謝罪の言葉 | Drawing Man

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気ままに書いた小説をあげています。

風守~幸せの場所~  7、謝罪の言葉











「やっと見つけたぞ、フィス」



壊れるかと思うほど強く開いた扉の向こうにいたのは、

予想していた人物とは違っていた。



「ダン、フィール、様・・・」





「よくも8年もの間、俺から身を隠してくれたな」



どかどかと踏み込んでくる彼に、恐怖で足がすくむ。

何とかして距離をとろうとするが、この狭い塔の部屋で、加えて足の鎖があっては、それもすぐに無駄足に終わる。



―――っ怖い。



ダンフィールも、フィスの足の鎖に気づいた。

「なんだ?この鎖・・・。

―――はっ!結局お前も兄上にいいように扱われただけってことか。」



「違います!」



「何が違う?

 ここに繋いで、自分の駒として閉じ込めていただけだろう?

 兄上はなかなかお前の居場所を吐かなかったからな。」





「あの方は、・・・ルスティール様は貴方とは違います」



「うるさい!来いっ」





彼が、私と繋がった鎖をひっぱる。

急に思いっきり引かれたので、受身も取れずに床に全身を投げ出すことになった。



「っ痛・・・」



「お前は切り札なんだよ、フィス。いや、“風の守り人”と言った方がいいか?」







「違います、私は―――」



「お前の力は、人の争いに役に立つためにあるんだ。

 俺を、覇者にするために、な」



ダンフィールは醜い笑みをうかべる。

その気味の悪さに、鳥肌が立った。



「覇者・・・?っ戦争を、するのですか」



「人は勝ってこそ、人の上に立つ権利がある。

 兄上のように、冷戦を保つだけじゃ何も変わらない」





―――冷戦って





「・・・まさか、ウィングスタン・・・と?

 あの国はわが国より大国です!それに魔術師の質も量も桁違いで―――」



「そのためにお前がいるんじゃないか。

 幸い、今現在あの国には守り人はいない。

 俺と来い、フィス。

 この塔から出して、自由にしてやる。

 お前も出たいだろう?」





「お待ちください、私は―――うぁっ」



言葉を紡ごうとしたけれど、腹部を力いっぱい蹴られて、途中でとまる。



「ふん、お前に拒否権などないんだよ。

 あの馬鹿兄からようやく手にした守人だ。

 お前は、今や“俺の”駒なんだからな。」





「・・・っ?!あの方に、何をしたのですか?!」





「そんなことはいい!さぁ、俺と共に来るんだ!!」





「やめ・・・・っ」



力で、クマのような巨体のこの男に敵うはずが無かった。

目の前に絶望が広がる。









―――姉さまっ・・・







今ある絶望を断つ手段。

最後の力を振りしぼって、隠してあったモノをしっかりと掴む。







渡されてた、短剣。





私を、この塔から、自分の力で解放することが出来る唯一の方法。





最初から、こうすればよかった









「ごめんなさい・・・」







首に、刃を向ける。 







―――ごめんなさい、姉さま。

     

     ごめんなさい、ルスティール様、いつも優しくしてくれたおばあさん、





     ケーキをくれたアベルさん



     

     そして

      

     

     無愛想だったけど、いつも不器用な優しさを与えてくれたあの人。

     

     私に

     

     私に、

  

     自由をくれようとしてくれた皇子様





「ごめんなさい・・・やっぱり、一緒には行けません」











皮膚の、避ける音が、耳に届く。





襲ってくる激しい痛みを無視し、





そのまま、剣を持つ手に力を―――











「剣を離せ、アリア」









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