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「鈴鹿はどうでしょうか」
「あ、いいねぇ」

確か、私の一言がキッカケで、第2回パンタ・ミーティングの
開催場所が鈴鹿に決定しちゃったような気がする。

それは、3ヶ月ほど前のパンタ飲み会の席上でのこと。
遠いけど、鈴鹿だし、レースもあるし、面白そう。
2回目は関西でやるほうがイイと思うし、などと話は進み、

「毎回、たどり着けないヒトが出てくるんだよね、たいてい」
「わはははは(一同爆笑)」

しかし!
まさか、それが私のことであったとは...。
このときは想像だに出来なかったことでありまする。

さて。

日付は、2005年11月12日(土)、時刻は午前9時。
心配された雨は先ほど上がり、空も軽くなりそうな気配。
いよいよ、鈴鹿へ向かう時がきた。
ガソリンスタンドにてハイオクを満タンにして準備万端。
つまらない事故を起こさないように、ゆっくりと
環八を東京インターチェンジへと向かう。

用賀の東名高速入り口のネオンサインが見えてきた。
「東名川崎~厚木 渋滞16キロ」
おお、なんということ、集合時間に間に合わない。
まあ、先に行ってもらうことにして、私は浜松あたりで
追いつくことにしようかな、と信号が青になったので
まさに交差点のど真ん中でエンジンを再始動させたところ!

スタータが止まった。
同時に、インジケーターも消えた。
ていうか、すべての電装系が一挙に死亡。
当然、ウンともスンとも言わない。

「冗談」

冗談じゃない。
ひとまず右折車線のど真ん中で、両手を上げ
左右の自動車に故障であることを告げる。
それらは快調に東名高速へと滑り込んでいく。
いいなァ、と見送りつつ、ふと後ろを振り向くと、
大型トラックが直後にそびえ立っていた。

「わ~、済まぬスマヌ」
何とかして安全地帯に相棒を移動させる。

電装系、一瞬でお亡くなり。
原因は何だ。
何故こういうことが起こったのか。

スタータはこのあいだブラシを交換したから問題ない。
噂のレギュレータ・パンクはこんなに唐突な死に方をしない。
ハーネスの断線? ややありうる。厄介。
メインスイッチ内の端子脱落?
これは最近スタンホープで新しいモノに交換したばかり。
問題は無いハズ。
ヒューズが飛んだ? これは一番可能性が高い。
けどコレが原因なら一番厄介。
なぜなら、ヒューズが飛ぶ原因を探らなければならないから。

ひとまず、ヒューズをチェックしてみる。
...問題ナシ。

どこだ。
何処まで電気は到達している?
どこから死んでいる?
それが知りたい。
原因をはっきりさせない限り、鈴鹿行きはかなり危険。

しかしながら、今日の午後4時までに解決できれば
鈴鹿の宿泊地へ行くことが出来るはず。

よし、バイク屋だ。確かここから環八沿いに
少し北へ行ったところに旧車を並べたショップがあったはず。
早速、その方向へ相棒を向ける。

【その2】へ、つづく。
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ヘルメットを左腕に抱え、相棒であるF750村山SPを
ひたすら押しつづける。肩で息をし始める。

天気は見る間に快復し、太陽が顔を出した。

身体がすぐに暑くなった。
汗が噴き出る。
高速走行のための防寒衣がたちまちサウナスーツと化す。
早くこのインナースーツを脱ぎたいものだ。

...やっとの思いで店の前へ。(図:A地点)

若い店員が3人ほど開店の準備をしている。
イギリス製の古い単気筒車を中心とした品揃え。
レトロを好む最近の若者向け、といった風情に違和感を
感じつつも、藁をも掴む思いで訪ねる。

「ちょっと見ていただきたいのですが」
「うち、最近のバイクは扱ってないんですよね」
「....。ちょっと電装のチェックをしていただきたいだけですが」
「売り物以外の修理はやってませんので」
「....」
「あ、そこ、バイク並べるので向こうへ行ってもらえます?」

肩で息をしたまま、落胆の思いで店の端へ移動する。
あまりの暑さに、たまらずインナースーツを脱ぐ。
セーターも脱ぐ。
疲労の為、放心状態でしゃがみこんでいると...

「あ、そこにもバイク並べるので向こうへ行ってもらえます?」

すぐさま、その店を後にする。
某雑誌にて大々的に旧車販売の広告を出している
この店の実態を痛感した。
悲しかった。

ここから一番近い、修理をしてもらえそうな店は...。
ナップス世田谷店がある。
ここは普段から利用しているので店の雰囲気は良く知っている。
主にパーツ交換をしているので、修理をしてもらえるとは
限らないが、電装系の何処に滞りがあるのかぐらいは
テスタを使って調べてもらえそうである。
ここからナップスまで、距離にして約3キロメートル。

普段の記憶を総動員して、何処を通れば平坦な地形を
たどることが出来るか、考える。
あの角を曲がって、まっすぐ進んで...。
その先の下り坂の先に控える上り坂が心配だナ。
だが、押して登りきれない傾斜角ではないはず。
問題はさらに先の下り坂を降りた先にある、大きな上り坂。
あそこは押してあがるのは無理だ。
迂回路を探すしかない。たぶん、川沿いの右方向...。

行くか、相棒。

再び、押し始める。
世田谷市場の横をぐるりと回り、大きな公園の脇を
ひたすら押していく。

...とうとう上り坂だ。(図:B地点)

いつもならアクセルひと捻りで駆け上がる、
なんていうことはない坂。
差し掛かったとたん、強烈な重さがハンドルから伝わってきた。
少し進んでは休む。少し進んでは休む。
30メートル先にヘルメットとリュックサックを置き、
戻ってきて相棒をそこまで押す。
少し休憩したあと、また同じことを繰り返す。

一つ目の難関をクリア。

長い直線をひたすら押していく。
あれから1時間経った。
もう、太陽は随分と高いところまで上ってきたようだ。
慌てず、急いで、駒を進めなければ。

不思議と、私は冷静だった。
何かに対して不満を持つことも無かった。
ただ、目の前の問題をひとつずつ、
解決していくことしか考えていなかった。

相棒を押しながら、考える。
キーシリンダのスイッチから、シート下のバッテリーまで。
この間のどこかに、必ず滞っている個所がある。
その根源さえわかれば、大丈夫、必ず問題は解決する。
大丈夫、鈴鹿へ行ける。

公園の脇を越え、道は大きくカーヴを描きながら
川へと降りていく。
なんとも、ありがたいかな下り坂。
しかし、川を越えると待っているのは当然、上り坂。

二つ目の難関が見えてきた。(図:C地点)
最後の上り坂。
いつもどおりに進むと、押してあがることはまず不可能な
上り坂があることを知っている。そこは避けなければ。
地形から判断すると、右側から捲いていくのが良さそう。

川沿いにしばらく進み、上り坂が緩やかそうな
わき道を発見する。
相棒を路肩に止め、その先まで歩いて偵察する。
やはりキツイ上りには違いなかった。
覚悟を決める。

荷物を10メートル先に置き、相棒に戻る。
自身に気合を入れ、坂を登り始める。
きつい。本当にキツイ。
しかも、雨上がりの路面に濡れ落ち葉が散在。
何度も足を取られ、転倒しそうになりながらも、
安全のマージンをとりながら慎重に、進む。

ソレを何度も繰り返し、50メートルほどの坂道を登りきる。
あとは、下り坂しかない!

坂のてっぺんで相棒の傍らにしゃがみこむ。
ヒザがガクガクになり、しばらく息が出来ない。
ゆっくりと息を整えようと努力する。

クロスカントリーという種目がある。
高校の体育の授業では、裏山に設けられた山道をコースに
何周回も走りながらタイムを競った。
スプリントではなく、持久走、耐久レースである。
劇的な展開など何も無く、ただひたすら自身の設けた
基準と目標に対して、挑戦していくスポーツ。

ひさしぶりに、この感覚を思い出した。

坂を下る。
平坦な住宅街へ出る。
そして押していくこと数百メートル。
見えた! ナップス世田谷店。

太陽はいつのまにか真上にいた。
2時間半後、約3キロの道のりを経て、到着。

【その3】へ続く。
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「ちょっとバイクを見ていただきたいのですが」
「すみません。ウチはパーツの取り付けは、やっていますが
 修理の方はちょっと...」
「知っています。電装系をテスタで調べていただくだけですが
 どうかお願いできないでしょうか。」

ナップス世田谷店の店員はインターホンで工場と連絡を取る。

「...わかりました。バッテリーとヒューズの点検ということで
 作業を進めさせていただきます。
 場合によってはご期待に添えないこともありますが、ご承知を」

ひとまず。見てもらえることになった。
パーツ販売店に突然修理の依頼を出す無理を承知の上で
お願いしたので文句は言えない。
ただ、何処まで電気が通っているのか、何処で滞っているのか
それが知りたい。あとは自分でなんとかしよう。

もしここで解決しなければ、レッドバロン川崎店に電話をしようか。
そこの工場長は知り合いで、以前、世話になったことがある。
実費を払えば、トランスポーターを出してくれるかもしれない。
それで駄目なら...
鈴鹿は諦めて、スタンホープ、西田氏に相談をしよう。

現在、午後1時。
鈴鹿に向かっているパンタクラブのhamahiro氏に電話を入れる。
「今、牧之原サービスエリア。どう? 直りそう?」
「わかりません。今からテスタで調べるところです」

静岡県か...。もう、追いつけない。
単独行で鈴鹿を目指そう。
それ以前に、原因は解明されるのか?

工場内へ運ばれていく相棒、F750村山SPを眺める。
スマンなぁ。一番走りたいのは君だろうに。

ガラス越しに、待合室から診断室の相棒を眺める。
足が棒のようになって疲労困ぱいのはずなのに
椅子に座っているのが辛い。
なにより、この部屋の中のどんよりと停滞した空気が重い。
早く、相棒と走りたい。
吸気音と排気音と風切り音のなかに身を置きたい。

意味も無く、ウロウロと歩き回る。

相棒の周りを、テスタを持ってチェックをするメカニック。
ハンドル付近をチェック。続いてバッテリー付近をチェック。
...? バッテリー付近で足が止まる。
なにやらイロイロと作業をし始めた模様。
さらに他のメカニックが作業に参加する。二人、三人と増える。
一人がアドバイスを与えているようだ。

と、テールランプが点灯した。
セルが回った。
エンジンに火が入った。
工場内に轟く、凄まじきLツインの咆哮!

「かかった。エンジンが蘇ったッ。」
周りの目も気にせず、私は大きく手を叩いて歓声を上げる!

思ったとおり、電装系だ。
あとは何処に原因があったか、それだけだ。
エンジンを止めたあとも、メカニック達はテスタを片手に
時間をかけてイロイロと調べている様子。
本当に、ありがたいことで...。

呼び出しを受ける。
まるで医務室に呼び出される患者の親族、といった具合。
先生、ウチの子はどうだったんですか。(とは聞かないが)

「原因が判明しました。此処です」
と指し示した先にあるのは、バッテリーのアース側端子。
「外側からは見えませんが、内側の接点が腐食しています。
 さらに接点が、かすかに、への字に曲がっているので
 通電できる場所がほぼ無い状態でした。」

盲点。
ハーネスの断線でも、端子の脱落でもなく、
原因は、アース線の不通。
15年選手の電装メンテナンスを怠っていたからか。
全く気がつかなかった。
恥かしい...。

「あとはバッテリーですね。かなり弱っています。交換しましょう。それからハーネスのこの部分。負担がかかって少し断線してます。近いうちにひきなおした方が良さそうです。」

つくづく、電装系はナマモノであることを痛感させられる。

「では、今日・明日のところは問題なさそうですか?」
「問題ありません。走れますよ。」

暗雲、暗中模索、五里霧中が一気に晴れる。
狭まっていた視界が一挙に広がる。
既に傾き始めた太陽の先、西の方角が明るい。

解決。
鈴鹿に行ける!

新品バッテリーをしっかりと充電させた後、
相棒は無事、退院してきた。
時刻は午後3時。

おまたせ。
さあ、行こう。
西へ!

【その4】へ続く。
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ナップス世田谷店のメカニックに
沢山のお礼を言って、相棒F750村山SPに跨る。

東京インターチェンジ、午後3時半。
晩秋の太陽は随分と傾き、もう夕暮れの気配。
これから目指す、鈴鹿は350キロの彼方にある。
目的地は、当然、夜の闇の中。

しかし、迷いは何も無い。

ガソリンは自慢のロング・タンクに満載。
バッテリーは新品、充電も完璧。
気象条件は良くなる一方。
暑くも無く、寒くも無く。
忘れ物は? 無い。
はやる気持ちは? 抑えた。

お待たせ。
さあ、行こう、西へ!

6時間前の苦労が、まるで冗談であるかのように
あたりまえに加速して、東名高速へ合流する。
交通の流れ、至極良好。

海老名SAを過ぎる。秦野中井SAを過ぎる。
何処まで止まらずに行こうか。
いや、まったく止まる気がしない。

相棒のフルカウルに助けられ、風圧による疲労は無い。
前傾姿勢は厳しいが、背伸びをするほどではない。
トイレ休憩は? 全く必要ナシ。
止まる理由が無い。

走れ、走れ、走れ!

大井松田を過ぎ、富士の裾野へ差し掛かる。
ダイナミックな高速コーナーが続く。
速度は約140。
速くも無く、遅くも無く。
なるべく速度を殺さず、そのままコーナーへ進入する。
右へ、左へ、ささやかな挑戦を繰り返す。

峠を越えた。
目の前には最後の夕陽に照らされた富士の谷間が広がる。
点在する民家には、すでに灯が入り始めている。
雨をもたらしたあとの雲。
それらが作り出す、夕暮れの色彩。
その中を西へと急ぐ、テール・ランプの数々。

私と相棒も、その一部となる。

...朝から何も食べていないことに気付く。
しかし、空腹感は無い。
何かに対する焦燥感も無い。
あれだけ、体力を消耗したはずなのに、疲労感も無い。

あるのは、西を目指す意思、それだけ。

アクセルを開ける。
タンク穴から、ウェーバーが呼応する。
快活な吸気音。

アクセルを閉じる。
背後から、極めて野太い排気音。
迫力の重低音。

そして、様ざまな速度域を象徴する風切り音。
それらがあれば、もう十分じゃないか。
遠くを目指そう。

遠くへ。
もっと遠くへ!

足柄SAを過ぎる。富士川SAを過ぎる。

ふと、面白いことに気がついた。
いつまでも、夜の帳(とばり)が下りないのである。
西へ、西へと太陽を追いかけているからだろうか。
トワイライト(うすあかり、たそがれ時)。
昼と、夜の境界線の中を進む。

時間が止まったような、不思議な感覚。

走ろう。
西の方角の、あの明かりの最後の一編が無くなるまでは、
見届けるまでは、走りつづけよう。

日本平SAを過ぎる。日本坂SAを過ぎる。
依然として交通の流れ、順調なり。
追い越すことはあれど、追い越されることは無い。

走れ、走れ、走れ!

スクリーンの中の計器類が、
だんだんと赤い灯を伴ってその存在を主張し始めた。
確実に、暗闇がせまりつつある。

牧の原SAを過ぎる。

不意に寒さを感じた。
時間が、一つの区切りを見せたことを知った。
夜が来たのだ。

そろそろ、止まろうか。

浜名湖SAのサインが見えたところで、
初めて減速体制に入る。
それまで周囲を包んでいた風切り音が途絶える。

午後6時。
東京ICから2時間半。
距離にして約250キロメートル。
ストイックな高速走行に区切りをつける。

空腹を感じた。
同時に、少しばかりの不安を感じた。
サービスエリア内の、この、世俗的な雰囲気。
コーヒーとカロリーメイトを口にし、
逃げるようにして本線へ復帰する。

止まらなければよかった。

夜のヘッドライトとテールライトの光の流れに
身を置いたものの、先ほどまでの幽玄な時間は
そこにはなかった。

寒い。
背筋がつらい。
早く、宿泊地へ行きたい。

そこからのことはあまり覚えていない。
ただ、四日市インターチェンジのサインを見て
高速走行からの開放を喜んだのは確かだった。

道を聞きながら、真っ暗闇の田園地帯を進む。

午後8時、宿泊地へ到着。
hamahiroさん達が出迎えてくれた。
暖かいロッジへ通される。

「やっと着きました」
恥かしさと、安堵感が入り乱れて
どんな顔をしていいかよくわからなかった。

酒を飲み、愉快に話をし、大声で笑う。
ああ、無事着いたんだなァ、と実感した。
味噌鍋が、腹に染みて、美味い。

布団を敷く。横になる。
身体の節々が、筋肉が、痛い。
でも、心地良い。

長い長い一日が終わった。
相棒、F750村山SPよ、ご苦労さま。
苦労はすべて、愛着になった。

おやすみなさい。
また、あした。

GO WEST -鈴鹿・耐久- 【終わり】

東京クレーターのアカリ

テーマ:
akari

ウオタニ、デロルト、CEVテールランプ、三馬力、トラスフレーム、NCRタンク、トリ・スキール、ワイリー・コヨーテ等、ドカティ乗りのココロをくすぐるアイテムが劇中に登場。

活気溢れる人間達と、オイルの香り漂う機械達、
それらが繰り広げる、近未来のお話です。

著者:磯本つよし
出版社:少年画報社