「ふと保険の話になったんだけど、そろそろ真剣に考えなきゃな」
「急にどうしたの。いつも俺の精神力が保険だ、なんて粋がっていたくせに」
「アルバイトで来てた職場のオバサンがさ、今朝から入院しちゃったんだよ。腎臓疾患らしい」
「あら、それはかわいそう。腎臓って、いったん病気になるとなかなか治らないんでしょ」

詳しくはわからないが、どうやら血尿がでて長期入院の可能性がたかいそうだ。
原因は直接的ではないが、過度のストレスと肥満らしい。この要因は比例していくそうだ。

「俺もそろそろヤバいかなって思ったわけだよ。太ってはいないけど、ストレスがなあ」
「最近、やたらに食欲が旺盛だものね。ご飯三杯のところを四杯目もいく勢いだわ」
「なんか脳の疲れが炭水化物をもとめるんだよな。ストレスを
無理に麻痺させるというか」
「私は量的に無理だわ。それよりアルコールのほうにいっちゃうけど、眠くなるからね」

あまりにご飯ばかりたべていると、いくらなんでも糖尿病がこわくなる。
ただ、家系的に血は薄いほうなので楽観視している。血の粘りが平均値の半分以下なのだ。

「俺の自慢は、朝にコーヒーをのむと必ず脱糞中数が働くこと。便秘など
どこ吹く風だ」
「たんにカフェインが体にあわないだけのような気がするけど、結果的に健康ならね」
「それはもう、飲んで五分後に作用するから、うかつにコーヒーをのめないんだよ」
「世の中にはそのことで苦しんでいる女性がたくさんいるから、その才能をわけてほしいわね」

便秘談義はともかく、自慢気にかたっていても病魔は突然おそってくる。
それにたいしての備えは大人として必要だろう。そのための保険加入である。

「とりあえず、掛けすて型の安いやつにでも入っておくか。葬式代
がわりにな」
「入院費じゃなくて、そっちのほうを考えていたの。そんなの心配しなくていいのに」
「やっぱりさあ、これもある種のケジメみたいなもんだから。ちなみに俺のは密葬でいいぞ」

すると突然、彼女がなきだした。かるい冗談のつもりで言ったのだが、少し表現がキツかったか。

「ごめんね、なんか急に感きわまっちゃって。いま泣いておくことが、将来への保険になるのかな」

経験値を保険がわりにはするな。それならいっそ、俺たち二人の証となる新たな命を残そうぜ。