『翼を広げて』 SIDE-A | 旧・どブログ

『翼を広げて』 SIDE-A

(今週から水曜日隔週で、Yassによる連載小説が始まります。)

その1

「はい。あ、そうですが。……わかりました、はい。あ、いえ。こちら
こそ。では、失礼します」
電話はむなしい音をして切れた。
また落ちた。これで10社目だ。
就職難の今の時代、大学3年の後期が始まるとみんなシュウカツを始め
る。
もちろん僕もその一人だ。
そうやって早一年、4年生の夏になっても依然として僕の就職先は決ま
らないままだった。
SPIや面接のための参考書はかなり読み込んだ。
それでも一社も内定が出ない。
一応名の通った私立大学だし、身なりだって悪くないし、成績だって悪
くはない(良くもないけど)はずだ。
いったい僕の何が悪いのか?未だ謎のヴェールに包まれている。

「ねぇ、どうだった?」
授業が終わると、真奈美はすぐさま僕に駆け寄り、聞いてきた。
「……。」-沈黙。
「ねぇ、どうだったのよ。○○社の結果?」
「顔見りゃわかるだろ?」ちょっと語気が荒くなった。(いかん、真奈
美にアタることじゃない…)
「……ダメ…だったんだ?」
「自分はもう決まっちゃったからいいかも知れねぇけどさ、なんかさム
カつくんだよな。顔を見て察しろってんだよ!」
感情が爆発してしまった。きっと真奈美は俺のことを心配してくれて尋
ねてきてくれるってコトはわかってるのに、でも何だかムカツク。
「……ごめん。もう…聞かないから」
真奈美は寂しそうな表情を浮かべて校門に向かって歩いていってしまっ
た。
なんだか背中が泣いている気がした。

僕と真奈美は同じクラスで、同じサークル。おまけにバイトまで一緒だ。
特に2人で申し合わせて決めたわけじゃない。偶然の一致がたまたま
3つも続いただけなのだ。
しかし、果たしてそれを人は偶然と呼ぶのだろうか?
当然2人で会話する回数は増え、話題も共通の話題だし、いつの間にか
2人は一緒にいることが当たり前のようになった。
運命の巡り合わせなのか、たまたまいつも僕のすぐそばには真奈美の
顔があった。
そして僕たちはいつの間にか付き合い始めた。

「4回目の偶然があるかも知れないよ」

その真奈美の一言で、僕と真奈美は同じ会社を受けた。
誰もが名前を知っている、とある大手旅行会社だ。
採用の連絡は真奈美のところにだけ、来た。
4回目の偶然はなかったのだ。
神様のいたずらで始まった僕らの関係は、神様のいたずらで壊れそうに
なっていた。

その2に続く…。

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この連載は真奈美側に視点を変えたSIDE-Bもあります。
SIDE-Bはこちら
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