ブロッギン・エッセイ~自由への散策~

水俣病は決して水俣地方におこった気の毒な特殊な事件ではない。わたしたち自身の中にも身近な周囲にも日常的に起こりうる事件であって,余所ごとではない。将来起こりうる事件である。(原田正純『いのちの旅』)


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 マクロンという人物が一体何者なのか,その全体像を私はまだよく把握できていないのだけれども,とりあえずフランス国民は今回の大統領選で極右の排外的で不寛容な政策に「待った」をかけたという理解でよいのではないだろうか。フランス国民の真っ当な判断・選択と見るのは安直だろうか。だが,変態ウエルベックが『服従』で描いたようなミゼラブルな崩壊状況にならなかったことだけは確かである。すなわちウエルベックの小説では,大統領の決選投票で極右・国民戦線とイスラム政党が争い,しかもその選挙戦のさなかにはテロが頻発し,結果,イスラム政権が誕生し,フランスがイスラム化していく・・・

 まあ,そんなシナリオは極端としても,実際に既成の2大政党以外の党首で決選投票が行われたし,極右政権の誕生も現実に十分あり得たわけである。グローバリズムやテロリズムで揺れ動いたフランスだから,極右台頭の力学が働いたのも理解できるのだが,それでも国民は現実的で理性的な判断をしたというべきであろう。私はそういうフランスの選択の根底には,やはりカトリックの伝統があったのではないかと直観している。もちろん,フランス国内でカトリック教徒が激減しているのは間違いないだろうが,今回はギリギリ最後の所で,その精神や伝統が国家の極右化や国民の分断に歯止めをかけるとともに,EUに信任を与えたのではないか。かなり穿った見方ではあるが,もともとカトリック教会は国家横断的な性格を持っているわけだから,そういう見方も成り立たないことはないだろう。

 ともあれこの結果に安堵している筆頭がドイツのメルケル首相であるというのは,多くの人が抱く感想ではないか。前回紹介した深井さんの『プロテスタンティズム』によれば,メルケルはルター派の牧師の娘として生まれ,プロテスタンティズムの伝統の中で育ってきたらしい。だからかもしれない,極右の排外主義的な動きを強く否定するメルケルには,プロテスタンティズムとしての保守主義のしたたかさや懐の深さみたいなものを感じる。それは前回も書いたように,宗派同士の政治的な争いの中で培ってきた多宗派共存という,プロテスタンティズムの作法や倫理に因ってくるものではないか。だから,そういう共存や多元性というプロテスタンティズムの伝統から逸脱する排他主義やナショナリズムにははっきりと「ノー」を言う。ドイツの保守主義はそういう宗教的伝統を背負ってきたが故に,懐が広く深いのだろう。

 深井さんの本によれば,ドイツでは公立学校の宗教科の授業でイスラム教を選択できるようにした州が増えているのだという。しかも,それを支持しているのがルター派プロテスタントの人たちだというから驚きである。ここからもドイツのプロテスタンティズムや保守主義の寛容さが窺えよう。それと比較してみると,日本で道徳教科書から「パン屋」を削除したり体育に銃剣道を追加したりする文科省の修正指示が,いかに偏狭で馬鹿げたものかがわかる。

 ヨーロッパでも,グローバリズムへの反動としてナショナリズムが力を持ってきていることは間違いないが,だがそれは,柔らかい穏健なナショナリズムへ移行,収束していくのではないだろうか。偏狭で過激なナショナリズムを社会に跋扈させない作法や品性,インテリジェンスをキリスト教は備えているように私には思えてならない。それとは対照的に,日本人は極端なナショナリズムに走る傾向が強い。今,教育勅語礼賛にしろ「日本人スゲー」「オリンピック最高」の風潮にしろ,排他的で不寛容なナショナリズムが日本全体を覆いつつあり,人々はそれを無批判に受容し,もはや冷静で理性的な判断ができなくなっている。日本がイスラム化することはあり得ないにしても,鬼才・変人ウエルベックが描いたようなモラルも知性も秩序も崩壊した極端な世界は,日本にこそ現出するかもしれない...

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プロテスタンティズム - 宗教改革から現代政治まで (中公新書)/深井 智朗

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