慈雨 ~ほぼ信義~

ドラマで描かれていないシーンを妄想しながら二次のお話を書いています。


テーマ:

ヨンとウンスが大学の先輩後輩だったらという設定で書いてみました。

では、どうぞ~

 

////////////////////////

 バーガーの包みを開いた途端呆然とした。まだ食べていないのに、

一口齧られていた。よく見れば、齧られたバンズには口紅がついている。
「おい、どうしたんだよ?」
 向かいに座ったウンソクが、バーガーにかぶりつくのを止めて聞いてくる。
「・・・誰かに食われている」
 ようやくそれだけ言って、トレイにバーガーを置いた。ウンソクがじーっと

それを見たあとで笑い出す。
「うそだろ。おい、見ろよ。こいつのバーガー」
 他の二人も慌てて自分のバーガーの包みを剥がして、何の異常もないことを

確かめて「セーフ」と笑う。三人がニヤニヤと笑ってこちらを見る。どうするのか。

それを眺めて楽しむつもりらしい。
「気持ち悪い。食えるか」
 一緒に注文したドリンクとポテトにも手をつける気がしなかった。トレイを

脇に押しやった。三人共「だろうと思った」と笑う。面白くなかったが、実際

自分だけがハズレを引いたのだ。ふて腐れたくもなる。
「ったく、しょうがねえな」
 フットワークの軽いウンソクが席を立つのを、頬杖をつきながらぼんやりと

眺めていた。取り換えてきてくれるらしいが、もう食欲は失せていた。

「あったまくる」
 いきなり女の声がした。その声が聞こえたのか、立ち上がりかけたウンソクが

動きを止めた。自分たちに向けた発言なのだろうか。ヨンは、迷った末にチラリと

背後を見る。

 誰もいなかった。すぐ傍で空気が動いた。パテやポテトの匂いに混じって、花の

香りがどこからともなく漂う。姿勢を戻すと、通路に若い女が立っていた。
「来て」
 女は、先ほどウンソクが持って行こうとしたトレイをさっさと持って行ってしまう。

女の顔をよく見る間もなかった。顔よりも前に、赤くうねった髪に先に目が吸い

寄せられたせいだった。
「なんだ?」
 ウンソクに尋ねる。
「さあ・・・」
 <Why?>と、大げさなジェスチャーで手を広げると、ウンソクも首を傾げた。

そのまま様子を見ていると、女は自分が食べ終えたトレーのゴミを片手で捨てて、

もう片方の手に持ったトレイを、注文カウンターのほうに持っていく。
 ため息をついて立ち上がる。あれはもう要らないものだったが、どうして見知らぬ

自分のトレイを勝手に持っていったのか。それが気になった。女の隣に立つと、

気づいた女がこちらを見上げた。
 その瞬間。目が・・・離せなくなった。見つめ合う。

「・・・でかいわね」
 その人はオレを見上げてそう言うと、カウンターの向こうに目をやる。視線を外されて

から、深い息をついた。自分が息を飲んでいたのだと、ようやく気付いた。

 一瞬で、心の深部までをも見透かすような深い眼差しに囚われた。
「私、貴女に言ったはずよ。一口食べちゃったって」
 その人がトレイのバーガーを指差すと、若い従業員が青ざめる。チーフらしき人物が

やってきて、まずは詫びたあとでカウンターの隅に自分たちと従業員を誘導し、事情を

尋ねて聞た。
 従業員は、この人の注文を取るときにミスをして違う商品を提供した。そうと知らずに

この人が一口食べてしまい、商品が違っていることを指摘されて、作り直した。

 本来ならば、問題のバーガーは廃棄されるはずが、誤ってオレに提供したということ

だった。
「作り直してもらう?」
 その人がオレの方を向いた。ぎこちなく首を振った。見つめられると全身が緊張する。

誰の食べかけだったのか、わかってしまえば気持ち悪いという感情は半減していたが、

失せた食欲は戻らない。
「あ!いけない。君、お金は返してもらってね。それじゃ」
 オレの頭越しに店内の時計を見ると、その人は慌ただしく店を出て行った。

 

半年後。
大学のサークル勧誘でその人と再会した。
彼女は、オレを憶えていなかった。


 その人に声を掛けられ、差し出された書類を受け取った。言われるがままに連絡先を

書いた。書類には「天文サークル」と記載されていた。
「へえ・・・チェ・ヨンっていうのね」
「はい」
 英雄と同じ名。初めて名乗るとき、それはいつも緊張を伴った。自然と心が構える。
「イ・○ンシンにアン・○ュングン、チョン・○ジョン、あと誰だったかな?とにかく、
名前負けしてない人に会うのは初めてだわ。うん」
 記憶を確かめるように目線をあげたあとでその人が頷く。
「・・・」
 何と答えていいのかわからず、その場に沈黙が流れる。
「あー。とにかく、よろしくね」
 笑顔を向けられた。構えていたはずの心が一瞬で籠絡した。
『落ちる』
 そう思った。

 

 サークルに入ってすぐに後悔した。あの人は幽霊部員で、めったに顔を出さない。

あのときは、じゃんけんで負けて仕方なく勧誘のノルマをこなしたらしい。
 そして・・・その人には恋人がいることを知った。

 

「チェ・ヨン君!」
 大学に程近い通りを歩いていると、呼び止められた。声ですぐわかった。振り返って

声の主を探す。
『いた』
 通りの向こうの本屋の前で、あの人が手を振っていた。オレが気づいたとわかると、

今度は手招きをする。車の往来を確かめてから、道路を真っ直ぐ大股で横切って

彼女の元に行く。
「ごめーん。ちょっとお金貸して。財布をバッグに入れたまま構内から出て来ちゃって」
 彼女がさっさと店内に入ってしまったので、ついていく。平積みされていた本を手に

取る。
「二巻が出てたの。面倒だけど取りに戻ろうとしたら君を見つけて」
 今度はスタスタとレジまで行く彼女について行く。レジに到着した途端「はい、お願い」

と本を手渡される。チラッと本を見る。
「好きなんですか?」
 店員に本を渡しながら尋ねる。
「本が?それともこの俳優さん?あ、ちなみにこの本、チェ・ヨン将軍が出てくるのよ」
「・・・そうですか」
 何と言っていいのかわからない。彼女は別に気にした様子もなかった。
「そんなに嬉しいですか?」
 店を出て、満足げな微笑みを浮かべて歩く人に、思わず尋ねてしまった。
「そりゃもう。ずっと待ってたから。目の前にあるのに、お金を取り戻らなきゃいけ

ないのが惜しくて。だから、あなたが通りかかってくれて助かった」
 この人が喜ぶ姿を見ることができてうれしい。その気持ちがこみ上げて、いつしか

自分も微笑んでいた。ふと、視線を感じた。
「何ですか?」
「・・・ううん。ヨンア、あなたって笑うと殺人的ね」
「え?」
 名前を呼ばれて面食らった。それに、殺人的と言われた意味がよくわからなかった。
「あ、じゃあここで。お金は、また後で返すから」
 去っていくその人を、見えなくなるまで見送った。

 

 その電話は唐突にかかってきた。
「もしもし、私よ。ユ・ウンスだけど。わかる?」
「・・・はい」
「どこにいるの?」
「図書館の前です。本館の」
「じゃ、そこに居て。今からそっちに行くから」
 土曜日は17時で閉館する。迂闊にもそのことを忘れて図書館まで行ったあとで

引き返すところだった。柱にもたれて待っていると、ほどなくして彼女がやってきた。
「はい、これ。ありがとう。助かったわ」
 小さな便箋を差し出された。
「・・・いえ」
 受け取って、そのままカバンの外ポケットに差す。
「それから、これ」
 一冊の本を手渡された。
「月にまつわる詩や民話をまとめた本よ。写真集として見て楽しんでもいいし。

ちょっと遅れたけど、私からの誕生日プレゼント」
「・・・どうして?」
「どうしてって、プレゼントのこと?」
「はい」
 知りたかった。
「あなたに連絡を取ろうと思って名簿を見たの。そのときに生年月日もチラッと

見ちゃって。先週誕生日だったでしょ?知ってしまったら見て見ぬフリもできないし」
「・・・」
「声を掛けたのは、ノルマをこなすためじゃないのよ。あなたがサークルのパンフに

載っていた月の写真をじっと見てたから、きっと天体のことに興味があるんだなって

思って・・・もしかして、その本持ってる?」
「・・・いえ」
「よかった」
 彼女が胸を撫で下ろす。
とんだ皮肉だ。可笑しくて笑いたい。パンフの隅に小さく載っていた貴女を見つめて

いたのに、それを誤解されたのだ。

 そのとき彼女の携帯が鳴った。慌てて出る彼女の反応で、相手が誰なのかすぐに

わかった。
「もしもし、え?近くまで来てるの?待ってて。すぐに行くから。じゃ、正門でね」
 彼女の関心はもう正門の方を向いている。
「それじゃ」
 ろくに顔も見ず、その人は背を向けた。その後ろ姿を見た途端、想いが堰を切って

あふれた。
 追いかけて腕を掴んで引き寄せた。何が起きたかわからなかった彼女が、しばらく

して暴れ出す。

 

 どうしてだろう。不意に既視感に襲われる。前にもこんな風に懐に抱き寄せた

感覚が甦る。
『触れたこともないのに・・・』

 そのときの記憶をなぞるように、ヨンはウンスを抱きしめた。

 

<おわり>

//////////
予想外に暗い仕上がりになってしまった(汗)
ヨン目線で書いていたら、こんな路線になっちゃって

 

あ、これ、読み切りです。
読み切りですよ(きっぱり)

お題にあったはずの、プレゼント交換のミッションはどっかに吹っ飛んだなぁ(遠い目)

 

次はもっと明るいお話を! ②『とっちゃ、やだ』へ

 

 

 

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