論語で読む孔子の人柄 (21)
★良寛の詩「孔子賛」は『論語』で孔子を祖述する★
井上ひさしの戯曲『天保十二年のシェイクスピア』は、
全作品の有名なセリフを網羅した野心的な作品ですが、
良寛さんは、賢人孔子を讃える65文字の詩文の中に
『論語』の5つの章と『詩経』の詩片の計25文字を
織り込むことにより、類稀な孔子の人物像をみごとに
祖述しており、今回は言わば『論語』の斜め読みです。
以下、原詩と(→読み下し:
題:「孔子賛」 (→「孔子の賛」
異哉 (→異なるかな
瞻之在前忽然在後①(→これを瞻(み)て前にあるかとすれば
(→忽然(こつぜん)として後にあり
其学也切磋琢磨 ②(→その学や 切磋琢磨
其容也温良倹譲 ③(→その容や 温良 倹譲
上無古人下無継人 (→上に古人無く下に継ぐ人無し
所以達巷纔嘆無名④(→ゆえに達巷は わずかに名のなきを嘆じ
子路徒閉口 ⑤(→子路 徒らに口を閉ざす
孔夫子孔夫子 (→孔夫子 孔夫子
太無端 (→はなはだ 端無し
唯有愚魯者 ⑥(→ただ 愚魯なる者あり
彷彿闚其室 (→彷彿として その室をうかがう
このスケールの大きい詩を意訳するのは恐れ多いので、
良寛研究に生涯を捧げた谷川敏朗先生(1929-2009)の
労作『校注良寛全詩集』(春秋社)をそのまま読みます。
織り込まれた25文字の原典出処は、以下の通りです。
①孔子の大きさ (『論語』子罕第九の8)
②孔子の学び方 (『詩経』衛風エイフウ淇奥キイク)
③孔子の人がら (『論語』学而第一の10)
④孔子の人間力 (『論語』子罕第九の2)、
⑤孔子の円満さ (『論語』述而第七の17)
⑥孔子の師弟愛 (『論語』先進第十一17)
以下、谷川先生の<語釈と解釈(アンダーライン箇所):
< すばらしいことよ。
<①この人を仰ぎ見て、前におられるかと思うと、
< たちまち後ろにおられる。そのように何ごとも
< 思いのままにできる方だ。
<②その学問は深く磨きあげ、
<③その態度は穏やかでつつしみ深い。
<☆このような方は、それ以前の人には見えず、
< また後にも継ぐ人はいない。
<④そのため中国の古い達巷という村の人々は
< 「孔子さまは何ごともみなあ知り尽くしておられる
< ので、わずか一つの芸の専門家として名前をおよび
< することなど、とてもできない」と感心したし、
<⑤葉公から「孔子とはどのような人物か」と尋ねられた
< 子路は、とても一口では述べにくいので、ただ黙っていた。
<☆孔先生、孔先生。
< あなたは円満で、まったくほころびの糸口さえない。
<⑥そこで正直すぎる弟子の高柴やのみこみのよくない曾参は、
< 孔先生の学徳をそっくり身につけようと、その深さを
< ひそかに望みみて努力し、やがてはえらい人になった。
*谷川先生の語釈の該当する行に①~⑥の出処を加え、
『論語』の原文に該当する箇所をゴシック文字とし、
先生が解釈した箇所にアンダーラインを付しました。
少年時に大森子陽塾に入門し漢籍に親しみ、22歳で
大忍国仙師のもとで11年を漢籍や漢訳された仏典で
研鑽を積み、長じて万葉集・古今集などにも親しんだ
良寛さんにとって、釈迦と孔子と道元禅師と芭蕉翁は
敬愛してやまない先哲としていつも身近にありました。
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