Dr.D.D.のドルオタ日記

職業:勤務医。病院の要職にありながら、空虚な日本医療界に嫌気がさして診療の片手間にサブカルチャー活動に邁進するようになった男の日記 Twitter:Dr. D. D. (@DrDD2)


テーマ:
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スポーツ報知 2月4日(水)17時52分配信

テレ朝謝罪、12歳アイドルがヘリウム吸い救急搬送

 テレビ朝日は4日、都内で会見し、1月28日に本社スタジオ内で、BS朝日で放送している「3B juniorの星くず商事」の収録中にアイドルグループ「3B junior」の12歳の女性メンバーが倒れ、意識不明となったため、救急搬送されていたことを明らかにした。

 倒れたメンバーは病院で現在も専門医の治療を受けているという。専門医によると、脳の血管に空気が入り、血流を妨げられている状態で「脳空気塞栓症」だという。

 テレビ朝日によると、収録時、26人のメンバーが5人1組で、ヘリウムが入った声を変える市販のパーティーグッズを使ったゲームを行っていた。メンバーの1人が意識不明となったのは、ガスを一気に吸ったことによるものとみられる。パーティーグッズには「大人用」と記載されていたが、番組スタッフが見落としていた。「吸うと声が変わる」というガスが入っていた缶は5000cc。ヘリウムが80%で酸素が20%だという。商品は日本製で、市販されているもの。警視庁の実況見分が行われた。

 武田徹常務取締役は「当初は早い回復が見込まれ、容体の推移を見守っていたことなどから公表を控えていたが、専門医の診断結果を得ることができ、新たな治療によって回復の兆しも見られ始めたことから、ご家族のご了解もいただき、皆さまにお知らせすることにした」と説明した。専門医の説明によれば、4日には食事をすることもできるようになったが、意識は十分には戻っていないという。現在完治を目指している。

 番組は2月24日に放映予定だが、中止も検討している。テレビ朝日は「収録時の安全管理に問題があった可能性もあり、深く反省している」とした。3B juniorのメンバーは10歳から16歳。

----------------(引用終了)--------------

まさかパーティー用に市販されたヘリウムガスの吸引で、このようなアクシデントが起こるとは思っていませんでした。

正月明けのスターダストプロモーション主催のアイドルイベント「藤井と嫁の7日間戦争」
では僕は3B junior(以後3Bjrと略)のステージには行ってませんが、
友達2名が観に行ってまして、色々有望だと感想を教えてくれたばかりなので、
そのメンバーの中の一人の子が倒れてしまったのか、と思うといたたまれない気持ちになりました。

3日前の2月1日には、自分は渋谷のつりビットの現場で、今回の3Bjrの子とそれほど歳のかわらない(13歳~16歳(→しかも小柄))の女の子たちがゲームでガンガンヘリウムガスを吸っているのを目撃していた(もちろんなんともなかった)ので、
このようなことが起こって大々的に報道がなされたことにはショックを受けました。

本日の読売新聞朝刊



本日の日刊スポーツ芸能面


本日のサンケイスポーツ芸能面



このブログではあまり真面目なことは書かないつもりだったんですが、一連の報道内容や、ツイッター、掲示板の内容などを見ていくうちに、あまりにもずれた内容の書き込みや報道があるのをみるにつれ、
「ドルオタがたまたま医師になった」
身としては、
今回の事故に関しては何かしら発信しなければいけない責任があるのかな、などと考え、書くことにしました。

長文になってしまい、難しくてつまらない内容になってしまうので読んでくださる方には申し訳ありません、と先に謝っておきます。

まず、「脳空気塞栓症」とはどのような病気であるのか、について書きます。

空気塞栓症とは、「空気(ガス)が直接人体の血管内にはいり、気泡が末梢の細い血管を閉塞することにより、その部分の組織に障害を起こす」、という病態です。

生理的状態では、基本的に一度に大量の空気は血管内には入りません。

人間は肺でガス(酸素と二酸化炭素)を交換していますが、通常はその状態で血管がつまるようなことはありません。

なぜなら、呼吸の活動の場合、気道を通った空気は太い気管から気管支が何回も枝分かれして、そこを通るうちにどんどん粒が細かくなり、最終的に気管支の終末に「肺胞」、とよばれる細かな毛細血管が通った袋に到達し、
そこでとても緩やかにとても細かくなった酸素と二酸化炭素が出入りしているからです。

(模式図)



血液中に緩やかに入った酸素は、血液中の赤血球の「ヘモグロビン(Hb)」と結合することで通常の水に溶けるよりも余分に溶けこむことが出来ます。

一方、体内の組織で産生された二酸化炭素も、「重炭酸イオン(HCO3-)」の形で血液に溶け込んで流れ、肺で二酸化炭素のガスの形に戻って呼気に放出されていきます。

そういう便利な溶解のシステムがあるため、
生理的なレベルでは、基本的に血液の中のガスが、血管内で集まって大きな気泡をつくって血管を詰まらせる、ということはありません。

ところが、生理的な状況とは別に、何かしらの特殊な要因で直接血管の中に大量の空気(ガス)が入り込んでしまうことがあります。

そうなると、血液に溶けこむことのできるレベルを超えて、血管内にガスが気泡の形で存在するので、それが一カ所に集まってしまうと血管を塞栓(つまらせて)しまうことになります。


血管のつまった先の臓器の細胞は、酸欠、栄養不足に陥って死んでしまいます。

たとえば、肺の血管がつまれば、「肺塞栓」、脳の血管がつまれば「脳塞栓」となり、

細胞が死んで重篤な症状を引き起こし、
時には命の危険がある適切な治療しなければ致死率30~90%という報告もある)のです。

ガスによる人体の血管の塞栓には2種類あって、
①静脈塞栓 ②動脈塞栓 の2つがあります。

①静脈塞栓
体の静脈に空気が直接入ると、その空気は肺まで運ばれて、肺塞栓をおこします。塞栓した空気は肺胞の血流を完全に停めてしまうので、肺胞←→毛細血管を通してのガスの正常な交換が出来なくなってしまいます。

(よく、映画やなんかで、血管(静脈)内に空気を注射して殺害するシーンがでてきますが、あれは肺塞栓を起こして、呼吸のガス交換をできなくして殺しているのですね。)

②動脈塞栓
一方、体の動脈に直接空気がはいるケースもあります。
そうなると、空気は大動脈の流れにのって、あらゆる全身の臓器を塞栓し、その臓器を梗塞させてしまいます。そのうち、脳の血管に空気が塞栓するのが、脳空気塞栓症です。

(今回、3Bjrの子がおこしたのが、この病態②です。)

動静脈への空気塞栓の起こる原因としては、思いつくあたりでここら辺があります。

1)交通事故などで、頭頸部や胸部に外傷をおこしてしまったケース。

2)医療手術の影響や、医療の血管カテーテル(点滴の管)などから空気が入るケース。
(なお、病院の静脈点滴でちょっとだけ気泡が入っても、肺塞栓などの大きな問題にはなりません)

3)減圧症(潜水病)というケース。
(スキューバダイビングなどで深い水に潜って酸素ボンベの空気を吸っていると、水圧の力で血管内には一気圧の地上より多くのガスが溶けることができるようになります。(学校の物理で「ヘンリーの法則」「ボイルの法則」というのをならったことがある人は理解できるかも知れません。)潜水夫は通常はゆっくり時間をかけて浮上するのですが、急激に浮上すると水圧が下がって、血中に溶けたガス(特に窒素)が一気に溶けることができなくなり気泡化し、血管を閉塞してしまうのです。)

4)また地上においても、非常に強い圧のガスを吸い込むことで、血液の中に溶け込めるガスの圧(分圧)以上の大量のガスが入り込んでしまい、空気塞栓を起こす、というケース
もあり得ます。
(しかし、通常の深呼吸でそのようなことがおこるケースはまずなく、多くは人工呼吸器での設定ミスがあった場合などです。)

それでは、今回、3Bjrの女の子はどのケースであったといえるのでしょうか?

2)と3)はあり得ないので、パターンとしては1)、4)が疑わしいです。

1)すなわち、ヘリウムガスを大量に吸い込むことで、運悪く肺胞が膨張して破れてしまい、肺胞の毛細血管から一気に大量のガスが血管内にはいりこんでしまったパターン。

この場合、肺胞の毛細血管から入った気泡は肺静脈から左心房、左心室を通って大動脈に向かい、その先にある脳の動脈を塞栓した可能性があります。

4)あるいは、肺胞が破れるような外傷がなくとも、かなりの高い圧ないしは肉体の限度を超えた高容量があれば、ガスが肺胞の毛細血管を通過し溶解し、あとで気道の圧が下がったときに一気に血管内で気化し、塞栓が生じる、というパターンもあるかもしれません

ここで少し話を脱線させますが、それでは、ヘリウムガスがそれほど危険か、という話になります。

ヘリウムは水素についで軽い気体で、さらに粘度が低いため、体内からの排泄が早く、(筆者註8価の元素で)安定性が強く、万一吸収されても化学的には人体には悪影響はほとんどない、とされているようです(Wikipediaより)。

ただし、工業用の純度100%のヘリウム(風船をふくらませたりするのに使われてる)を大量に吸い込んでしまい、肺の中の全空気(全排気肺気量=肺活量+残気量)がすべてヘリウムに置き換わってしまった場合には、全くガス交換ができないので体は酸欠になってしまい脳障害をきたす可能性があります。

そのため、パーティー用(声をかえる)ヘリウムガスは、そういうことのないように必ず酸素を20%まぜて、空気(窒素79%、酸素21%)と同じ組成にしてあるのです。

スキューバダイビングのボンベは、空気の組成のままではなく、ヘリウムを混ぜてあります。
それは、深海の高圧下で窒素が余分に体内に入ると、窒素は化学的に毒性を有して体に悪影響を及ぼすため、かわりに毒性のないヘリウムを混ぜて中毒が起こるのを防いでいるのです。

それでも、深海から誤って急激に浮上してしまうと、ヘリウムも体内で気泡化しますから、化学的、ではなくとも、物理的に血管の塞栓症状はおこしえます。

報道をみていると、以前の、ヘリウム吸引での事故が国内で30数件、などと言っていますが、
それはすべて
過誤で純度100%のヘリウム吸引をして肺内が酸欠になった事例
と、
減圧症(潜水時)
のトラブルであり、

今回のような地上での市販の80%濃度のパーティガスの吸引で起こった事例は、
国内では皆無だったと思います。
(ですから、ヘリウム=即危険、などと報道だけみて早合点するのはミスリードだと思っています。)

さて、今回のアイドル番組のゲームの内容は、
「メンバー26人が5組にわかれ5人一組(一組だけ6人)で変声用のヘリウム缶を吸入し、本物のヘリウムガスを吸ったメンバーを当てるというもの(中略)メンバーは2組目で、一回目に当たりが出ず、全組が終えた後で再度ゲームを行った。同局では、1回目には声が変化しなかったが、連続してヘリウムガスを吸った可能性があるとしている。」(日刊スポーツより)

ここで問題となるのは、市販パーティー用のヘリウムガスを普通に2回吸い込んだだけで、先述のケースのように肺胞が破れて流入したり、一気にガスが圧で血流に溶解するようなことがおこり、脳血管を塞栓するケースがおこりえるのか、ということです。

憶測ではものを言いたくないので、
番組スタッフが誤って風船用の純度の高いヘリウムの高圧ガスの入った缶(そういうのも普通に売られている。缶の形や大きさは変声用ヘリウム缶とだいたいおなじ)を使用した
とか、
ハズレ用の使用済みの缶にあとから高圧の空気を注入していた、

などの論外のミスや過失は一切なかったものとして、考えてみます。

この(ヘリウムガス)を吸って脳空気塞栓症になることについて同局(註:テレ朝)は
「国内には症例はないが、海外ではあるらしい」、と説明した(日刊スポーツ)

とのことなので調べてみました。

医療系検索エンジンPubMedでの検索では、これまで海外で3例のヘリウムガスでの脳空気塞栓の症例が報告されています。

検索結果10件の3.4.5.の三論文が該当

文献の抄録を見る限りでは、いずれも、高圧のヘリウムタンクや、圧の調整のされてないシリンダーから誤って(遊びで?)ヘリウムガスを吸引した、
というケースで、
パーティー用の缶を吸って起こした、という事例ではないように思えます。

なお、注目すべきは、これらのケースではいずれも高気圧酸素療法が施され、脳障害はほぼ回復した、と書かれています。

今回、テレビ朝日の会見、マスコミ各社の報道によりますと、
ゲームに使った缶は5000cc
大人用、という記載があったが、それを子供に使ってしまったとのこと。

これが安全管理面での過失として重大なものとなるかどうか・・・

 ドン・キホーテなどで実際に売られているパーティー用のヘリウムガスに、大人用、子供用、などという違いがあるのでしょうか?
僕はあまり聞いたことがありません。

 缶には「対象年齢10歳以上」、という記載があったりしますが。

 で、大人用のガスと、子供用のガスがあったとして、
2つは何が違うのか・・全体の容量の違いなのか、一回のプッシュでのガス流出圧の違いなのか・・・・?

今回は時間がないので調査できませんが、今後ちょっと確認してみる必要があります。

 その場合、大人のガス缶が流出圧が高い、という可能性や、
一度に入る量が多かった、という可能性もあるわけですが、

小児も含めて女性の肺活量は25002000cc~40003000cc、缶のガスは、せいぜい吸引数回分です。
これまで、「大人用」を子供が吸ってしまうようなケースは一般社会でもあったと思うのに、
これまで大きなトラブルが発生することはなかったことを考えると、

万が一裁判などになった時には、当然争点にはなるでしょうが、「大人用を使った」
この過ちが単独で絶対的な事故原因だといいきることはできないと思います。

なので・・・・

①ルールが過酷で丸々一本5000ccを一気に吸引(×2本分)するようなことがあったのか、

②このゲームの前に過激な運動(歌やダンス)をして体内の酸素が足りないような状況から引き続きヘリウムガス吸引
などの複合的な要因があったのか、

女の子が年齢の割にとても小さかった(肺活量は年齢と身長に相関するという報告がある)
とか、

なにかしら呼吸器系の疾患(例:小児ぜんそく)や、循環器系の先天疾患(卵円孔開存)のような病態を有していた
などの特殊なケースであり、それを見逃していたことによって不幸な事故が起こってしまったのか、

などと色々と悩み考えてしまいました。

その場合は、テレビ局だけでなく、そういう素因の子をゲームに参加させてしまった事務所の側にも責任が発生するのでは、などとも思いました。

さて、下の文献では、動静脈の「空気」塞栓(脳、肺など色々)を119例集めて、高気圧酸素療法を行った成績が報告されています↓

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=20221749

この文献では病院内での死亡率16%、6ヶ月での死亡率18%、1年後の死亡率21%、生存して集中治療室を出た時に43%の事例が何らかの神経学的後遺症を残していた(視野欠損、植物状態、歩行障害、認知障害etc.)、などということが書かれており、ちょっと恐い気もします。

しかし、一方では、
先で調べた「ヘリウムガス」での海外の脳空気血栓症の3ケースは、前述のとおり(潜水病にならって)高気圧酸素療法を全例行って、全員が後遺症はほとんど無く回復した、と書いてありました。

そこはやはり塞栓したガスが障害性の少ないヘリウムだったことが救い、であるのかもしれません。

報道によれば、女の子は搬送された病院からさらに専門の病院に移送され、そこで脳空気血栓症と確定診断(おそらくCTやMRI、MRA検査で)され、ただちに専用の治療(おそらく高気圧酸素療法)が開始された、とのことです。

その治療により、意識不明の重体から、現在意識はまだ完全には戻っていないものの覚醒し、食事を(介助で)とったり、呼びかけに手を上げようとしたり、発声しようとしたり、という反応がみられ回復の兆しが見えている、

とのことです。まだ状況は不透明ではありますが、一時よりは好転した、というのは明るい話題です。

(まとめ)
 パーティーでのヘリウムガスが、こういう形で大きな障害をきたした、というのは世界的にもまれな事例で今回の事故は不運な偶然の産物であった可能性もあるでしょう。

これをもってヘリウムガスが発売禁止、というようなことはないと思います。

それでも、このようなケースもある、ということで今後、このガスの使用にはより注意が必要となり、注意事項記載も増えてくると思います。

今後、テレビ局、事務所の両者で事故原因究明はしっかりやってもらいたいと思います。
そして、その結果如何にかかわらず、今後はテレビ番組などで、ゲームとして安易にヘリウムガスの使用企画をやることがはばかられる風潮には絶対になるでしょう。
(テレビという媒体の特性として自主規制がかかることでしょう。)

そして、番組が打ち切りになる可能性も、なくはないと思います。

こうやって娯楽が減っていくのは残念ではありますが、人命に関わる事故であったことは間違いがなく、それよりも何よりも
被害にあった女の子と、そのご家族の方のご心痛は察して余りあります。

診断、治療開始までの時間が短く、脳の塞栓による症状が軽微で、完全に回復してくれることを期待してやみません。



※後記
本記事アップ後、多方面から脳空気塞栓症について質問をいただきました。それに対するQ&Aをまとめた(3B junior アイドルヘリウムガス事故関連)脳空気塞栓症についてのQ&A
の記事もアップしましたので、よろしければ併せご覧下さい。
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