島根県海士町沖の「カズラ島」。昨年9月、東京都葛飾区から訪れた女性(71)が、長年連れ添った夫の遺灰を雑木林に散骨する姿があった。

 「故郷の出雲市近くで安らかに眠ってほしい」。そんな思いから、いまだ独身の一人息子とも相談して決めたことだった。葬送の在り方が多様化する中、日本海に浮かぶこの小さな無人島が、散骨希望者の注目を集めている。豊かな自然に抱かれての永眠を希望する人が多いことが、住民には自分たちの暮らす地域の魅力を見つめ直すきっかけにもなるかもしれない。

 カズラ島は、海士町域の大部分を占める中ノ島の北約200メートルに浮かぶ無人島(約10アール)。大山隠岐国立公園の区域内にあり、岩礁上に雑木林が広がる。

 きっかけは約10年前に東京都内の葬祭業者が行った社員旅行。隠岐を訪れた際、社員の一人がつぶやいた。「死後も、こんな美しい島でずっと眠れたら……」。

 折しも、散骨希望者は少しずつ増えていた。隠岐諸島周辺に約180ある無人島のうち、唯一、権利関係がはっきりしていて、所有者と連絡が取れたカズラ島を同社は約4年前に購入。町議対象の現地見学会を開くなど条件整備もした上で、散骨事業を行っている。

 散骨を行うのは、一年のうち5、9月の2回。環境保護に加え、風評被害が漁業に影響を及ぼさないよう地元に配慮して、遺灰をまくのも決められた区画に限定している。原則、それ以外は上陸せず、遺族らが故人をしのぶ場合には、対岸の中ノ島の慰霊所から、島を望みながら手を合わせる。

 これまで、散骨に付されたのは12人。生前予約も約40人おり、夫の遺灰をまいた東京の主婦も、夫のそばで永遠の眠りにつこうかと検討中だ。さらに、業者には全国から約350件の問い合わせがある。そのため、春と秋の年2回、1日ずつ行ってきた現地見学会も、今年5月からは15日間に延長して対応する。

 こうした風潮に、海士町の山内道雄町長は「遺族や子孫の中から、隠岐に住みたいと思う人が出てくればうれしい。町と末永い“親戚(しんせき)付き合い”をしてくれる関係が生まれれば」と話す。

 葬送問題に詳しい第一生命経済研究所(東京都千代田区)の小谷みどり主任研究員は「海士町は自然が豊か。遺族も供養のついでにおいしい物を食べ、観光でもしようという気分になるのでは。墓参りには、単に手を合わせるだけでなく、楽しいというプラス要素があっても良い」と話す。(佐藤祐理)

 ◆散骨=NPO法人「葬送の自由をすすめる会」(東京都文京区)によると、1991年以降、同会会員ら2660人が死後、散骨に付された。場所は約8割が海で残りは陸上。会員以外もあることから、実際はさらに多いという。生活様式の変化などから注目を集める一方、農業が盛んな北海道長沼町では2005年、風評被害を懸念して墓地以外での実施禁止を条例化。埼玉県秩父市や静岡県御殿場市も条例で規制している。

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