著者: 小川 洋子
タイトル:
博士の愛した数式
数学嫌いの私でもこんな博士に習ったとしたら、きっと数学という学問を好きになっていたに違いない。
記憶が80分しか持たないという障害を背負って生きている数学の天才。博士の記憶は1975年で止まっている。それ以降の記憶の蓄積はない。出逢った人も、食べた物も、すべて忘れてしまう。そんな博士を世話する家政婦の「私」と、その10歳の息子「ルート」が過ごした日々の物語。
博士は数学を通して人とコミュニケーションを図る。いかに数字の世界が美しく構成されているかを、愛情を持って切々と説く。完全数、友愛数、オイラーの公式…博士は日常生活に溢れている数字の世界を、まるで芸術作品のように紐解いていく。
例えば「友愛数」。「私」の誕生日、2月28日(228)と博士の腕時計に刻まれている製造番号「220」という2つの数字。それぞれの数の約数の和が、お互いの数字になる。これが「友愛数」。“友愛数は神の計らいを付けた絆で結ばれ合った数字”と博士は数少ない「友愛数」を説明する。
しかしこうした心豊かになるようなコミュニケーションも博士の記憶には残らない。瞬間的に心を通い合わせることはできても、決して縮まらない距離がそこにある。手ですくった水が零れ落ちてしまうように、博士の記憶は留まってくれない。そこがとても切ないのだ。
人と人との出会いは決して偶然ではない。博士は数式を通して、そこには何らかの法則があることを教えてくれる。
とても静かで、美しく、ハートウォーミングだけど、切ない。
とにかく、一度読んでみてください。きっと何かが残るはずです。
(written by
yass
)