秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

久しぶりに汗ばむ午後だった。


こちらでは油蝉が鳴き始めた。翌朝からの徹はまたボランティアに行く。
「徹、悪いけどちょっとしてくれない?」
「何?」
「声聞いてするのに慣れちゃってさ、一人じゃ気分が出ない」
徹は苦笑いをした。
「この間は徹が一方的に逝っちゃったの覚えてる?あれからずっと中途半端で。
 いつ子供が帰ってくるか分からないから、もう少し大丈夫だと思うけど、声だけ聞かせて。普通の話していて良いからさ」
「それはもったいないだろ」


私の欲望を煽り立てる徹の声を聞きながら、その瞬間恋しくて逢いたい思いが溢れ出して来た。達したそのままですすり泣いた。
「どうした」
「逢いたい…徹に逢いたい…逢えないのが辛い」
途端に不機嫌な声が聞こえた。
「泣くな、女に泣かれるのが俺はめんどくさくて一番嫌なんだ。俺に嫌われたくなかったら泣くな」

「わかった!泣かないから!」


「俺もいろいろ考えたんだけどさ、やっぱり逢わないでおこう。
 この世界で知り合ったんだから、この世界だけでやっていくほうが面倒がなくて良いよ。
 doorだって、彼氏とか子供とかいるんだから。逢ってややこしいことになったら、困るだろ。
 俺今だっていろいろ大変だし、これ以上の厄介は抱え込みたくない
 だからdoorちゃんもそのつもりでいて欲しい。それが一番良いことだと思うぞ。今は知り合ったばかりだからあれだけど、しばらくすればそのうち何でも話せる友達みたいになれる。」
「だけどね、はじめに無理やり私の本名を聞いたのは徹ちゃんじゃないか。別に境界線とか意味ないじゃんって言ったのは徹ちゃんだよ」
あの日以来、私が余りに嫌がるので徹は私の本名を呼ばない。

「そうか…」
徹の言うことはもっともで、彼にしては大人な判断だった。
私は少し違った考え方をしていた。どうせ徹は福島を離れるつもりが無いのだから、ややこしい事になどならない。実際友達になれることは確信していた。今だって充分大切な友達で、その関係が途切れなければ良かった。
徹の性格では私とぶつかるばかりなのは分かっている。ずっと近くにいれば私は彼に疲れ果てるだろう。それでも徹とは激しくぶつかり合うたびに、お互いが理解し合えて行く面白さを感じていた。たかしとの間で感じるどうしても埋まらない距離を徹は軽々と越えていく。

私にとっても彼はおもちゃだった。新しく、貴重で、面白いおもちゃをどうしても手に入れたい。
私の中の悪女が囁いた。「本気にならなければ、手に入れるのは簡単だ。それでいい」

それはずるくて不純なのだろう。少し前までの私だったら自己嫌悪に陥るレベルだが、全体を俯瞰すると、その判断がお互いを幸せにする。私は心を決めた。

「でも、分かった。徹ちゃんの言うのが一番だと思う」
もちろんそんなつもりはさらさら無い。
「doorは賢いもんな。…どれ、逝ったか、顔見せてみろ」
「うん」
「おぉ、すっきりした顔になったな」と屈託無く笑った。私の中の悪女も知らずに。




「聞いたら買上米は凄く安いんだ」
「そうかもしれない…」
「これは市場に出回るなぁ…」
「来年は安い米を買ったつもりで被爆する人が増えるのかも…」
「だから米なんか作るなって初めから…」
食べる人が被爆するような米を作りたくないというプライドのある農家は保障してもらえなくて、お上任せにいつも通り作った人だけが補償される。それもおかしい。一つ一つ見てみるとおかしくて不公平なことばかりだった。
それにしても全てを補償していたら、東電も日本も破綻してしまう。瓦礫は綺麗になりつつあるけれど、相変わらず問題は山積みのまま。


「ガイガー持ってそこらじゅう測りまくってくるよ、じゃぁまた来週」


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