こんにちは。ダンボです。
私がアルバイトさせていただいている会社のある建物の同じ階に、大きなまねき猫さんがいらっしゃいます。
この前の朝、時間があったので、まねき猫さんのお家の扉ごしに、喋ってみました。
ダンボ「ねえ、まねき猫さん、私最近どうですか?」
まねき猫「どうって…何がや?」
ダンボ「私、ここで働くようになってから一年ほどたつんですけど…」
まねき猫「そうやな。アンタにしては頑張ってるほうちゃうか」
ダンボ「でも最近、不安なんです。このまま時間が過ぎていっていいのかなあって」
まねき猫「どういうこっちゃ?」
ダンボ「このお仕事は楽しいんですけど、すごく忙しいでしょう。体力的にも厳しくて、他のことがあまりで きないんですよ。私は脚本家なのに、忙しくて、脚本を書きたいという気持ちがどんどん薄れていっているような気がするんです」
まねき猫「あのな、よう聞けよ。アンタが脚本家かどうかということは、アンタが決めることちゃうで。周りの人が決めることなんや」
ダンボ「え?」
まねき猫「仕事なんていうものはな、自分の意志で選べるもんちゃうで。仕事がアンタを選ぶんや。
アンタが人に脚本家だと認められなかったら、アンタは脚本家とは言われへん」
ダンボ「じゃあ、私は今、脚本に選ばれていないというわけですね」
まねき猫「そういうこっちゃ」
ダンボ「厳しいですね」
まねき猫「それにな…」
ダンボ「それに?」
まねき猫「アンタ、ほんまに今、脚本を書く時間を確保したいと思っとるか?思ってへんやろ。アルバイトの出勤日だって、頼めば減らしてもらえるはずや。なのに、頼もうとせんやろ」
ダンボ「そうですね。今はなぜか、体力の限界まで働きたい気分なんです。過労で倒れるぐらいが、本望なのかもしれない」
まねき猫「なんでそう思うんや?」
ダンボ「ずっと、自分のことを欠陥のある人間だと思ってたのかもしれません。脚本で食べられるようになれないダメなやつだと。だから今、私はこんなに頑張れるんだから、欠陥人間じゃないって証明したい気分なんです」
まねき猫「そう思ってると、どんどん忙しくなるのは当たり前やな」
ダンボ「そうです。自分がまいた種だとわかっているんですけど、しんどいんです…」
するとまねき猫さんはいきなり、立って歩き出し、私に近づいてきたのです。
ダンボ「ま…まねき猫さん!」
そして、まねき猫さんは、右手で私の頬を殴りました。
ダンボ「いてっ!!
何するんですかっ!!!」
まねき猫「へっへっへ
ワシの右手は人をまねくだけしかできへんと思ってたやろ。殴ることもできるねんで~」
ダンボ「ものすごく痛いです!歯が折れるかと思いましたよ!」
まねき猫「ワシの右手はホンマはすごい力があるねん。でもその力をあえて使わずに、まねくことだけに専念しとるんや。だってワシの仕事はまねき猫を演じることやからな。みんなの期待に応えてやってんねん」
ダンボ「まねき猫を…演じているんですか?」
まねき猫「そうや。ワシは、女優なんや」
…どう見てもオスであるまねき猫さんは、さらに続けました。
まねき猫「仕事には仕事のルールっちゅうもんがある。そのルールに従うのが演じるっちゅうことや。アンタはな、この会社で働いているときは、ちゃんと、この会社のスタッフであることを演じられてるんや。だからクビにもならずに働かせてもらえとる」
ダンボ「…そっか」
まねき猫「脚本家でいたいんやったら、あんたがなれる、脚本家のルールが何かっちゅうことをよう考えるんや。そして、つべこべ言わずにそれに従え。アンタがどうしたいかじゃない。仕事が、お客さんがアンタに何を期待してるっちゅうかってことやぞ」
ダンボ「私、いったい何を期待されているんでしょう?」
まねき猫「知らん。だけど、アンタにはわかるはずや。アンタ自身のことやからな」
ダンボ「…」
まねき猫「そのルールがわかって、ちゃんと従えるようになったら、アンタはもう、欠陥人間やないで」
まねき猫さんは、そう言うと、ゆっくりお家に戻って行き、こちらを向いて座ると、左手を上げました。
ダンボ「まねき猫さん、手が反対…」
まねき猫「あ、間違えた。たまには間違いもあっていい。人間やからな」
…どう見ても猫であるまねき猫さんは、その日はもう、喋りませんでした。
私にとって、脚本家のルールって何なんでしょう?
よくわかりません。でも、きっと見つけなければならない。いや、見つけたいのだと思います。
それを見つけたくて、私はすべてのことをやっているのかもしれません。
とても忙しくても、いろんなことを教えてくれる今の仕事、私はたぶん、気に入っています!
これからもいろいろ悩んだりするでしょうが、その葛藤がきっと、何かを見つけさせてくれるでしょう。
また、何かを見つけられたら、まねき猫さんに報告してみようっと