【コラム】 いい人③
テーマ:営業トークのテクニック いい人の条件の三番目は、自分のことを受け入れてくれるということです。
これはある意味で、非常に難しい話です。買いたくないと客が思っている場合、その客を買う気にさせるのが営業マンだからです。よその商品を買おうか迷っている相手に、自社商品を買わせるのが営業マンだからです。
でも、買いたくないと思っている相手を説得しようとすれば、相手の意思を否定することになってしまいます。客が買いたいと思っている商品を貶してしまえば、相手の意見に反論していることになってしまいます。
繰り返しますが、営業が売るのは商品ではありません。自分自身です。自分自身を売るためには、ここで相手を否定してはいけないのです。逆に、どんな考えでもそれを受け入れてやることで、突破口を見出すことができるのです。
「中学生用の教材? そんなもの、本屋でいくらでも売ってるじゃないか」
「そうですよね。大きな本屋さんに行けば、いい参考書がいっぱいありますものね」
「だいたい、いくらいい教材買ってやったって、本人がやる気を出さないことには何の役にも立たないじゃないか」
「おっしゃるとおりですね。教材の力だけで成績が上がるなら、苦労はしませんよね」
「だいたいあいつには、小さいころから塾にやらせてやったり、家庭教師を付けてやったり、散々金をかけてやってきたんだ。なのに、ぜんぶ中途半端で投げ出してしまって」
「そうですか。お子さんのために、お金と愛情をかけて育てていらしたんですね」
「いや、そんなたいそうな話じゃないけどね」
この会話の中で、教材なんて普通に本屋で売っている。いくら教材がよくても、本人にやる気が無ければ無駄だ。この二つの断りの、どちらも否定していません。ですが、相手との距離は確実につめていっています。我が子が勉強をしないという弱みまでつかみ、切り崩す糸口まで手に入りました。
相手から出てきた二つの断りは、もう否定する必要はありません。もともと、お前の教材を買う気は無いぞという意思表示をするために言い出したことです。こちらのことをしっかり信用してもらえば、さっき言っていたことなど忘れてすんなり契約してくれます。
もし、相手の口にした断りを、理屈で打ち消して説得しようとしたらどうでしょう。たとえ巧みな弁論で相手の論を否定できたとしても、感情のしこりは残ります。相手はさらに新しい断りの理由を考え出して、自分を守ろうとするでしょう。
もしかすると、相手はさっきと同じように、自分の子どもがあまり勉強しないことを教えてくれるかもしれません。ですが、感情のしこりを残したままの状態で、この情報は有用な決め手にはなりません。うちの子は勉強しないから、教材買っても無駄なんだ。さよなら。これでおしまいになってしまいます。
とにかく、相手を受け入れてやることです。どんなことを言い出しても、あなたが正しいと受け入れてやることです。
「暖簾に腕押し」という言葉があります。相手はなんとか理由を付けて、自分はお前の商品を買う気は無いんだということを納得させようとするのですが、それを全部受け入れられてしまえば、対立できない。喧嘩ができない。なんというか、相手に敵意を持たなければいけないのに、うまく憎みきれないという状態に陥っていく訳です。
そうこうしているうちに、逆に営業マンに対する敵対意識が薄れていきます。なにを言っても受け入れてくれる安心感と、議論をしている時のように頭をフル回転させる必要の無いまったりした会話の中で、気持ちのガードが緩んできます。
相手をそういう状態にさせれば、こちらの言う話もすんなり聞いてくれるようになります。
付け加えますが、前の会話で、相手が自分の子どもを否定している言葉尻に乗って、相手の子どもの悪口を言ってはいけません。自分が言う分には平気だが、人から言われると腹が立つというのが親心です。くれぐれも、お子さんの悪口は言わないことです。
だからと言って、さっきの会話でお子さんの肩を持つと、相手の意見を否定することになってしまいます。お子さんの悪口にはいっさい同意せず、悩んでいる気持ちだけ受け入れてやるということです。
例えば、こんな感じになります。
「なかなか勉強に身が入らないというのは、どちらかというと体を動かすのが得意なお子さんなんですか?」
「ああ、スポーツは得意だよ。今のサッカー部でも、二年生でもうレギュラーだからな」
「サッカーをなさっているんですか。それはすごいですね」
「いや、クラブばっかりやって、ちっとも勉強してくれないから困ってるんだよ」
「そうですね。勉強とクラブと、両立してくれたらご安心ですよね」
「机に座ったと思ったら、もう居眠りしてるんだよ。せめて宿題くらいはちゃんとしろって言っているんだがね」
「疲れているんでしょうかね。クラブの練習は、きついんですか?」
「きついと言ったって、他の子はちゃんとそれで良い点を取ってるんだから。他の子にはできていることがなんでお前にはできないんだと、いつも怒ってるんだよ」
「それはご心配ですよね。ちゃんと勉強さえしてくれていれば、いくらクラブに熱中していてもご安心なんですけどね」
「そうなんだよ」
お子さんの悪口は、いっさい言っていません。それでいて、お父さんの心配する気持ちは全部受け入れています。まあ、こんな感じで会話を回していく訳です。
ここまで会話を回すと、もう営業マンではなくなっています。カウンセラーとか、電話相談の相談員みたいに相手の話の聞き役に回っています。
それでいて、勉強とクラブの両立という、後々の話の切り口はちゃんと確保している。まあ、営業トークとしてはかなりうまくいっているパターンです。
こんな感じで、相手の心に切り込んでいくのです。
コラムの目次
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1 ■初めまして
相手を受け入れるって仕事でもSMでも基本ですよね