢の中でおじさんからそう言われた後、こんなやりとりがあった。
「ところで君の学校では、何でマラソン大会のようなものを
『たんれん会』って呼んでるの?」
そんなのぼくが決めたんじゃないから知らんわ・・・。
ヒロは正直そう思ったけれど、一応おじさんの話しに合わせようと適当に答えた。
「体を鍛えることを昔は”たんれん”っていいおったんや。おじさん知らへんのん?」
「いや、さすがにぼくもそれは知ってるよ。」
そして、おじさんは今初めて気がついたようにこうつぶやいた。
「もともと身体を健康に鍛えるために始めたんだね。順位を競うものじゃなかった
のか・・・。」
・・・これにはガ-ンときた。本当にショックだった。同時に今までいろいろ混乱したり
悩んできた自分がとても恥ずかしくなってきた。
きちんと『たんれん会』って名前がついていたのに・・・。
ぼくは返す言葉がなかった。順位がついたりするだけで、ぼくたちはすぐにそれを
競い合いの道具にしてしまう・・・。
ヒロは自分がとても情けなくなった。
その瞬間、前の学校での校内マラソンがふと思い出された。
ヒロがこの学校に転校する前は、同じ大阪でも能豊郡という人口の少ない
山奥の田舎にいた。
何しろ1学年で1クラスしかないような小さな学校だ。
校内マラソンといっても、決まった時期にそれぞれの学年の体育の授業の中で
行うだけだった。
確かに順位はついた。それは先生が書くクラスだよりにも掲載された。
けれども、クラスの男子17人とはみんなふだんからの遊び仲間だ。
みんな誰がどのくらい足が速いかなんてことは校内マラソンがなくても
お互いが一番よく知っている。
ヒロも足は速いほうだと思っていたが、しょせんは都会っ子である。
たまたま親の転勤でその学校にいるにすぎない。
クラスには山猿か?と思うような子がたくさんいて一生懸命走っても
10位以内に入るのが精一杯だった。
「くぼっちゃん(一番足の速い子のあだ名)は、ほんとうにはええなぁ・・・!」
とみんなと言い合うだけで、ただただ楽しかった。
あらかじめお互いのことがわかっていたから、そもそも競争なんて気持ちは
みんなこれっぽっちもなかったのだ。
ただ「一緒にがんばろうなぁ」というだけだ。
ヒロも順位が下でもとても楽しかったのを覚えている。
ぼくたちは結局、相手のことが見えないことによって競争し合うようになる。
もっと言えば、お互いが見えない状況が作り出されることで、ぼくたちは
他の誰かによって競争させられることになってしまう・・・。
そしてその競争をしたくない子もそこに巻き込まれていく。
さらに競争というパワーだけがどんどん大きくなっていくから、
もっとたくさんの人がその競争に巻き込まれていく・・・。
そうなると、もともと何のために始めたのか?なんてことは簡単に忘れられてしまう・・・。
「おじさん、ありがとう・・・。ぼくたぶんわかったと思う・・・。」
ずっとぼくの話しに付き合ってくれたおじさんのあのニコニコした顔を思い浮かべた。
「殿岡っ~!おまえはいつまでボ-ル拾っとんや!5-1-3のホ-ムゲッツ-やるから
はよせんかぁ~!」
「は~い!すんまへん、いますぐいきま~す!!」
野中コ-チの指示にヒロは元気よく笑顔で答えた。
他の人の意見や考えにごまかされない自分になろう・・・
そして今心から楽しいと思えることを精一杯やろう・・・。
ヒロは自分にそう言い聞かせながら、3塁キャンバスまでを全力で走った。
今は少なくとも心から楽しいと思える自分がいる・・・そんな喜びをかみ締めながら。
【筆者より】
第1話の「たんれん会」は以上です。
現在第2話の「戦争について」を執筆中ですが、UPするのがもう少し先になりそうです。
書き次第UPしますのでよろしくお願いします。
みなさまからのご意見、ご感想をお待ちしています。
【あらすじ】
ヒロは大阪に住む小学5年生の元気のいい、ごくふつうの男の子。
そのヒロには、夢の中だけで会うことのできるおじさんがいる。
いつからか、日常で疑問なことが起こると決まって、そのおじさんの
夢を見るようになった。おじさんが誰だかはよくわからない。
おじさんのことは誰にも話していないが、夢の中ではカーおじさん
と呼んでいる。カーおじさんはヒロの疑問について一つひとつ丁寧に
答えてくれ、ヒロの成長を少しずつ助けてくれる。
※この小説はフィクションで、登場人物もすべて架空のものです。
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