2008-10-19 02:38:47 echigoya-smwriterの投稿

【コラム】 ザ・オナニー -ドアインザフェイステクニック-

テーマ:営業トークのテクニック

 私はエロ小説家です。毎日、よくそんないやらしいことばかり考えていられるなというくらいに、いやらしいシーンを毎日考えて暮らしています。

 そんな私は、時々こんな質問をされることがあります。影響を受けた、官能小説家は誰ですか?

 意外にも、いや、私の作品を知っている人にはあまり意外ではないかもしれませんが、私はあまり官能小説というものを読みません。もちろん、団鬼六先生や宇能鴻一郎先生の作品は好きでしたが、影響というほど強いものを受けているかと訊かれると、ちょっと疑問です。

 むしろ、一般の小説に紛れ込んでいる官能シーンの描写に影響された部分が大きいように思います。そういう描写の引用を、『文学秘宝館』に集めてありますので、興味があればご覧ください。特に強い影響を受けたのは、山田風太郎先生と半村良先生ではないかと思います。

 そんな中で、一番影響の強い作品というと、実は小説ではないのです。アダルト・ビデオの作品で、代々木忠監督の作った『ザ・オナニー』のシリーズ。この作品こそ、私のエロの原点なのです。

 ということで、今回は、この『ザ・オナニー』シリーズがいかにいやらしい作品だったか、『人妻篇』を例に挙げて説明してみようと思います。

 解説の①。この作品に出てくる女性は、自分がアダルト・ビデオに出演することは了承しているようです。ただ、今カメラを回しているこの時が、撮影の本番とは思っていない。おそらくは、カメラ・リハーサルだとか、カメラ・テストを兼ねた顔合わせだとか、せいぜい、紹介のためのインタビューの撮影だくらいの認識しかないのです。

 つまり、今日、今、濡れ場やエッチなシーンを撮る心構えはまったくできていない。そんな女性を言葉巧みに乗せて、裸にひん剥いて、一人エッチをさせて、いかせてしまおうというコンセプトの企画物なのです。

 解説の②。おそらく監督は、自分一人でゲームのルールを決めています。それは、監督自身は女性に一切手を触れないということ。服を脱ぐのを手助けしたり、キスしたり乳房を揉んだりして女性をその気にさせるのではなく、あくまでも女性が自分から服を脱ぎ、自分からオナニーを始めるということにこだわっていくのです。

 Vが始まると、いきなりホテルの中です。フレームに映っているのは女性のバスト・ショット。このビデオ、もしかすると監督が一人でハンディカメラを持って撮影しているのかもしれません。そうでないとしても、おそらくかなり少人数の撮影隊だろうと思います。

 こんにちわなんて挨拶があってインタビューが始まる。当然アダルトビデオですから、エッチな質問が連発します。ご主人とのエッチは月にどれくらい? とか、エクスタシーはもう知ってるの? とか、クリ派? 中派? なんて質問が、だんだん増えてきて、いかにもアダルトビデオという雰囲気になってきます。

 そのうちに監督が、女性の服を脱がせようとし始めます。暑いね、上着脱いだら? みたいな感じで。女性は、笑いながら、でもきっぱりと、それを断ります。そういうやりとりが、二度、三度と続きます。

 まあ、この辺は前哨戦ですね。シリーズの中にはこの段階で上半身ブラ一枚まで脱いじゃう人も居たんですけど、たいていの場合、脱ぎたがりません。

 代々木監督自身も、この時点では脱いでもらえない方が展開としては好ましいと思っていたんじゃないでしょうか。

 ここで突然、代々木監督はバイブレーターを取り出します。そして、ねえ、こんな玩具、知ってる? と質問します。

 解説の③。バイブなんて今は誰でも知っていますが、当時はまだそんなに普及していませんでした。AVで女の子を悪戯なんて作品も、当時はありませんでした。小説に出てくるのも昔ながらの張り型なんかですし、私自身、このビデオで初めて、電動バイブというものの存在を知ったのでした。

 そんな時代でしたから、女性も、男根の形をそのまま模した玩具にびっくりして、どうしてよいものか分からない様子でそれを眺めています。

 監督に、手に取って見てごらんよと言われて言う通りにします。スイッチを入れてご覧と言われてその通りにします。すると、ブーンというモーター音がなって振動し始めます。女性はびっくりしてそれを机の上に放り出す。バイブは机の上でいやらしい生き物のように身をくねらせています。

 もう一度手に取って胸に当ててご覧と言われるのですが、女性はどうしても触りたがりません。机の上で動いているバイブを気持ち悪そうに眺めているだけです。監督がいくら勧めても、絶対に手に取ろうとはしません。

 諦めた監督は動き続けていたバイブの電源を切ります。そして新しいバイブを取り出します。

「なら、これならどう?」

 ですが、次のバイブも、形は違いますが男根の形を、それもけっこう大きめの男根の形をかたどっていることに変わりはありません。女性は、これにも手を触れようとしません。体がだんだん、後ろに引けていくのが分かります。

 次に監督が持ち出してきたのは、亀頭の所に顔のようなものが付いているバイブです。

「ほら、お人形だよ、かわいいね」

 いや、むしろ普通のバイブよりもグロテスクです。監督の言い方がおかしくて女性は少し笑ってしまいますが、どうしても手に取ろうとはしません。

 そんなやり取りを繰り返して、最後に監督が取り出してきたのは、ピンク・ローターです。少し大きめのうずらの卵みたいな形をしたバイブです。色も、文字通りのピンク色です。それを見た女性は、思わず呟きます。

「あ、これかわいい」

「これなら大丈夫でしょ?」

「はい。(目の前に並んでいるバイブを指して)これはもう仕舞っちゃってください」

 なんだ、ピンク・ローターになって急にそんなに素直になるのはおかしいじゃないか。シナリオ通りに演技しているんじゃないかと思われるかもしれません。でも、この時の監督の話の持っていき方は、ちゃんと営業テクニックの理にかなっているのです。

 ドアインザフェイステクニックと言います。目の前でピシャリと閉まるドアという意味だと思います。相手に一度断らせて、精神的負い目を感じさせることでその後の交渉をスムーズに進めるという話法です。

 例えば、誰かから一万円、お金を貸してもらおうとします。相手があまり親しくない人だった場合、普通貸してもらえないでしょう。

 そこで、最初はもっと大きな金額で切り出すのです。どうしても五十万要るんだ、なんとか貸してもらえないだろうかと。

 まあ、断られます。それでも、助けると思って、なんとか貸してくれと食い下がります。本当に五十万必要なんだと、自分で思い込むくらいの真剣さが必要です。

 そういうやりとりをしばらくして、相手がどうしても貸せないということを確認したうえで、改めてこう頼みます。

 ならば、せめて一万円だけ、貸してもらえないだろうか。

 五十万円という高いハードルで駆け引きしていて、こちらがハードルを一万円と下げたことで、五十万はとても貸せないが、一万円ならという気になってきます。最初から一万円と言われていたら貸していなかった人が、この流れの中だとつい貸してもいいかなという気になってしまいます。

 断っておきますが、前半の話で相手を怒らせてしまったり、関係を悪化させてしまったら成立しないトークです。当たり前の話ですが。

 ここでの監督の話の持っていき方は、このドアインザフェイステクニックに従っています。もし最初からピンク・ローターを出していても、女性は躊躇していたでしょう。男根そのものの形をしたバイブで最初の駆け引きをしていたからこそ、ピンク・ローターをすんなりと受け入れたのです。あのグロテクスなバイブは絶対に嫌だけれど、これは小さいし形もかわいいからいいか、と思わせたのです。

 女性が、ローターを手に取ります。スイッチを入れてと言われて、スイッチを入れます。ローターが振動し始めますが、こうなることはバイブで体験済みですから、今回は女性も驚きません。

「それをちょっとだけ、お乳のところに当ててごらんよ」

 女性はわざと、乳首のポイントを少し外した辺りにそれを当てます。それでも振動は伝わったようで、ローターが触れた瞬間、女性はあっという感じの表情になります。慌ててローターを、胸から外します。

「どう? 気持好いでしょ?」

 女性は、なんと答えたらよいか分からない表情で黙っています。でも、ローターを置こうとはせず、じっと手に持ったまま、振動を眺めています。

 女性の防御の一角が、崩された瞬間です。

 話が長くなりますので、後半の話は次回に。




コラムの目次

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