地獄のゾンビ劇場 ~ZOMBIE THEATER~

「地獄の血みどろマッスルビルダー」監督深沢真一によるホラー映画ブログ!
「地獄の血みどろマッスルビルダー 完全版」DVD好評発売中!!!


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「ファミレスで紛糾1」


ある日曜の夕方。
私と田中君(仮名)はいつものファミレスで落ち合った。
久々のシナリオ会議。
もういい加減決定稿としなければ、他の準備が間に合わない。


私はもう第何稿目だか分からなくなったシナリオをテーブルの上に広げた。
前回の修正案を十分吟味した上で、
自分で納得出来る形に仕上げた、私にとっての最終決定稿。


「ちょっと待って」
そう言って田中君はノートを広げた。
嫌な予感。
「実はまたちょっと直したい所が見つかったんで」
的中。


うそぉ~。
当時はまだ手書き。
少しの手直しでも前後大幅な書き直し作業になる。
やっとのことで書き上げた改定稿を読みもせず、
また新たな直しを提案するなんて。


作品をより良くするために色々と考えてくれているのは分かっている。
でもキリが無い。
何か思いつく度に設計図を書き直していたのでは、
いつまで経っても家は建たない。


自由なスタンスで楽しんで参加している彼とは対称的に、
私は思うように先へ進めず苛立ち始めていた。


田中君は色々と説明し始めたが、
私の頭の中は奥菜恵などのことで一杯になっていった。


明らかに乗り気でない私に対し田中君は、
「やっぱり俺もちょっと出すよ、製作費」
と言い出した。
「え?あ、いや、今回は俺の企画だから、全部自分で出すよ」
奥菜恵との妄想デートから我に返り私は答えた。
「でも、それじゃ俺の意見が通らないから。10万円くらいまでなら・・・・・」
田中君はボソリとそう言った。


うーん、
10万円貰っても自分の意見を曲げるわけにはいかないよなあ・・・・・


今回の企画、私の意見を立ててくれる、というのが前提だった。
不本意な変更を受け入れるくらいなら、
半端な資金援助など要らない。
そもそも予算の半分出そう、というのならともかく、
10分の1出してくれる人の意見を、
どこまで汲むべきなのかもよく分からない。
ご意見は全て拝聴するけど決定権は私、責任も私、
という構図は崩せない。
金拾万円也の提供は丁重にお断りした。


結局一通りご意見を伺い、
改訂作業はまたしても次回までの私の宿題となった。


「そうだ、クレジットなんだけど」
気分を変えようと思い、差し障りのない話題を切り出してみた。
「今回俺と君はいろいろ兼任することになるけど、
 同じ名前を何回も出すようなみっともないことはやめよう。
 そうだな、一人2回位で」
聞いていた田中君の表情が曇った。
私は続けた。
「俺は監督・脚本、君は例えば撮影・音響ってとこでどう?
 で、俺と君連名で製作、これなら一人2回」


田中君はしばし考え込み、言った。
「一人3回までにしない?」
「みっともなくない?同じ名前を3回も」
私がそう言うと、すかさず田中君は、
「自分は3回だろ」
と返してきた。
「いや、さっき言った通り2回だよ」
「だって主演だろ」


ああ、そうか。完全に忘れていた。確かに3回。
「じゃあ、3回でいいや。で、さっき言った以外にあと何?撮影に音響に製作・・・」
「製作じゃない!」
田中君は強い口調で言った。
「じゃあ、何?」
私がが訊ねると彼は力強く答えた。
「エグゼクティブ・プロデューサー。製作総指揮」
政策葬式・・・・・
製作総指揮!?


う~ん、それはちょっと違うような・・・・・
私の上に立って指揮を取って欲しくないなあ。
私が立てた企画だし、
製作費も全て自己負担。
ロケ場所は私の生家。
原案も脚本も自分で書いた。
田中君も色々と貴重な意見を提供してくれているが、
今ではそれが私のストレス源となっている。


「それじゃ君の指揮下に俺がいるみたいだから・・・・・
 君単独で製作、ってことにしたらどうかな?」
そう提案してみたが、
「製作なんて実際は何もしてないって言ってるようなもんだよ」
とのこと。


思い出した。
以前彼は言った。今後は製作者の立場から関わってゆく、と。
当初は共同監督を希望していた田中君。
一歩引いてくれたのかと思ったが、
実際はこういうことか。
うーん、どうしよう。


私は少し考えてから言った。
「製作総指揮を名乗るのなら、
 今後は製作者として面倒なことも引き受けてくれる?」
「例えば?」
「例えば・・・そう、出演者の確保とかさ。
 安いギャラで7月8月まるまる付き合ってくれる役者さん、
 方々当たってるけど今のところ一人も見つからない」

私がそう言うなり田中君は、
「そんなのエグゼクティブ・プロデューサーの仕事じゃない」
と呆れたように言った。
私はムカっときて言い返した。
「監督の仕事でもないよ!でもやらなきゃ。
 じゃあ聞くけどエグゼクティブ・プロデューサーの仕事って何なの?」
私がそう聞くと田中君は、
「もっとクリエイティブな仕事だよ。シナリオのアドバイスとか」
と当然のように答えた。
今度は私が呆れて言った。
「そういうことだけやってたいのは誰でも一緒だよ」


結局この件も保留。
差し障りのない話題でも、と思ったのだが、
なんか胸に嫌なモヤモヤが残ってしまった。


その後しばし映画の内容についての雑談が続いた。
気づけば外もすっかり暗くなっていたので、それぞれ夕食を注文した。
夕食を待つ間、劇中のある楽しい場面の話になった。
この話題なら揉めたりせず気楽に話せる・・・・・
・・・・・はずだった。


主人公がゾンビとの決戦に臨むクライマックス。
それまで防戦一方だった主人公が、
ゾンビ相手に宣戦布告する場面。
武器を軽々と振り回しポーズを決める。
思い切り格好良く、そして馬鹿馬鹿しく演出したい。


私が田中君にこの企画を持ちかけた最初の会議で、
こんな場面を入れよう!
と二人で決め、大いに盛り上がったアイディアだった。


でもこの場面について話し合ってみると、
あれ?なんかかみ合わないゾ。
どうやら二人のイメージに大きな食い違いがあるらしいことが発覚、
重要な場面だけに、意見が激しく衝突し、
一触即発の事態となるのであった。

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「シナリオ修正地獄4」


私は共同製作者の修正提案のいくつかを、
熟考の上作品に生かした。
以下は実際に参考にした意見。


「化け物が襲いかかるタイミングが早い。
 君の映画では、いつも殺人鬼やゾンビは突然現れ、突然襲う。
 多分、君の趣味なんだろう。
 襲撃の前にもっと溜めを持たせて
 恐怖感を盛り上げた方が良いのでは」


これはシナリオの中のゾンビ襲撃場面数カ所に対する指摘。


言われてみれば確かにそう。
なんか凄いものが突然襲って来て修羅場と化し、
後は見せ場のオンパレード、
というパターンが好きである。


10分~20分程度の短編ばかり撮ってきたので、
そんな構成がちょうど良かった。


今回は長編。
溜めを持たせる、という演出、
一部に採り入れてみた。


主人公らが席を外し、再び戻ると死体が見当たらない事に気付く、
という場面。
その後あらぬ方向からその死体が襲いかかるわけだが、
その前に少し溜めを持たせた。


一方、
ゾンビを倒した主人公が、気絶していたヒロインを助け起こし、
振り返ると、死体が無い。
「おや?」
と思った瞬間背後から突然襲撃、
という場面。


修正案では、
「一分間くらい死体を捜させてみては」
とのことだったが、
これは採用しなかった。
ここではサプライズの効果を優先したかった。
主人公が死体を捜し回っている一分間、
観客は「この後出て来るんだな」と思い構えて待つだけ。
あれっ?っと思った瞬間、ドンッ!と出した方が良い。
と思った。
私は。


他、積極的に採用した修正案がひとつ。


主人公ら一行が空家の中を取材中、怪現象が発生。
一瞬、悪霊が姿を見せたかと思うと、
突如ナイフが勢いよく飛んで来て一人に突き刺さる。
男は傷口から見る見るゾンビ化。
以降、ゾンビ対人間の修羅場が展開する。
という場面。
(確か大体こんな内容だった。当時の原稿は紛失)


この場面、修正案では、
 「主人公らが見ている前でいきなりゾンビ化、
 ではなく、ワンクッション置いてみては。
 いったん屋敷の取材を無事に終え、
 その後一人が忘れ物か何かで戻り、
 そこでいきなりナイフが突き刺さり絶命、
 という流れの方が良い」
となっていた。


この場面、
私は当初、伊映画「デモンズ」のゾンビ化をイメージしていた。
仲間が負傷し、ジワジワと化け物になってゆく。
助けようか、逃げようか、どうしましょう、オロオロ。
ってな感じが面白い。


なので、最初は「一人で襲われる」という案、
受け入れられない、と思った。
採用したら前後大幅な書き直しになっちゃうので面倒くさいし。


でもこのシーン、ちょっと展開が性急過ぎる気もする。
ワンクッション置くのは悪くない。


それに化け物と遭遇するのは確かに一人の時の方が恐い。
今回作品に採り入れたい「怪談映画的な不気味さ」
を描くのにちょうど良い場面になるかもしれない。
その後はひたすらバトルになっちゃうわけだし。


更に、このシーンの登場人物を減らすことができる。
各シーンの登場人物を少なくすれば、
撮影スケジュールも調整し易くなる。


というわけで、
後で一人だけが戻り悪霊の襲撃を受ける、
というアイディア、ちょっと工夫して採り入れてみた。


取材を終えて忘れ物を取りに戻る、のではなく、
悪霊の存在を感じ取った霊能力者が、
対決、というか対話のために一人で戻る形にした。


こんな感じでいくつかの案を作品に組み込んだものの、
田中君の修正案は、彼自身の趣味による意見も多く含まれるため、
安易に取り込まないように注意した。
私の趣味とわがままを優先させなきゃ、
自分の作品としての個性が失われてしまう。


なので内容自体大きな変更は無かったものの、

全体として作品のトーンは暗めでシリアスな方向にシフトしていった。


もともとは「ブレインデッド」「キャプテンスーパーマーケット」

に触発された作品なので、コミカルな要素が勝っていた。


しかし田中君は、ギャグは極力切るべきと主張。

上記2作品が笑えるのは、

センスに秀でた話しの上手い奴らの作品だからであって、

素人のギャグは外した時が恐い、とのこと。


自作映画で渾身のギャグを見事に外した時の会場の寒さが

私の脳裏をよぎった。


また、怪談映画的なおどろおどろしいムードを演出する際、

ギャグと軽いトーンが邪魔になるかもしれない。


結果、私は細かなギャグを削除。

コミカルな要素は、登場人物たちの性格に由来する、

かみ合わない会話や突拍子も無い行動などに集約した。


まさかこの変更が、後に大きな対立のキッカケになろうとは、

全く夢にも思わなかった。

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「シナリオ修正地獄3」


共同製作者の田中君(仮名)が、
シナリオの細部にまで口むのには理由があった。


この企画を持ちかけた際、
彼が希望したのは、共同監督、共同脚本。
しかしそれには私が難色を示した。
結果、彼の方が一歩引き、製作者という立場から関わることになった。
彼によれば、
「製作者という客観視出来る立場の人間がいることにより、
作品は確実に良くなる。
たいていの映画はディレクターズ・カット版より通常版の方が面白い」
とのことだった。


つまり、彼としても作品をより良くしようと思っての口出しだった。


でもこれは自主映画。


自分の思うようにやりたい。
そのために全貯蓄を製作費に注ぎ込もうと決心したわけだし。
製作者としての介入は、
私が一人よがりに走らないよう助言する、
程度に留めておいて欲しかった・・・・・


とにかくシナリオに関しては彼と随分やり合った。
手紙でのやり取りのみに留どまらず、
仕事を終えた後、私の実家の向かいにあるファミレスまで御足労願い、
深夜まで激論を飛び交わした。


具体的にどんなことで意見が分かれたのだったか。


まず思い出されるのはヒロイン「美香」の性格のこと。


ジャーナリスト。性格は勝ち気。
幽霊屋敷の取材に主人公を誘う。
主人公の元恋人で、
いい加減な性格の主人公に愛想を尽かして別れている。
振った男に取材の協力を求めるくらいだからちょっと図々しい。


私はヒロイン美香のキャラクターをこう設定し、
それを基に行動させた。
当然ながら、少なくとも人並みにはおしゃべりな女性となった。


これに対し、
「セリフが多過ぎる。よくしゃべる女だな、と思った。
 か弱い女とたくましい男、という図式の方が良いのでは?」
というのが共同製作者の意見だった。


私は、ヒロインの性格は詳細なバックボーンに基づいたもので、
変更できない、と伝えた。


「それでも美香のセリフは切るべきだ」
田中君は再度そう主張。
理由は
「まともにこのセリフを言える素人役者はいないと思うから」
演技力の乏しい役者が美香を演じることになった場合、
しゃべらせることにより映画が壊れる。
それが恐いから、自分は無セリフ映画ばかり撮ってきた。
とのこと。


一理あるがそれを言い出したら、
ヒロインは無口な暗い女性以外に設定できない。


役者さんの演技力不足に備えて、最初からセリフを無くしておこう!
なんて、私にはとても考えつかない発想だった。
誰が演じようとも、私が必要と思ったセリフは全て言って欲しい。
下手でも出来る範囲で頑張って言って欲しい。


この件に関し、
私はファミレスでの会議で詳細に説明して彼を説得した。
土曜の晩だったと思う。
私は公休日。塚田君は仕事を終えてかけつけてくれた。


  美香の性格は、
  主人公の青年、直人の性格を描き出すため最適に設定されている。


  直人は亡くなった両親の遺産で気楽に暮らす青年。
  心配する人間もいないので、
  面倒は避け、好きなことだけやって生きている。
  好きなこと、と言っても決してギャンブルなどではなく、
  肉体を鍛えること。
  一言で言い表すと、消極的なポジティブ人間。ついでにマッチョ。


  この一風変わったキャラクターの魅力を、
  ヒロイン美香とのからみの中で引き出して行きたい。


  勝ち気でちょっと自分勝手な美香が直人にくってかかる。
  自分で幽霊屋敷に誘っておきながら、
  閉じ込められゾンビまで現れる事態に至ると、
  「ちょっと、どうするつもりよお!?」
  などと理不尽なことを言う。


  気の強い元恋人にせっつかれ、追い詰められて、
  直人も気楽に構えてなどはいられなくなる。


  恋人を守るために戦う男にならなければならない。


  ここで主人公の変化、成長を描くことができる。


  美香のキャラクターはそこまで考えて設定されたもの。
  従って無口なか弱い女性にはできない。


「言わんとすることは判ったけど・・・・・
 それ、ほんとにやる必要あんの?」


田中君、登場人物については企画段階での、
「マッチョなヒーローがゾンビ相手に大暴れ」
というレベルの設定で十分だと考えているようだった。


確かに、それだけの方が単純で面白くしやすい・・・のかも知れない。
私とて「主人公の人間的な成長を描くのだ」
などと言って、説教臭い映画にする気は毛頭無い。
ただ事件を通しての人物の心境の変化や人間的成長、

今回は描いてみたい。
あってもいいと思う。
無いよりはあった方がいいと思う。


私は説得を続けた。


  今回、登場人物にリアリティを持たせるため、
  個々の背景を詳細に設定した。
  その一つとして、美香が過去、直人に愛想を尽かしている、
  という裏設定がある。
  で、人間的に成長してゆく直人を美香が見直す、
  という方向に持って行ければ・・・・・


「フッ」
聞いていた田中君が鼻で笑ったのを、
私は見逃さなかった。


「まあ、判らなくも無いけど、やらない方がいいと思うよ」
呆れたように田中君は言った。


それ以上の議論は無駄に思えた。


この件に関し、私は自分の考えを押し通す事にした。
もともと私の意見を優先する、という約束だったので、
彼も無理強いはしなかった。


が、正直思った。

なんか・・・窮屈。

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「シナリオ修正地獄2」


もうずいぶん大昔のある正月。
奇跡的な勢いでシナリオ第一稿が完成。
夏の撮影まではまだ半年以上ある。
この調子なら余裕で準備を進められるぞ、
なんて呑気なスケジュールを思い描いていた私。


撮影は7月、8月と決まっていた。
カメラ担当の田中君(仮名)は
この時期、本職のブライダル撮影がほぼお休み。
それに合わせてロケ地となる空き家も、
取り壊し予定を夏から秋へ延ばしてもらっていた。
私はそれまでに退職する。


シナリオはもう決定稿にして差し支えない出来栄え。


となると次は画コンテか。
小道具、大道具などの美術。
ロケ地の空き家も掃除してセットを組まないとだな。
そしてゾンビマスクやら人体パーツやらの特殊効果用の造形製作。
役者の人選。
配役が決まったら衣装も用意しなければ。
あと演技のトレーニング。
忘れてはならない。私は監督であると同時に主演男優なのだ。
演技プランも練っておかねば。


平日は残業があるので、
しばらく準備は深夜と週末が中心になるな。
5月までには退職して以降映画に専念しよう・・・・・


・・・・・という思惑通りに事は運ばず。
のっけから大きくつまずくことに。


自分の才能が恐ろしくなるほど完璧な出来だったはずのシナリオ。
まさか決定稿まで半年もの期間を要するとは・・・・・


共同製作者の意向を受け、
私は一部に修正を加えた改定稿を再送付した。


当時はまだ原稿用紙に手書き、というやり方だったので、
ちょっとの直しでも前後かなりの文量を書き直さねばならず、
とても骨が折れた。
連日深夜に睡眠時間を削って書き続けた。
やっとのことで完成させた第二稿だった。
田中君の意見にも一定の配慮を忘れずに、
自分でも納得出来る形に仕上がった。
ホッとひと息。
さあ、気を撮り直して次は画コンテだ!


と、そこへ一本の電話が入る。


「第二稿読みました」
田中君である。


「おお、そうか、じゃあそれ決定稿ってことで!」
「いや、それがちょっと・・・・・」
「今度はワープロ打ち自分でやるからね!」
「いや、ちょっとその」
「自分で、と言っても実は彼女に打ってもらうんだけどね。ははは・・・」
「いや、だからちょっと」
「さあ、次は画コンテだ!頑張ります!!!」
「ちょっと待て!また直しを入れたものを送っといたから!」
・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

なに?


翌日、田中君から一通の封書が届いた。


私の自信作は、ところどころ加筆され、修正され、削除されていた。
ん?
つい最近にもそんなことがあったばかりのような気が・・・・・
・・・・・・・・・・
デジャヴ?


第一稿に対する彼の意見を全てきいたうえで、
直すべき部分は直し、
取り入れるべき意見は取り入れ、
私が納得して再度書き上げた第二稿。
この上何を直せと?


赤ペンを入れられた箇所をチェックしてみる。


前回私が却下したはずの修正案が、
再度復活していたりする。
また前回素通りされていた箇所が、
今回新たに直されていたりもする。


なんで?なんでこんなに手を入れなきゃなんないの?
あとなんで一度に言ってくれないの?
手で書き直すの大変なんだよ。


同封されていた手紙には、
「シナリオは常に持ち歩き、時間があれば常に内容をチェックしている」
とある。
なるほど、読み返しては何か思いつく度に直しを入れているのか。


結局その後、
私は田中君の再修正案を吟味し、却下したり、採用したり、
場合によっては中間的な妥協点を探してみたり・・・・・
苦心の末第三稿を書き上げた。
もちろん手書き。
大変。
で、再送付。
が・・・・・
しばらくするとするとまた赤ペン入りの無残な姿になって却ってくる。
う~ん・・・・・
苦心の末第四稿を執筆。
手書き。
大変。
送付。
赤ペン入りで戻る。
・・・・・・・・・・


別に私の案が間違っているというわけじゃない。
彼の案も間違ってはいない。
ここまでくるともう個人的な趣味の違いだけ。
だんだんやんなってきちゃって、
しまいには修正案のほとんどを却下、大して直さずに返送。


こんなことが本当に繰り返された。
年の初め、意気揚々と書き上げた夢のゾンビ映画の設計図。
その仕上げ作業は、気付けば先の見えない苦行と化していた。

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「シナリオ修正地獄1」


大きな決意の上で書き上げた、
夢のゾンビ映画シナリオ第一稿。
その完全無欠(なはず)の自信作を、
あちらこちら加筆、修正、削除した上で送り返してくれたのは、
共同製作者の田中君(仮名)。


「気づいた事は遠慮なく言って」
と言ったのは私だが、
けっこう遠慮なくいじられてしまった。
作品のために善かれと思っての修正案なのは判るのだが・・・


引っ掛かったのは、
彼自身の趣味により改変されている部分。
「無口な女性が好きだからヒロインにあまりしゃべらせるな」
はどうしても納得出来ない。


私は読み終えた添削だらけの原稿を投げ出すと、
モヤモヤとした気分のまま、
しばらくの間自室のベッドの上に座り込んでいた。
そして横になり、考えた。


自分のやりたいことを存分にやろうと企画したゾンビ映画。
妥協することなく、本当に撮りたい作品を撮るため、
多くの代償を支払う覚悟も決めた。
その上で書き上げた第一稿。
「より良くするため」の修正であっても、
それはあくまでも他人の主観による「良い」
自分にとっての「良い」を優先させなきゃ意味が無い。


今回私はシナリオを書くに当たり、
ドラマの背景を綿密に設定していた。
登場人物各々のそれまでの人生を想像し性格を設定、
それに基づいて人物に行動させた。
これらは原案の段階では全く考えなかったことである。
当然ながら田中君の修正案では、
この辺の裏事情は考慮されていない。


またこの企画、
原案段階では「コミカルなホラー」というだけの内容だった。
私はそれに加えて、
日本の古いB級怪談映画に見られるような、
陰湿で不気味な要素を随所に盛り込みたいと考えた。
それも原案段階のコンセプトとは異なるので、
田中君の構想には無い。


意見が食い違うのも当然か。


私は共同製作者の修正案をどう扱うべきか、
自分の中での指針を定めることにした。


 まず私のコンセプトにそぐわないアイディアは申し訳無いけど却下。


 良いと思ったアイディアも、
 取り入れて支障がないかよく吟味する。


 私の案と彼の案、どちらでも良さそうな場合は、
 自分の意見を優先させる。


以上を踏まえたうえで添削済みのシナリオを読み返してみる・・・・・


う・・・・・・・・・・
いかん、
ほとんどの修正案が却下だ。


映画に「正解」「不正解」なんてあって無いようなもんだからなあ。


どちらが良い悪いという問題ではなく、
自分の意見こそ正解に思えるに決まっている。


でも協力者の意見を無視することはできない。
彼の意見も立てて修正案を一部受け入れるべきか。


でもほんとにそれでいいのかな?
そんなことする必要あるのかな?


う~ん・・・・・・・・・・


悩んだ末、自分の責任において直した、と思える範囲内で、
いくつかの意見を参考にさせてもらった。


これ以上は変えられない。


まあ、これで決定稿に出来るだろう、
私はそう踏んでいたのだが・・・・・

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「添削の嵐!」


 作品のスケールに見合う時間と予算が確保できず、
 企画段階で暗礁に乗り上げていたゾンビ映画製作企画。
 企画開始当初、
 私は20分程度のビデオ撮り作品を予定していたものの、
 協力者の田中君(仮名)はフィルム撮りの大作にすべきと主張。
 私も徐々に心が傾いていった。
 とは言え、予算も少なく、
 私と田中君の休日は全くかみ合わない状況。
 私は貯蓄を全額製作費に当て、
 時間を作るため勤め先を退職する決心を固めた。
 覚悟を決めた私は正月休みを利用し、
 一気にシナリオの第一稿を書き上げた。
 突然のスケールアップに当惑気味だった田中君も、
 「ポジティブでいこう」という私の言葉に安心したのか、
 手書きだったシナリオをワープロ打ちにして返送してくれた。


私は自室のベッドの上に寝転がり、
田中君からの手紙を読み始めた。
読み進めるうち、気になる一文に出くわした。


「俺がシナリオに加筆した内容について説明しよう」


加筆?
私はワープロ打ちされたシナリオを手に取り、慌てて広げた。
そこかしこ書き込みだらけだった。
私の自信作は赤ペン先生により、
ところどころ加筆され、修正され、削除されていた。


「より良い作品にするために直させてもらった。
修正内容には俺の好みも多分に入っている。
趣味の違いもあるので、意見がぶつかるのは当然。
君が受け入れられない部分については話し合おう。
そちらの意見が正しい場合もある」


私はどうにも落ち着かない気持ちになった。
ベッドの上に座り込み、頭の中を整理しようとした。


第一稿を書き上げた時点で、私は大きな達成感を得ていた。
ほぼ完璧じゃん、なんて思っていた。
こんなにもあちこちいじる必要など無かった・・・・・はず。
なのに目の前には添削だらけの無残なシナリオがある。


原稿を送る際私は、
「何か気付いた点があったら遠慮なく言ってくれ」
そう書き添えておいた。
入り込んで一気に書き上げてしまったシナリオなので、
客観的な視点で読んでいただき、
ご意見ご感想など拝聴しようと思ったのだが、
ここまで徹底的に添削されてしまうとは。
ましてや他人の趣味に合うように直されてしまっても困る・・・・・


それに・・・・・


「君が受け入れられない部分については話し合おう」
ってのがちょっと引っ掛かる。
私が自分の考えを優先させるには、
まず話し合い、了承を得なければならないのだろうか?


更に、

「そちらの意見が正しい場合もある」
ってのが大いに引っ掛かる。
基本的には正しくないと言わんばかりである。


私は落ち着かない気持ちのまま、
修正された部分に目を通した。


表現が分かりにくい箇所には、
「どういう意味?」などのチェックが入っている。
独りよがりにならないためにも、こういうのは助かるかな。


問題は彼の趣味に合わないという理由で、
削除及び変更されている部分。


特にヒロインのセリフ。
その多くが「不要」という赤字とともに棒線で削除されている。
不要、不要、不要、不要・・・・・・・・・・
多くのセリフがカット!
明るくてよくしゃべるタイプのヒロインが、
すっかり寡黙な人になってしまった。


ヒロインのキャラクターを変更すべき理由を、
田中君は手紙の中でこう説明していた。


「映画の中において、俺は無口な女性に強く魅かれるのだ」


・・・・・そんなこと・・・・・言われてもなあ・・・・・・・・・・

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「立場逆転!」


もうずいぶん昔のある夏に思い立った、
大作スプラッター・ゾンビ映画の企画。


ストーリーも確定できぬまま
半年近くも難航していたというのに、
翌年の元日、
突如ゾンビ映画の神様から啓示を受け、
たった2日でシナリオの初稿が完成した。


あまりの完璧な出来映えに、
私は実家の自室の中、一人大笑いすると、
その素晴らしい第一稿を原稿用紙に清書し、
コピーをとって意気揚揚とポストへ投函した。
制作協力者の田中君(仮名)に読ませるためである。


懸案だった撮影日程や予算の問題も、
私が勤め先を退職し、預金を注ぎ込むことでクリア。
田中君は泣いて喜ぶだろう、
と思っていたのだが・・・・・・・・・・


しばらくして、田中君から一通の書簡が届いた。
以下は、実際に届いた手紙の冒頭部分の抜粋。


「前略 今、シナリオを読み終えたところだ。
まだ細かいことは言えないが、率直な感想を述べさせてもらおう。
はっきり言って俺は怖じ気づいている。
このシナリオを最良の形で具現化するのは、
とてつもなく難しいと思う。
実現出来る、出来ないは抜きにして
とにかく好きに書いてくれ、と言った俺が言うことではないが・・・・・」


この後、便箋四枚に渡り、
頼むから作品の規模を縮小してちょうだい、
と必死の説得が続いていた。


「一つ一つのシークエンスが長い。
簡略化しないと、撮影出来なかった、完成しなかった、
ということになりかねない。
撮り終えることが出来るテイク量に限定すべき。
これだけは入れたい、というもの以外、
余計な装飾を削り取ろう」


な、なんで?

言ってることが180度変わってるぞ!


これまで、作品規模を確実に撮れる範囲内に縮小すべき、
と強く主張し続けてきたのは、私の方だった。


対する田中君の意見は、
とにかく大作でないと撮る意味が無い、
ということで一貫していたはず。


どうやら私が突然企画を拡大したことに
戸惑いを覚えているようだった。


コンビというのは面白い。
一方が自由奔放に振る舞おうとすると、
一方が押さえにかかる。
無意識にバランスをとろうとするようである。


だが、このときの私には「出来る」という根拠と確信があった。


「俺も一生に一本くらい、
本当に、心から納得できる作品を撮りたいのだ。
会社を辞めて必要なだけ時間を作る覚悟だし、
予算も十分取ってあるから、
安心して参加してくれればいいんだよ。
ポジティブでいこう。
失敗したって殺されるわけじゃない。
大丈夫。俺達なら必ずいいものが撮れるよ」


私は彼にそう手紙で伝えた。


すると驚くほどの速さで田中君から返事が届いた。
もちろんパソコンや携帯が普及する以前の話。
また、書簡である。


「今回もらった手紙は、
君のこの作品に対する意気込みが
痛いほどに伝わる名調子であった。
こちらも一発気合を入れねばと思わずにはいられなかった。
その気持ちの表れとして、シナリオをワープロ打ちして同封した。
これは書き直しの際の君の作業を少しでも楽にするためだ」


そうかそうか、俺の気持ちを判ってくれたのか。
ありがとう、田中君。
やはり持つべきものは友達だよ。
これからもよろしくたの・・・・・


ん?


手紙には続きがあった。
便箋四枚に渡り、いつになく細かい字でギッシリと・・・・・・・・・・。

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「決意のシナリオ第一稿」


スプラッター・ゾンビ映画の決定版を撮ろう!


そう思い立ったのが90年代のある夏。
その年の暮れ、
遅々として進展しない企画のことは常に頭の片隅にあったものの、
暮れの忙しさの中、
私は忘年会で歌うカラオケの曲目や、
奥菜恵の事などを考えながら
会社員として日々慌ただしく過ごしていた。


暮れも押し詰まり、仕事納めの後、
例年通り私は帰省する彼女を駅まで見送ると、
自宅へ戻り自室の大掃除に取り掛かった。


大晦日一日かけて徹底的に片付けたマイルームで、
ホラー映画三昧の正月を過ごすのが、
例年の楽しみとなっていた。


しかしこの年の暮れに限り、
常に頭の中にある考えが居座り、
掃除などしつつも、
それは私の中で次第に膨らみ、
形を成していった。


そして時計の針が深夜12時を回り、
新年を迎えたその時、何かがはじけ、
私は大きな決心をした。


大きな仕事に取り掛かるための唯一の道を、
私は既に発見していた。
踏ん切りがつかなかっただけだったのだ。


私の決心とは、


1 長年勤めた会社を退職、製作の為の時間を作る。
  そして映画完成まで再就職はしない。


2 コツコツと貯めた銀行の積み立て預金150万円
  (結婚資金になるんだろうなあ、と思っていた)を、
  製作費とその期間の生活費に当てる。


3 父に頼み込み、空家の取り壊しをその年の夏以降まで延期し、
  カメラマン田中君の夏の長期休暇に合わせ、集中してロケを敢行。


4 役者には少額でもギャラを支給し、
  多少でも演技経験のある人材を確保する。


私は元旦から脚本の執筆に取り掛かった。
諸々の制約が一気に取れたことで、
自分でも信じられないほど軽やかに筆は進み、
正月2日には、下書きの状態だが第一稿が仕上がってしまった。


しかも2日で仕上げたとはいえ、
各登場人物のバックボーンまで詳しく設定し、
ネーミングにまで気を配った、
我ながら本格的な力作だった。


ちなみにネーミングは、大学時代の学籍名簿から、
発音しやすく、なおかつ響きの良い名前をリストアップして決めた。


これだけ仕事が速く進んだのは、
私の作業能力が飛躍的にアップした・・・・・わけではなく、
田中君との長い長いやり取りの中で、
「私は本当ならこうしたいのだ」
という考えが知らぬ間に私の中で形作られていたのだろう。


当然ながら、人物設定や物語の展開は、
私自身の案を採用。
私の案の方が優れているから、というわけではない。
自分で書き、撮る以上、
自分のエゴを通さなければ何の意味も無いからだ。


人物のバックボーンは、
以前あるシナリオコンクールに応募して落選した、
私の別の作品から流用した。


私はすぐさま田中君に電話で連絡した。


「おお、君か、あけましておめ」
「シナリオが完成したのだ!!!」
「へ?」


私は自分の決意と今後の計画を、意気揚揚と田中君に伝え、
すぐに清書した第一稿を送る事を約束した。


「楽しみに待っていたまえ!ふははははは!」


私は今までに無いほどのブ厚い紙束を封筒にねじ込むと、
自宅近くの郵便局へ走りポストへ放り込んだ。


同封した手紙には、田中君の意見も無視しないよう、
何か気付いた点があれば遠慮なく指摘してくれ、
と一筆書き添えておいた。


内容的には私の案を採用していたものの、
田中君の希望した通り大作に仕上がっている。
(私は50分程度、と見積もっていた)


しかも今回は田中案の時のような
製作環境の整わない中での実現性の低い大作化ではない。
ちゃんと時間も費用も確保した上でのスケール・アップだ。


田中君は喜んでくれるだろう。
大喜びだろう。
泣いて喜ぶかもしれない。


数日後、思ったより早く田中君からの返信が届いた。
そこには田中君の歓喜と祝福の言葉が、


・・・・・無かった。


彼の反応は意外なものだった。

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「地獄への第一歩」


この私が鍛え上げたマッチョな肉体を武器に、
凶暴なゾンビと壮絶なバトルを繰り広げるという、
少々、いやかなり自己満足な夢の企画。


製作協力者であり、撮影担当の友人田中君が
私の書いた原案を勝手に、いや独自に膨らませ、
長編作品としてストーリーを書き上げ、送り付けてきた。


私はそのストーリーを踏まえつつ、
限られた日程の中で撮影可能な規模に内容を改変、
短編作品に縮小し、田中君に送り付けた。


するとその短編案を踏まえつつ、
長編に膨らませたストーリーが送られてくる。


私はそれを短編に縮小し送り付ける。


するとまた長編が・・・・・


こんな頭の悪いやりとりが実際に繰り返された。
まるで右脳と左脳のキャッチボールである。


しかも田中君の新案では、
私が彼の案から削除した内容や設定を復活させたうえ、
更に私の代案も「踏まえる」、
すなわち盛り込んできていた。


何だか、だんだん内容が濃くなってきてるような気が・・・・・


季節は秋。
当時ブライダル・カメラマンだった田中君は
学生並みに長い夏休みを終え、
平日にしか休めない生活に戻っていた。


私も連日残業続きで、
製作に関する連絡手段は、
もっぱら手紙か、深夜の電話だった。
(電子メール普及以前のお話です)


「日程とか人手とかの制約は無視して、
一度、本当に自分の撮りたいものを書いてみたら。
実現できる、できないは別にしてさ」


季節は移り変わり、
吐く息が白くなり始めた頃、
久しぶりに顔を合わせた田中君は私にそう言った。


そうしたいのはやまやまなのだが・・・・・・
それが出来ないから悩んでんじゃん。
何故理解出来ない?
現状のままでは、田中案どころか、
私の短編案ですら、実現は困難である。


何しろ監督とカメラマンのスケジュールが、
月に一度合うかどうか、という状況なのだ。
ロケ場所の空家は翌年の夏までには取り壊してしまう予定。


何か大きな発想の転換が必要だった。


そしてその年の暮れ、
私は大きな決断を下してしまうのだった。
果たしてその決断は正しかったのかどうか。
今でもよく判らない。
判らないからこんな記録を後追いで書いている。


地獄への第一歩
だったような気もする・・・・・・・・・・

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「シノプシス」


父の所有する空家で撮影予定のゾンビ映画。
カメラを担当する田中君は、仕事の都合で平日しか参加できず。
会社員の私が有給休暇を取るにしても、撮影日数はごく限られる。


せっかく一緒にやるのだから大作に仕上げたい、
という田中君の意見は理解できる。
とは言え無茶な計画を立て、
結局頓挫してしまっては元も子もない。


こりゃ、15分程度のビデオ撮り作品ってとこだな。
手を抜かず見せ場をたっぷり盛り込めば、
15分でも十分面白く出来る。


基本的には、私扮するヒーローが大活躍出来れば、
とりあえず満足なのだ。私は。


最終的には田中君もその線で納得せざるを得ないだろう。
私はそう踏んでいた。


ある日、私宛に一通の書簡が届いた。
中には分厚い紙束が畳み込まれている。
差出人は田中君。
新作のシノプシスだった。
(まだパソコンも携帯も本格的に普及する以前のお話)


A4サイズの用紙3枚に細かいワープロ文字がギッシリ。
その他に説明の手紙が添えられている。
私が一向に企画を進めないので、
しびれを切らし、自分で書いてしまったらしい。


ムムム、これは越権行為なのでは?
若干ムカっときたものの、手紙には、
「何もこれに決定せい!と言ってる訳ではない。
そちらの意見を立ててゆくつもりなので、
あくまでも参考までに」
とある。


なるほど。まあ、そういうことなら、読んでやるか。

一気に読み終え、
私はしばし呆然とし、力なく笑った。


その内容、
基本的には私の書いたストーリーにほぼ沿っていた。
夏の間ディスカッションを重ねた中で出て来たアイデアなども、
ちゃんと盛り込まれている。


逆に会議で言及されなかった部分は、
未定のまま。
ラストシーンも書かれていない。


まず引っ掛かった点。


ゾンビ発生の理由、
というか死者が蘇生するメカニズムに一切触れていない。
私の原案では、霊能者が悪霊に憑依されてゾンビ状態になり、
噛み殺された人間にも呪いが感染、ゾンビ化、となっていた。
田中君の案では、霊能者のお祈りで悪霊が目覚め、
その悪霊に殺された人間は当たり前のように甦ってくる。
「どうも、甦りました」
って感じ。
全体に理詰めな展開なので、
これだと、「何で甦った?」
という純粋な疑問が生じる。


まあ、些細な事ではある。
まだシノプシスの段階なのだから。


じゃあ、この田中案、一体何が問題なのか?


長いのである。


大作なのだ。


これを基に脚本を起こしたら、
おそらく1時間前後の作品になるのでは?


舞台となる家も広い。
イメージとしては洋館。
私扮する主人公は、
広い屋敷の中を、1階から2階へ、
更には地下室へ、と走り回る。


実際に舞台となる空家は、
純和風、2DKの木造平屋。
2階も地下室も無し。
地下室のシーンを入れようと言い出したのは実は私だが、
「狭い車庫があるので、その一角を地下室に見立てよう」
と言ったのは彼の耳に届いていなかったようだ。
このシノプシスでは、クライマックスなど、
重要な場面の舞台がほぼ地下室になってしまっている。
さすがに無理だろう。


この田中案、
いろんなホラー映画の面白い場面を思い浮かべながら、
楽しんで書いた、
そんな印象を受けた。
こんな映画を作りたい、
という彼の想いが込められていた。


ああ、なんて自由な奴なんだろう。
撮影日数は述べ20~30日といったところかな。
大勢の役者さんを長期間拘束しなけりゃならんな。


はははは・・・・・


無理。


我々二人のスケジュールすら数日しか合わせられないのに。


そもそもこういう自由なもので良いんなら、
私が自分でとっくに書けてたんじゃない?


ずるいじゃん。楽しい作業だけ勝手に先走って。
私は悩み事担当?


私はひと息ついて冷静になると、
自室のベッドの上に腹ばいになり、
しばしボーっとした後、
おもむろに返信の手紙を書き始めた。


まず、撮影日程など現実的な問題が解決されていないことを指摘。
更に建物の構造上、実現不可能である旨、
家の見取り図を添えて説明した。


そして、対案として、現状で実現可能な規模の作品、
つまり、登場人物を絞り込み、
一週間程度で撮り切れる短い内容のシノプシスを書き上げ同封した。
けっこうアッサリと書けた。


私の新案では、登場人物が全員揃うような場面を減らすなど、
スケジュールが調整しやすくなるよう工夫した。


またゾンビに特殊な能力を設定し、
少ない人数でも派手な闘いに見えるようにした。


特殊効果を要する場面も、
後で完全別撮りに出来るようにした。


ただ、書き始めると、私でもやはり話が膨らんでしまい、
まあ、ギリギリ20分に収まるかな、
という程度の規模にはなってしまった。


またこの対案では、
田中案の内容も全く無視はせず、
ある程度踏まえておいたので、
これなら彼も恐らく納得してくれるのではないかな?


私は仕上がった原稿に説明の手紙を添え、
田中君宛に発送した。


具体的に作品の全体像がつかめて、
結果的には大変満足だった。
これも田中君が先走ってくれたおかげである。


最初彼の原稿を受け取ったときには、
「こっちがスケジュールとかの事務的なことで悩んでんのに、
楽しい作業だけ持っていきやがって」
などと、少々腹も立てたが、
結果的にはメデタシメデタシ。
実現可能なシノプシスが完成しちゃったじゃん。


はっ・・・・・、
奴め、ひょっとして・・・・・

最初から私を奮起させるのが狙いだったのか?

・・・・・ふっ、
ふっふっふっ、
はっはっはっはっ!
そうか、そういうことだったのか!
まんまと引っ掛かったわけだ。
まあ良かった。
やはり持つべきものは友達である。


数日後、田中君から電話で連絡があった。
「この前のシノプシス、完全に私のフライングでした」
開口一番、彼は自分の非を認めた。


何言ってんだか。
君の魂胆はちゃんとお見通しさ。
私を奮起させようと画策しただけ。
ちゃんと判ってるよ。
おかげで、実現可能な
素晴らしく
完璧で
非の打ち所の無いシノプシスが完成した。
ま、書かされた、というべきかな。


「それから新しいシノプシスも読みました」


うんうん、気に入ったと言うんだろう。
皆まで言うな
判ってるから。


「あの内容じゃ、ちょっと・・・・・」


うんうん、


・・・・・・・・・・


ん?


翌日、田中君から新たな原稿が郵送されてきた。
それは、私の案を踏まえた上で、
作品の規模を大作化した新案だった。


膨らませてどうするのだ!


せっかく苦労して縮めたのに!


私は再び脱力した。
そして頭の中は、
奥菜恵のことなどで一杯になってゆくのだった。

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