「そろそろカメラを買いかえようと思ってるんだけど、どうかな」
「べつに私に断らなくても、欲しいものを買えばいいんじゃない」
「なにしろ10万円以上するからなあ。一応、了承を得たほうがいいだろうから」
「男って、どうしてプロでもないのに機材にお金をかけたがるのかしら」

おまえも一時期はエステにハマってたくせに、と言いかけたがやめた。
趣味にお金を投じるのは男も女もかわらないはずだが、
その対象はあきらかにことなっている。男は物欲、女は自分欲。

「そりゃ、いい男をつかまえるためには資本が大事だからね」
「その結果が俺になったわけか。どうだ、その投資はうまくいったのか」
「まだまだ見きわめが必要だわ。よい買い手が見つかるまで寝かすのも手よ」

株やFXと似て、恋愛はそのときどきの感情で相手の価値がかわる。
いわゆる期待感というやつだ。対象への実質的な評価と未来への展望。
女は男より冷静に、ときには残酷な判断をくだすため24時間体制の監視をする。

「男は女という株を手にしたら、あとは現状維持するだけでしょ」
「そんなことないよ。旅行に連れていったり、プレゼントをあげたりするじゃないか」
「でも相手の価値を高めようとはしないわ。女は逆なのよ」
「おまえが俺の株価をあげようと努力してたっけ。具体的には?」
「気づかないかな。一緒に服を選んであげたり、食事の場所を変えてみたりとか」

なるほど。会うたびに無意識化でコントロールされていたのか。
そういえば友人から、最近すこし趣味がかわったと言われることがある。

「たしかにワインやイタリアンなんて、いままで夕食には考えてなかったっけ」
「べつに調教したわけじゃないけど、見聞を広めることは悪くないわ」
「そのひとつに新しいカメラがあるんだよ。文字通り、新機能で視野が広がる」

その前に、といいながら彼女がシャッター音の口真似をした。

「まずは、その髪を補正しなきゃね。たまには自分にカメラを向けなきゃダメよ」

これも株価をあげるためなのかも。散髪後にレンズ代わりの彼女を磨いてやるか。