秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして


「ガイガー借りてきた!面白いぞこれ」
「おおぉ、家の中でどれぐらいあるの?」
「測ってみる」
 ピッと、音がして私は震え上がった。音がしたらかなりの線量になるのだろう。
「え”~鳴ったよ」
「あ、これはねん、スイッチ入れたときにも鳴るの。俺の部屋今で0.2マイクロシーベルト毎時」
「室内でそれなの?」
「うん、うちは高台にあって、結構風通しは良いんだけどぉ、うちの雨どいのところ調べたらビービー言っちゃってさ、2マイクロシーベルト毎時だった。うふふん、そんなところで、毎日ゴミだししたり、掃き掃除したりしてるんだな。うちのお袋は、ふふふん」
絶句した。
「ふふふん、もうねぇ、なんか放射能に対する感覚が麻痺してるの、福島の人間は。お袋なんかさっき測ってたら『本当に鳴るんだねぇ』とか言って感心してたよ。ギャハハハ」
「掃き掃除するときにマスクとかしてる?」
「大人がこのクソ暑いときにそんなものするかよっ」
「そうだよねぇ」
「うちでこんななんだから、下のほうとかすげーんだろうな」
私は心の中で悲鳴を上げていた。放射能の影響は積算が問題になる。もう中通りはお終いだ。
「いろいろあるだろうけど、もう引越しをしたほうがいいよ。こっちの方においで。お願いだから」
「あほー、子供もいねぇ俺が先に尻尾巻いて逃げるわけにはイカンだろうがっ、こっちは看板背負ってやってるんだよっ」
「そういう問題じゃないじゃん」
前に「金があったら福島なんて捨ててやる」とも言っていたけど、今日の徹の弁だとどうやら最後の一人が避難するまで動かないくらいの勢いだ。
徹の病歴からすると彼はガンになりやすい体質だと思う。ボランティアの時も、基本的に外にいる。瓦礫の撤去で、どれだけの放射性核種を吸い込んだのだろう。命の砂時計の穴が広がっていく、刻一刻彼の命が蝕まれていくのを見る思いがする。
今月の入金があったらまた送金しようと思っていた。私の送金でガソリン代が賄える。それで徹を通じて多くの人を助けることが出来ると思っていたけれど、もしかしたら多くの人の命を縮めることに加担しているのかもしれないとまで思えてきた。


「今週末はこれ持って行ってあちこち測るボランティアをしよう。今週はちっとは楽できるなぁ」

それから徹は自分の仕事の話をべらべらと語った。少しハイになっているようだった。仕事も夢も趣味も全て地震と津波と原発事故に飲み込まれていって、どうやって再起したら良いのかも見えない。マイクの向こうでヒグラシの声がした。
「ヒグラシが聞こえるね」
「あぁ、そっちまで聞こえるか。こいつら馬鹿だから一日中鳴いてる。街灯があるから昼間と間違えるんじゃね、まぁ一週間しか生きられないから大目に見てやるけど」
短い生を燃やし尽くすヒグラシの声が徹の声に重なっていつまでも聞こえていた。



仲間に何かあったのか、徹はどうも人恋しいようだった。その日の夜は夜でチャットをした。徹は声で、私は文字で。子供が寝付くまで静かにしないといけない。徹の話に声を忍ばせて笑った。
学生時代の話を聞いた。
「楽しい時だったなぁ」
「今は楽しくないか?」
「あの時のように自由に何でも出来る歳じゃないじゃん」
「今のほうが大人なんだから自由ははずだけど」


何とか徹を福島から離れさせたい。私は誘導しようと必死だった。福島に居ないといけないと言うのは彼が決めたことで、よく調べてみれば移り住むのに何らかの優遇措置や支援はあった。3匹の犬を手放さないといけないのが、ネックのひとつになっていた。
なんだって、住んでいた所がイキナリ住めない状態になり、仕事も無くなってふるさとを捨てなくてはならないのか。そのうえ仲間や友達と離れ、子供同然のペットとも別れろと。調べれば調べるほど理不尽に怒りがこみ上げてくる。確かに徹の怒りはもっともだった。
それでも、もう一度… どこかに道があるはず。


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