どこまでがフィクションで、どこからが本当にあったことなのかーーこの小説を読んだ人なら皆等しく同じ感想を抱くだろうと思うが、私も例に漏れず真っ先にそう考えた。そして、ここまで現実と空想が分かち難く結びつく小説もなかなかないだろうとも。

実在の某企業を彷彿とさせる巨大自動車企業、その最大のタブーに触れる、という内容なのだが、これは本当にあったことなのか、この人物ははたして実在の人物なのか……などと、小説を読んでいながら常に現実を意識せざるを得ない。これは数多く存在する他の企業小説ではなかなか味わうことのない感覚だろう。そして日本が誇る巨大企業トヨトミの行く末を思い、どこか暗澹たる気持ちにさせられるのと同時に、恐らくトヨトミのモデルであろう某企業の行く末をも思わずにはいられなかった。それこそがこの小説の持つ最大の力であると私は思う。

小説とは娯楽であると同時に、私たちの生きる現実に問いを投げかける存在でもあるだろう。変わらないと思われていた日常はいともたやすく崩壊するのに、私たちはその事実を忘れてしまう。だからこそ、『トヨトミの野望』は私たちに問いかけている。誰もが知る大企業の行く末ははたして安泰なのか、今ある安寧は過去のどんな行いによって築かれたものか……それは私たちの現実にそのまま放たれた問いでもあるはずだ。

筆者はこの作品に関して「ノンフィクションではなく小説を書いた」と述べているという。この作品は単なるルポルタージュともとれるが、「忘れるな」「考え続けろ」というメッセージを私たちに投げかける、最も小説らしい小説なのだと思う。

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