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2009-05-08 00:00:00

たんれん会(9) vol.9

テーマ:ヒロくんの手紙

「その答えを君は知ってるよ・・・。」


実は夢の中でおじさんからそう言われた後、こんなやりとりがあった。


「ところで君の学校では、何でマラソン大会のようなものを

『たんれん会』って呼んでるの?」


そんなのぼくが決めたんじゃないから知らんわ・・・。

ヒロは正直そう思ったけれど、一応おじさんの話しに合わせようと適当に答えた。


「体を鍛えることを昔は”たんれん”っていいおったんや。おじさん知らへんのん?」


「いや、さすがにぼくもそれは知ってるよ。」

そして、おじさんは今初めて気がついたようにこうつぶやいた。


「もともと身体を健康に鍛えるために始めたんだね。順位を競うものじゃなかった

のか・・・。」


・・・これにはガ-ンときた。本当にショックだった。同時に今までいろいろ混乱したり

悩んできた自分がとても恥ずかしくなってきた。


きちんと『たんれん会』って名前がついていたのに・・・。

ぼくは返す言葉がなかった。順位がついたりするだけで、ぼくたちはすぐにそれを

競い合いの道具にしてしまう・・・。


ヒロは自分がとても情けなくなった。


その瞬間、前の学校での校内マラソンがふと思い出された。


ヒロがこの学校に転校する前は、同じ大阪でも能豊郡という人口の少ない

山奥の田舎にいた。


何しろ1学年で1クラスしかないような小さな学校だ。

校内マラソンといっても、決まった時期にそれぞれの学年の体育の授業の中で

行うだけだった。


確かに順位はついた。それは先生が書くクラスだよりにも掲載された。

けれども、クラスの男子17人とはみんなふだんからの遊び仲間だ。

みんな誰がどのくらい足が速いかなんてことは校内マラソンがなくても

お互いが一番よく知っている。


ヒロも足は速いほうだと思っていたが、しょせんは都会っ子である。

たまたま親の転勤でその学校にいるにすぎない。

クラスには山猿か?と思うような子がたくさんいて一生懸命走っても

10位以内に入るのが精一杯だった。

「くぼっちゃん(一番足の速い子のあだ名)は、ほんとうにはええなぁ・・・!」

とみんなと言い合うだけで、ただただ楽しかった。


あらかじめお互いのことがわかっていたから、そもそも競争なんて気持ちは

みんなこれっぽっちもなかったのだ。

ただ「一緒にがんばろうなぁ」というだけだ。

ヒロも順位が下でもとても楽しかったのを覚えている。


ぼくたちは結局、相手のことが見えないことによって競争し合うようになる。


もっと言えば、お互いが見えない状況が作り出されることで、ぼくたちは

他の誰かによって競争させられることになってしまう・・・。

そしてその競争をしたくない子もそこに巻き込まれていく。

さらに競争というパワーだけがどんどん大きくなっていくから、

もっとたくさんの人がその競争に巻き込まれていく・・・。


そうなると、もともと何のために始めたのか?なんてことは簡単に忘れられてしまう・・・。


「おじさん、ありがとう・・・。ぼくたぶんわかったと思う・・・。」


ずっとぼくの話しに付き合ってくれたおじさんのあのニコニコした顔を思い浮かべた。


「殿岡っ~!おまえはいつまでボ-ル拾っとんや!5-1-3のホ-ムゲッツ-やるから

はよせんかぁ~!」


「は~い!すんまへん、いますぐいきま~す!!」


野中コ-チの指示にヒロは元気よく笑顔で答えた。


他の人の意見や考えにごまかされない自分になろう・・・

そして今心から楽しいと思えることを精一杯やろう・・・。


ヒロは自分にそう言い聞かせながら、3塁キャンバスまでを全力で走った。


今は少なくとも心から楽しいと思える自分がいる・・・そんな喜びをかみ締めながら。


【筆者より】


第1話の「たんれん会」は以上です。

現在第2話の「戦争について」を執筆中ですが、UPするのがもう少し先になりそうです。

書き次第UPしますのでよろしくお願いします。


みなさまからのご意見、ご感想をお待ちしています。


【あらすじ】


ヒロは大阪に住む小学5年生の元気のいい、ごくふつうの男の子。

そのヒロには、夢の中だけで会うことのできるおじさんがいる。

いつからか、日常で疑問なことが起こると決まって、そのおじさんの

夢を見るようになった。おじさんが誰だかはよくわからない。


おじさんのことは誰にも話していないが、夢の中ではカーおじさん

と呼んでいる。カーおじさんはヒロの疑問について一つひとつ丁寧に

答えてくれ、ヒロの成長を少しずつ助けてくれる。


※この小説はフィクションで、登場人物もすべて架空のものです。

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2009-05-06 00:00:00

たんれん会(8) vol.8

テーマ:ヒロくんの手紙

「お兄ちゃん、起きなよ~!」


「う・・ん、なんでぇ?今日は祝日じゃん・・・。」


あっ!言った瞬間猛烈に目が覚めた。
祝日ということは、所属している少年野球チ-ムの練習日じゃないか。


「昨日は久しぶりにおじさんの夢を見たからな・・・。

それに心と頭の中がグチャグチャで次の日のことなんてさっぱり

考えてなかったや・・・。」


「お兄ちゃん何か言った?」


「なんでもあらへん。すぐ起きるからもう起こしにこんでもええでぇ。」


明子は、変なおにちゃん・・・と言いたげな表情でヒロの部屋のふすまをしめた。


その日の午後、ヒロの所属するシルバータイガースが小学校のグランドで

練習を行っていた。


ヒロの学年の子供は33人いて、Aチ-ムとBチ-ムに分かれている。

Aチ-ムが野球のうまい子たちでヒロはもちろんBチ-ムのほうだ。


野球については自分が下手なことは全然関係なかった。

野球をやっている時はただ楽しくて、それだけで十分だった。

そりゃいつもヒットを打ちたくて打席には入るけど、打てなくても悲しくは

なかった。それにチ-ムの仲間たちと一緒に野球をするのが楽しかったから、

その誰かを蹴落としてAチ-ムのほうに昇格するために努力しようなんて

考えたことはなかった。


「殿岡なにやっとんねん!わしはおまえらのお守りをしにきとんや

ないねんぞ!!」


ヒロが2度目の暴投をするのを見て、鬼コ-チと言われる野中コ-チからの

激が飛んだ。ヒロは内野ではファ-ストからもっとも遠いサ-ドを守っている。

しかし、よりによって暴投の数が他の子より群を抜いて多かった。

投げる瞬間ファ-ストと違う方向を向いてしまうのだから仕方がない・・・。


「すみません!」


こういうときはファ-ストの子がかわいそうだから、反省も含めて自分で

ボ-ルを拾いに行くことになっている。


ヒロはボ-ルを拾いに行きながら考えた。

このBチ-ムはよそのチ-ムとの試合にほとんど勝ったことがない。

今年も今の所1勝18敗というさんざんな成績だ。

でも、何でこんなに楽しいんだろう・・・。


みんな野球が好きなんだ・・・。ヒロはそう思った。

頭で考えるんじゃなくて心からただ野球をしている時の自分が好きだから・・・。

周りにいるのもライバルじゃなく仲間だから・・・。

みんなが一つのチ-ムになっているから安心して自分でいられるし、

きっと楽しいんだ・・・。



【あらすじ】


ヒロは大阪に住む小学5年生の元気のいい、ごくふつうの男の子。

そのヒロには、夢の中だけで会うことのできるおじさんがいる。

いつからか、日常で疑問なことが起こると決まって、そのおじさんの

夢を見るようになった。おじさんが誰だかはよくわからない。


おじさんのことは誰にも話していないが、夢の中ではカーおじさん

と呼んでいる。カーおじさんはヒロの疑問について一つひとつ丁寧に

答えてくれ、ヒロの成長を少しずつ助けてくれる。


※この小説はフィクションで、登場人物もすべて架空のものです。

2009-05-01 00:00:00

たんれん会(7) vol.7

テーマ:ヒロくんの手紙

「いいところまでいってたんだけどなぁ。」


おじさんがニコニコしながら言った。


そう言えば、おじさんとは心で会話ができるんだった。

だから今、ヒロが考えていた思考の流れもおじさんに伝わっていたらしい。


「君は頭で考えたことと心で感じたことが食い違うから悩んでいた。

だから混乱していたんだということがわかった。

そして、頭が考えたことに、心や気持ちが従わないことで腹を立てている

自分にも気がつくことができた。そこまではとってもいい整理だったと思うよ。」


おじさんにそう言われて、ヒロは今までの作業が少し報われたような

うれしい気分になった。


「ところで、そもそも頭で考えたことってどんなことだと思う?」


おじさんはこれからが本番とばかりに、また謎めいた質問をヒロに投げかてきた。


「頭で考えたこと?・・・う~ん・・・頭で考えるのはいつも”これは正しい”

”これはダメ”っていうようなことじゃないかなぁ?・・・。

あと”これをやると怒られる”とか”これをやれば褒められる”とかね。

よくわからないけれど・・・。」


「そう、みんなそんなことを始終考えている。確かにそれは頭の機能の

一つかもしれない。いわゆる『判断』というやつだ。」


おじさんは、空っぽになっていたコップにハ-ブティーを注いでくれた。

そして、自分のコップに口をつけながら話しを続けた。


「問題なのはその判断の根拠や中身なんだ。頭で考えたことっていうのは、

単に自分以外の誰かの意見や考えをそのまま信じている場合が多い。

君のような子供はもちろん、大人だってたいがいはそうさ。」


「どういうこと?」


いきなりそんな難しいことを言われてもヒロにはさっぱりわからなかった。


「なに、簡単なことさ。たとえば、君は何でマラソン大会に向けて

一生懸命練習したの?」


「それは去年3位になったのがうれしかったから。

そして今年もそれくらい取りたい、いや、がんばればそのくらいには

入れると思って・・・。」


「でも、どうしてうれしかったの?」


「それは3位以内に入ると、クラスで発表されて『すごいね~』ってみんなが

ぼくを見る目が変わったんだ。親も『すごいことだ』って褒めてくれたし・・・。

でも、あれっ?・・・これってみんなおじさんの言った自分以外の人の

意見や考えってこと?・・・」


「そう、よくわかったね。もちろん去年の場合はいつもと違う体験ができて

君の心もちょっとはうれしかったのかもしれない。でも今年は違う。

君の心はうれしくないと言っている・・・。さて、いったいどっちが君自身

なんだろう?」


ヒロは考えた。そうか、今までたんれん会で入賞するためにがんばって

きたけど、それは周りの人が『すごい』と言ってくれたのがうれしくて、

みんなの考えを自分の気持ちだと勘違いしただけなのかもしれない。

ぼく自身の心が本当にそう思ったわけじゃなかったのか・・・。


じゃぁ、ぼく自身の心や気持ちはどこにあるんだろう?・・・。

これじゃあまた堂々めぐりじゃないか・・・。


ヒロはちょっと暗い気分になった。

けれど目の前をみると、おじさんがいつものニコニコした表情でこっちを見ていた。


「その答えは君が知っているよ・・・。」


おじさんは、ただ一言だけつぶやいた。



【あらすじ】


ヒロは大阪に住む小学5年生の元気のいい、ごくふつうの男の子。

そのヒロには、夢の中だけで会うことのできるおじさんがいる。

いつからか、日常で疑問なことが起こると決まって、そのおじさんの

夢を見るようになった。おじさんが誰だかはよくわからない。


おじさんのことは誰にも話していないが、夢の中ではカーおじさん

と呼んでいる。カーおじさんはヒロの疑問について一つひとつ丁寧に

答えてくれ、ヒロの成長を少しずつ助けてくれる。


※この小説はフィクションで、登場人物もすべて架空のものです。

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