【コラム】 褒め殺し話法
テーマ:営業トークのテクニック セールス・トークの基本にイエス・バット話法というのがあります。相手の言葉にすぐ反論するのではなく、相手の意見をいったん認めてからこちらの意見を述べる話し方です。私の工夫した「褒め殺し話法」は、これの一種です。
以下は、電話のマイライン契約を変更してもらうというトークです。
「もしもし、お忙しいところ、失礼します。私、○○社の●●と申します。今日は電話代の節約のできるサービス、◎◎のご案内でご連絡を差し上げたのですが、××様、現在お電話のマイラインはどちらの会社をご利用ですか? あ、△△社ですか。でしたら、これこれこういう内容の▲▲というサービスをご利用ですね。お電話代も安くなって、何の不満も無いとは思いますが、ただ、私どもの会社もお得なサービスをご用意できますので、あの、××様、失礼ですが、どうしても△△社でないと困るというような、特別なご事情でもお持ちでしょうか?」
骨組だけを示すと、例えばこういう話です。一つ一つ、解説していきます。
「もしもし、……現在お電話のマイラインはどちらの会社をご利用ですか? あ、△△社ですか」
マイラインの書き換えをお願いするのですから、先ず現在使っているマイラインがどこの会社か、調べなくてはなりません。で、最初の仕事は、現在使っているこの会社を解約させるための、他社潰しです。
「あ、△△社ですか。でしたら、これこれこういう内容の▲▲というサービスをご利用ですね」
予め、各社のサービスの名称と内容を一覧表にした資料を渡されていますので、すぐにそれを読み上げます。社名を聞いたとたん、サービス内容を即答することで、こちらが業界の内容に通じている印象を与え、信用させるのです。
もう一つの目的があります。今使っている会社名を言ったところで、相手はこちらが、その会社のサービスよりも自社のサービスの方が優れているということを熱弁し始めるはずと身構えています。それが逆に、商売仇のサービスの宣伝を語り出す訳ですから、いったい何をしようとしているのか分からなくなって、ちょっと混乱します。
理解できないものの正体は知りたいと思うのが人情です。この男はいったい、何を話そうとしているのか、見極めようとする相手の注意は、こちらの話の内容に集中してきます。
そこで、相手の聞く姿勢ができてくる訳です。
「お電話代も安くなって、何の不満も無いとは思いますが」
ここが、褒め殺しです。ただ、いいですねぇではなくて、何の不満も無いですねと極端な褒め方をするところがミソです。
これを聞いて、何とも思わない人も居るでしょう。ですが、その会社を利用している間に何か不満を持ったことがある人は、そのイメージが頭の中を掠めて通ります。「安くなると言われたから加入したのに、加入前とほとんど変わらない」とか、「いつかの窓口の社員の対応は頭に来た」とか、「電話サポートに電話しても全然繋がらない」とか、何かそういうイメージが頭の中に浮かんできます。
つまり、こちらが悪者になって他社の悪口を言うのではなく、自分で勝手にその会社の悪いイメージを思い浮かべてもらうのです。
「ただ、私どもの会社もお得なサービスをご用意できますので」
前の部分で、今使っている会社に対する不満な点を思い浮かべた人は、この部分で、この会社のサービスの説明を聞いてみて、今のものとどう違うのか、比較してみようかなと思い始めます。
でも、まだこちらの商品の具体的な説明はしません。
「あの、××様、失礼ですが、どうしても△△社でないと困るというような、特別なご事情でもお持ちでしょうか?」
前の部分と、日本語の繋がりがおかしいですよね。でも、営業トークを紙に書き出すとこんなものです。むしろ、会話を飛躍させることで、会話のイニシアチブを相手に与えないようにする訳です。
これは、テスト・クロージング(こちらの話に、相手が興味を持ち始めたかどうかの確認)です。今までの話で想定しているような心の動きが実際に起きているかどうか、この質問で確認するのです。
親戚が関連会社に勤めているとか、海外に頻繁に電話するので国内の通話割引よりも国際通話の割引の方が魅力で今の会社を使っているとか、本当に変えにくい人はここで判明します。その場合、もうそれ以上営業しません。
本当はそんな理由など無いのに、嘘を吐いて断ろうとする人もきっと居るでしょう。
その場合も、私は切ります。まったく興味が無い相手にしがみ付くのは時間の無駄ですから。
ですが、このトークはけっこうよく引っ掛かります。うまくこちらの手に乗った相手は、だいたいこんな感じの返事をしてきます。
「(笑って)いや、別にそんなたいそうなものがある訳じゃないけどね」
ちなみに、私が電話の仕事をしていた頃、周りの同僚の間では褒め殺しの部分よりもこのテスクロのフレーズの評判の方が良かったみたいです。気が付くと、周りのあちこちからこのフレーズが聞こえてきました。
ただ、相手に断りのきっかけを与えるのが怖いのか、みんな最後の質問の箇所は変えて使っていましたけど。
「もし、どうしても△△社でないと困るというような特別なご事情をお持ちでなければ、マイラインの切り替えをお願いしたいと思いまして」
別にマイラインを変えても良いよと、当の本人の口から言わせる方がずっと効果的なんですけどね。
さて、テスクロがうまく言って、こちらの期待した返事が聞けたとします。
「(笑って)いや、別にそんなたいそうなものがある訳じゃないけどね」
「あ、でしたらぜひ、当社のサービスもご検討ください。お電話代を、かなりお安くできますので」
これで特に強い反発が返ってこなければ、私はもう他社潰しは済んだものとして話を続けていきます。実際、あとで他社の問題がぶり返されることはまずありません。
この後すぐに自社商品のPRを始めることもできますが、私はしません。魚釣りに例えるならば、これはまだ最初のアタリが来た状態で、急いで引き上げようとすれば魚はバレてしまいます。ここからさらに会話を回していって、相手に釣り針をしっかり呑み込ませるのです。
具体的な商品の説明をするのは、相手が完全に買う気になってからです。
コラムの目次
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