東大アイソトープ総合センター長の教授・児玉龍彦さん

「アイソトープセンターで計算すると、
　今回は広島原爆の２９・６個分、
　ウラン換算では２０個分が漏出しました。
　原爆による放射線の残存量が１年で千分の１程度に低下するのに対し、
　原発は１０分の１程度にしかならないのです」

「７万人が自宅を離れてさまよっている時に国会は一体、
　何をやっているのですか」

「原発事故が起こってから４カ月もたっているのに、
　基本的な対策法の一つも制定されていない状況を何とかしたいと思っていました。
　６月に開催された全国の国立大学アイソトープ総合センター長会議で、
　『これまでの放射線障害防止の法律は少量の汚染しか想定しておらず、
　　膨大な放出に全く対応できない。
　　除染作業をやれば、
　　法律違反になってしまう』と議題になりました。
　その直後、
　私は菅首相、
　文科省にメールを送り、
　法改正を訴えましたが、
　ナシのつぶて。
　それで厚労委員会で『非常に怒ってます』と申し上げ、
　ウェブ上で多くの方が関心をしめしてくださり、
　急激に物事が動き出しました」

「まず、
　法律での対応が進められることを歓迎します。
　しかし、
　未知の領域の大事故なので、
　何か基準を決めてこうするべきという従来的な法の作り方では刻一刻と変化する現実とズレてしまう。１年程度の暫定法と長期的な国土除染計画を決める恒久的な法を国民的議論の上で制定すべき」

「私は５月から南相馬市の支援に入りましたが、
　政府が２０～３０キロ圏と同心円状に設定した避難区域が実態の線量に合っていないことがすぐわかりました。
　南相馬市では２０キロ圏内にある線量の低い学校から、
　３０キロ圏外にある線量の高い危険な学校へ１日１００万円もかけてスクールバスで子供たちをわざわざ運んでいました。
　なぜ、
　こんなおかしなことになるのかと」

「３０年間、
　私は放射線取扱者、
　取扱主任をしてきたので規定は熟知していますが、
　妊娠可能な女子については内部被曝を１ミリシーベルト以下にする。
　この規制を守るべくやってきました。
　しかし、
　福島原発の事故後、
　わが国の安全基準は法治国家ではないかのごとく、
　反故にされ、
　年間２０ミリシーベルトになったり、
　１０ミリ、
　５ミリとバナナのたたき売りのように数値がでている。
　安全に関しては一度、
　基準を決めたら、
　危機になったからといってそれを変えるようではダメだと申し上げました。
　国民は絶対、
　そんな政府を信用しません」

「セシウム牛の問題が明らかになり、
　来るところまで来たと思いました。
　なぜ、
　政府は食品汚染の防御に失敗したのか。
　政府は高い線量の少量の汚染だけを想定し、
　線量の低いものは『さしあたり問題なし』としてきました。
　しかし、
　汚染は総量が問題で、
　低い濃度でも膨大に発生すると、
　粒子が拡散し、
　特定の場所や食品に濃縮が起こり、
　健康に害をもたらすリスクが生まれます。
　だから、
　稲わらによる牛肉のセシウム汚染や、
　お茶、
　麦、
　なたね、
　腐葉土の汚染といった問題が広がったのです」

「汚染地のすべての食品を検査できる最新鋭の高速機器を導入するべきです。
　そうすれば、
　多くの食品汚染を１回で画像判定できます。
　実はこうした分野での日本の技術は世界一です。
　例をあげると、
　島津製作所にはこの分野の第一人者がいます。
　流れ作業で５０ベクレル／キログラムの測定をする高速機は大体３カ月あれば製造可能だと話していました。
　私は菅首相に島津の社長に電話をかけて１カ月でこの検査機を作ってくれと頼んでいただきたい、
　とお願いしました。
　菅首相は熱心にメモを取っておられました」

「被災地のすべての自治体に問い合わせに応じる『コールセンター』と『測定すぐやる課』を設置。
　住民から通報を受けたら、
　緊急避難的に除染を行うようにし、
　住民の不安を少なくすべきです。
　ただ、
　長期的には政府、
　建設会社、
　放射線検査専門企業、
　化学会社など最高の技術を福島に集結させ、
　大規模な土壌除染が必要になります。
　汚染が１万平方キロメートルに達すれば、
　２４０兆円という天文学的な金額が必要になる。
　東電の賠償スキームはあまりに非現実的です」

「チェルノブイリの汚染地区の子供に発症した甲状腺乳頭がんのサンプルを調べると、
　染色体の７番のｑ１１という領域が３コピーに増えるという特徴的な異常が生じることがわかっています。
　ゲノム科学でみると、
　放射線障害でＤＮＡの切断が起こると、
　それが原因となって遺伝子が活性化される。
　それから１０年、
　２０年がたつと、もう一つの遺伝子が変異を起こしてがん化するというメカニズムが最近、
　かなり決定論的になってきました」

「非常に心配なのは、
　厚労省の研究班が５月１８日から６月３日に行った検査で、
　福島市、
　二本松市、
　相馬市、
　いわき市の７人の母乳から１・９～１３・１ベクレル／キログラムのセシウムを検出したことです。
　セシウムによる健康障害を予防することは待ったなしの課題なのです」

「０５年までに４千人に甲状腺がんが発症し、
　１５人の子供の死亡例が出てはじめて、
　疫学と統計学でコンセンサスが得られました。
　そこまで悠長に待ってはいられない。
　福島事故後、
　考えなくてはいけないのは、
　これから起こる子供の健康障害のシミュレーションを積極的に行い、
　事態に対処すること。
　これが大事です」

「データがそろっていればそれは実測といい、
　予測とはデータが少ないからこそ重要なのです。
　現にスピーディで行われていた予測はその後、
　飯舘村などの放射線の移動を非常に正確に予測しておりました。
　私が南相馬で後に知ったのは、
　汚染実態を知らされていない多くの住民が海沿いの線量の低いところから線量が高い飯舘村の方向へ避難してしまったという事実でした。
　こうしてヨウ素の被曝をうけた被災者にこれ以上セシウムの被曝をさせてはいけない、
　ということが科学者に対して課せられた最も大きな使命であると思っております。
　幸いセシウムは日本の土壌のケイ酸塩につくと離れにくいので、
　人工バリアをつけて埋めれば対応可能です。
　処理を急ぐ必要があります」

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