サックスのかみむら泰一さんが引き合わせてくれて、ベースの是安則克さんと知り合った。いつだったか、3~4年前か。
いつからか泰一さん是安さんと橋本をメンバーとした、泰一さんのリーダートリオがレギュラー化し、今年の3月頃「オチコチ」と命名された。
泰一さんは自分より一回り先輩、是安さんは自分より二周り先輩。是安さんは二世代下の自分にはとても暖かい眼差しで接してくれて、一世代下のリーダー泰一さんには時には叱咤しながら背中を押し、支え、去る8月15日なってるハウス・8月29日新宿ピットイン昼の部・8月31日エアジンでのライブは自分としてはとても良い感触であった。
9月23日、正午過ぎに泰一さんから電話が入るも受け取れず、かけ直そうとしていたところにピアノの栗田妙子さんからメール「是安さんが亡くなったそうです」と。生前の最後はエアジンの前で「お疲れ様」といつものように別れた瞬間だった。
以下是安さんの思い出を、鮮明なうちに記しておこうと思う。
初対面、大先輩を前に自分は少し緊張していた。楽屋で、是安さんはニコニコと上機嫌にメンバーと話しているものの、自分にはまだあまり目を合わせてくれず、かといって偉ぶるでもシカトするわけでもなく、きっと単にシャイな人なんだろうなと思った。ベースの音は太くクリア、迷いがない。ビートの感じ方は独特。早く打ち解けて仲良くなりたいと思った。
泰一さんのトリオがレギュラー化した。是安さんは泰一さんの書いたユニークなベースラインと時に格闘しながら、ものすごいパワーとスケールの大きさで曲想を広げていった。さすがに回を重ね、普通に目を合わせて話してくれるようになった。難しい曲でライブが終了した時ほど「にゃん、にゃん、にゃん、にゃーん」とおどけ、苦笑しながら握手をしてくれた。壮絶なベースプレイをした直後に猫とピアノの柄のハンカチで汗をふいていて、ますます好きになってしまった事もある。
是安さんの弾くジャズ・ワルツのリズムは最高に気持ち良くて、是安さんのベース・プレイの中で一番好きだった。細身の体をくねらせながら全身でベースを弾くさまもあまりに格好良く、共演しながら何度も見とれてしまった。
横浜491HOUSEの楽屋にて、是安さんの忘れられない一言があった。「ミュージシャンはさあ、バンマスはさあ、自分のプレイで、音で、メンバーに向かう先を示さないとだめなんだよ。音に説得力があればほんとはアイコンタクトもいらないんだよ。俺なんかもう、絶対目も合わさないもん!」これがこの人の生きざまか、と感銘を受けた。この信念がプレイの潔さに表れていると思った。
阿佐ヶ谷ヴィオロンにて、泰一さんの計らいで是安さんと二人っきりの即興デュオを1曲だけやらせてもらったことがある。決めごとも曲も何にもなし。アイディアが尽きる事なく、楽しくてあっという間に終わってしまったが、終わった瞬間の是安さんの笑顔が嬉しくてたまらなかった。あれは楽しかった。自信がついた。もうこの頃にはすっかり胸を借りて、全力で遊ばせてもらっていた。
先月29日のピットインの楽屋で自分は「4ビートのリズムが一番難しくて、まだ一日じゅううまく叩けないまま終わる日がある」と話すと、「そう?俺は難しいなんて一回も考えたことないけど?でもドラムと合わないと何にもできない。相性だよ、相性!」と是安さん。人に合わせる器用さを持ち合わせていないのに合わせようと頑張る必要ない、うまくいかないのはお前のせいだけじゃないぞと、すごく愛情のある言葉だった。しっかりとこちらを見据えて話してくれて、初対面からやっとここまで近づけたなあとその時思った。
泰一さんは最近、もうベースラインもコードもない新曲を書いてきた。「僕がメロディ吹くので是安さんは好きに弾いてください」と。泰一さんの是安さんへの信頼がいかに大きかったか。「好きにっつったってコードもないのに何すりゃいいかわかんねーよ!」と言いながら、それでも是安さんはあの音で常に全力で立ち向かっていた。
是安さんが亡くなった当日の夕方、泰一さんと電話がつながった。自分がツアーで葬儀に行けないかもしれない旨を伝えると、泰一さんは「是安さんならきっとわかってくれて『いいよいいよ、来ないでいいよ!』って言いそうだよね」と言ってくれて、それが生前の声で脳内再生され、泣いてしまった。
自分なんかより泰一さんの方がずっと辛いはずだ。そしてご家族や、公私に渡って付き合いの長い先輩ミュージシャンの方々は、もう想像もつかないくらいの喪失感を抱えておられるに違いない。
電話で泰一さんは「是安さんと三人で作ってきたものを断ち切るつもりはなくて、これからもつなげていきたい」と言ってくれた。もちろん同意した、というか、自分も泰一さんさえその気なら初めからそのつもりであった。
是安さんの長いキャリアの最後の数年を一緒に過ごせた事を光栄に思う。もしまた会えるなら、「是安さんのベース好きです、また一緒にやりたいです」とちゃんと言葉に出して言いたい。生前にそれが音で伝えられてればよかったのだが、伝わったかどうかを聞きそびれてしまった。
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