【コラム】 いい人①
テーマ:営業トークのテクニック 前回の話の続きです。先ず、いい人編。
こいつ、なんだかいかがわしいなと思われていたのでは、商品を買ってくれません。この人はいい人だ、この人は嘘を吐く人じゃない。そう思ってもらわなければ契約は取れません。
では、いい人になるためにはどうすればよいかという話です。これは、ある優秀な営業マンが私に教えてくれた、「いい人」の定義です。
① 自分のことを好きになってくれる人
② 自分のことに興味を持ってくれる人
③ 自分のことを理解してくれる人
④ 自分のことを受け入れてくれる人
今回は、「自分のことを好きになってくれる人」の話です。
好きとか嫌いとかいう感情は伝染するという話があります。相手のことを嫌っていると、いつの間にか相手の方もこちらを嫌い始めます。相手に好意を持っていると、いつの間にか相手も自分に好意を持ち始めてくれたりします。
もちろんこれは、一般論です。いくら自分に好意を持ってくれたとしても、自分のストーカーを愛することは難しいでしょうし、世の中には、自分を嫌っている相手、自分を邪険に扱う相手に惹かれてしまう、精神的マゾヒストも居ます。
でも、それは特殊なケースです。普通人は、自分を好いてくれている人を好み、自分を嫌っている人を嫌うものです。
そうなると、営業マンにとって、顧客に好意を持てるか持てないかは、とても大きな問題です。自分が相手のことを嫌っていて、その嫌いな相手から契約を取るのは難しいからです。
訪問営業でも電話営業でも、売れていない営業はすぐに分かります。客宅から戻ってきたとたん、今訪問してきた家の人間の悪口を言い始める営業、電話を切ったとたん、今まで話をしていた客の悪口を横の人間に言い始める営業。こういう人は、例外無く成績が落ち込んでいます。成績が落ち込んでいるから客の悪口が言いたくなるのか、悪口を言うから成績が上がらなくなったのか、どちらなのかは分かりません。おそらく、両方でしょう。
客の悪口を言いたがる営業の理屈は、
「言って良いことと悪いことの区別くらい、ちゃんと付いている。今ここで言っているようなことを、客の前で言うことは絶対に無い」
まあ、だいたいこんなことを、誰でも言う訳です。
でも、言っているのです。本人が気が付いていないだけで、言葉の端々にそういう気持ちというのは表れてくるものなのです。
ある日、電話営業の仕事をしている時、隣に座って電話していたおばちゃんが、こんなことを言い出しました。
「だからね、奥さん。こんなこともできないで馬鹿な子だとか思っちゃ駄目なの。子どもは、褒めて育ててあげなくちゃ」
すごく優しいことを言っているようですけど、横で私が聞いている限り、電話の向こうに居るお母さんは自分の子を馬鹿だなんて一言も言っていないのです。いきなり我が子を馬鹿呼ばわりされて、さぞ驚いたことでしょう。
こんなこともできないなんて、馬鹿な子どもだと思ったのはこのおばちゃん自身なのです。一生懸命話しているうちに、その言葉を相手の口から聞いたような錯覚に陥ってしまっているのです。だからこんな、不用意な発言をしてしまうのです。
いや、もしかすると横で聞いている私が気付いていないだけで、電話口の向こうのお母さんが本当にそういうことを言っていたのかもしれません。もしそうだったとしても、こちらの方から馬鹿なんて言っちゃ不味いでしょう。相手のお母さんにしてみれば、
「私が言うのはかまわないけど、お前が言うな!」
って気持ちだったんじゃないかと思います。
案の定、このお宅で契約は取れませんでした。失言おばちゃんは、ちょうど電話を切り終わった私に、今かけた家の子どもがどんなに駄目な子なのか、その子を育てた親がどんなに子どもを甘やかす駄目親なのか、目を三角に吊り上げて私に熱弁してきます。こんなおばちゃんの話につき合わされて時間を潰しているより、私は一軒でも余計に電話をかけたいと思っていたのですが、客の悪口に夢中になっているおばちゃんは、私のことなど気遣うつもりはまったくありません。
私はやんわりと、おばちゃんのトークに失言があったことを教えてあげたのですが、おばちゃんは、自分がそんな言葉を使ったことをまったく覚えていませんでした。
つまり、そういうことです。露骨に相手の悪口を言ったり、当てこすりや皮肉を言ったりしなかったとしても、言葉の端々、所作の一つ一つに、腹の中の悪意が滲み出してくるのです。
前回話をした営業の神様は、客宅の玄関口に立ってからインターフォンを押すまでの間に、自分にこう暗示をかけるそうです。
「この家に居る人は、お父ちゃんもお母ちゃんも、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、お爺ちゃんもお婆ちゃんも、猫も犬もみんな大好き!」
そしてドアを開けてもらって一番最初にすることは、出てきた人の良い所捜しなんだそうです。この人は目がきれいだ。この人は鼻筋が通ってカッコ好い。この人はスタイルが良い。この人は足が長い。この人は上品な感じだ。この人は優しそうだ。この人は明るくて、笑顔が素敵だ。
そうして見付けた良いところを手掛かりに、その客のことを先ず好きになるのだそうです。そこから先は、一種のラブコール。私はあなたのことが好きだ、好きだ、という気持ちを、相手に投げていくのだそうです。お客の方でも神様の気持ちを受け入れてくれて、私もあなたのことが好きかもなどと感じてもらえれば、契約成立なのだそうです。
いくら相手に好意をもっているふりをしても、腹の中で別のことを思っていればそれは言葉の端々に滲み出てきます。反対に、相手に本気で好意を感じることができれば、相手に対して優しい心遣いができますし、心の籠もった言葉が自然に口を衝いて出てきます。
詐欺師はカモを騙す前に、先ず自分でその嘘を信じ込もうとするそうです。営業の仕事は詐欺だとは言いませんが、詐欺ギリギリの局面も多いと思います。
この場合も、まさにそうでしょう。出会ったばかりの、しかもたいていの場合は自分の好みのタイプではない相手を好きだと自分に思い込ませてしまうのです。そうして自分が思い込むことで、相手をこちらの熱意に巻き込んでしまうのです。
話はちょっと変わりますが、電話営業などをしていると、毎日何件か、ひどく攻撃的な顧客と出会うことがあります。なにもそこまでと言いたくなるような、酷い扱いをされることがあります。
私は気にしません。訪問営業や電話営業をしている限り、最初の断りは挨拶ですから。相手の事情を考えもせずに電話したり家に押しかけてきたりして、別に売ってくれと頼んだ訳でもない商品を売りつけようとしてくる訳ですから、反感を感じて当然です。
そんな時も私は、相手の感情的な非難を受け流しながら、なんとか取っ掛かりを付けようと頑張ります。
でも、中には本当に上手に喧嘩を売ってくるお客さんも居ます。思わず、ムカッとくることも多々あります。
そんな時、私は素直に引き下がって電話を切ります。客に対して本気で怒らされた時点で、本気で敵意を感じさせられた時点で、営業マンの負けですから。
コラムの目次
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