年金、海外より高リスク 最低給付部分も株式運用

国民の老後を支える公的年金が、海外の年金よりも高いリスクで運用されている。米国などでは、最低限の保障に必要な年金部分は株式の運用をしていな いが、日本は基礎年金までも株式の積極運用に踏み出したためだ。こうした運用で、より多くの資金が株式市場に流れ、平均株価が一時2万円台を回復するなど 株高が演出されたが、「株価が下落すれば、年金全体が大打撃を受ける」との懸念も強い。 (大森準)

 年金積立金の株式運用について、安倍 政権は成長戦略の一環として重視。政府の「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」(座長・伊藤隆敏政策研究大学院大教授) は二〇一三年十一月、収益性を高めるために株式投資を増やすよう促す報告書もまとめた。

 これを受け、年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF、三谷隆博理事長)は昨年秋、運用方針を大幅変更。全国民共通の基礎年金(国民年金)と、サラリーマンが加入する厚生年金の積立金計約百三十兆 円について、積極的な株式投資を決定。積立金の71%を国内外の債券に配分する安定重視の運用から、国内株25%、海外株25%と株式比率を倍増。変動の 許容幅を含めれば、最大67%を株式で運用できるようにし、株価が上がれば高収益を得られるが、損失リスクも高い資産構成にするとした。

  株式の積極運用に際し、有識者会議の報告書は米国やカナダ、ノルウェーなどの年金も高い比率で株式運用していることを紹介した。しかし「米国では全国民共 通の老齢・遺族・障害保険は全額が市場を通さない国債で運用され、損失リスクがない仕組みだ」とニッセイ基礎研究所年金研究部長の徳島勝幸氏。報告書は各 国の年金が株式運用しているのは日本の厚生年金の部分のみで、最低限の給付水準に影響が出ないよう基礎年金部分は株式運用をしていない点には触れないま ま、方針変更を促していた。

 GPIFの方針変更で、公務員などの三つの共済年金も追随し巨額の資金が株式市場に流れ込んで十五年ぶりの株 高となった。しかし日本総研上席主任研究員の西沢和彦氏は「最低限の保障が必要な年金部分まで損失リスクの高い株式で運用をするのは危険だ」と指摘。「株 が暴落すれば全ての年金に影響する。運用失敗なら給付額を減らすか、保険料を上げないと制度を保てなくなる」としている。

<年金積立金管理 運用独立行政法人(GPIF)> 将来の年金の支払いに備え、国民から集めた国民年金、厚生年金の保険料の積立金を運用している機関で、2006年に設立 された。昨年10月末、損失リスクの低い債券への投資を大幅に減らし、国内外の株式への投資を倍増させる新しい資産構成の目安を発表した。

(東京新聞)



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