慈雨 ~ほぼ信義~

ドラマで描かれていないシーンを妄想しながら二次のお話を書いています。

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こんばんは(*^_^*)

 

書いているお話について、補足というかちょっと説明を書いておきますね。

 

今書いている紅楼夢の番外編は設定の都合上ウンスが出てきません。

(ヨンは出てきます)

そういえば、初回でヒロインの名前が出ていなかったことにあとで気づきました。 ( ̄□ ̄;)

タイトルも「婚礼の日に」とかなってて・・・もしもヨンとウンスのお話かもしれないと

期待された方がいらしたら申し訳なかったです。

 

ヨンはずっとあとになって出てきますが、ウンスは登場しません。

この先も、オリジナルのキャラの話が淡々と続いていきます。

更新は週一ぐらいを目標にしています。

多分十回以内で終わる・・・はず(^_^;) ⇒この目測はだいたいが外れます。

 

二か月ほどかけて「麗」と「宮廷女官ジャクギ」を見ました。

面白かったです。

どちらのドラマにも面白さがありました。

機会があれば二つの作品について感想記事(ネタバレなしで)が書ければいいなと

思っています。

(ただのメモ書き程度の記事になってしまうかもしれませんが)

 

ではでは、おやすみなさい♪

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ソルソンはカンファド(江華島)で生まれ育った。ケギョンへ遷都されてから三十年余り経っていたが、都だった栄華の残りはそこかしこに残っていた。両親は、旅の客相手の宿をいくつか営んでいたせいで、暮らしに困ることはなく、遅くに生まれた一人娘のソルソンを大層可愛がった。
ソルソンが八つになったばかりの頃、ク家から縁談が持ち込まれた。「まだ早い」。両親は初めそう思った。けれど、ソルソンが年頃になるまで手元に置いておけるかと言えば、それは難しかった。
「嫁に出す好機を逸して、娘が貢女の候補にでも選ばれたら・・・」
考えただけで両親は怖気がした。
ク家は、カンファドの名産であるホンサム(高麗人参)を取り扱う問屋を営んでいて、婚家はそう遠くない。店の評判も上々で、主とその妻も人柄は良さそうだった。相手はク家の長男サンホ。ソルソンよりも四つ年上だった。両親がサンホと会ってみたところ、礼儀正しい利発そうな若者で印象は悪くはなかった。
考えた末に、ソルソンの両親はこの縁談を受けた。当のソルソンに「否」という理由はない。婚姻は親がしかるべきときに、しかるべき相手を見つけてくれる。子供はそれに従うだけという考えが世間の大方で、ソルソンもそう思っていた。

婚家のク家の舅と姑は、若い嫁を娘のように可愛がった。三才のころから弾いていたという嫁のカヤグムの卓越した腕前をとても喜んでくれて、今後も精進するよう薦めてくれた。
「いつだったか、お前の家の近くを通りかかった際に、この子が立ち止まって動かないのよ。お前のカヤグムの音色にすっかり心を奪われちゃって」
その話を出されたサンホは母親をひと睨みしたあと視線を伏せる。ソルソンはそんなサンホを息を止めて見つめていた。
父よりも細い首筋。髭のない、尖った顎の線を辿った先の耳朶は真っ赤になっていた。それを目にしたソルソンは、自分の頬もたちまち赤くなっていくのを止められなかった。

 

ままごとの延長のように始まった二人の暮らしは、醤(ジャン)が長い年月をかけて熟成されるように、カンファドの海風とその大地に抱かれて、やがて本物の夫婦となっていく。

 

十年後。
ソルソンは十八、サンホは二十二になった。
なかなか子が授からないことを悩むのは専らソルソンのほうで、そんなときサンホは、
「授かりものだ。お前もご両親の元からのんびりと生まれてきたではないか」
と言って冗談めかして慰めた。
そんなサンホの優しさがただただ有り難く、その胸に抱かれていれば何も怖いことはなかった。

幸せの酔いは果てしなく、どこまでもソルソンを満たす。

 

この幸福な日々はずっと続くものだと、そのときのソルソンは固く信じていた。
 

<つづく>

 

今回もちょっとコメ欄は閉じておきます。→私のうっかりネタバレ防止措置。

(もし、感想を頂けるのであればメッセでお願いします♪)

 

もう一つ記事(お話じゃなくて最近の私事をちょこっと書くつもりです)を
週末にアップ予定です。

今日こそはアベマTVで「信義」が見れますように(^_^;)
(先週子供と一緒に布団に入り、寝たふりをするつもりが本当に寝ちゃった)

 

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その日。
祝いに駆けつけた人垣の中に、あの人は居た。

 

輿に乗り込もうとした際に、ふと視線を感じて顔を上げた。輿をぐるりと取り囲むように集まった親類の

中で、一人の少年と目が合う。
真っ直ぐこちらを見つめるその瞳は物言いたげで、けれど唇はぎゅっと結ばれていた。その少年の肩に手が置かれ、少年は隣に視線を移す。追いかけるようにそちらを見た。彼とよく似た大人の男性が立っており、少年に何か言葉をかけていた。
『二人は父子なのだろうか』
二人は、同じ色の風防けを身に着けていた。
父親らしき人物に促された様子の少年は、背を向けたかと思うと一瞬だけ振り返って、人垣の向こうに消

えていった。

 

新郎のサンホが待つク家に向かう輿に揺られながら、しばらくその少年のことが頭から離れなかった。


<つづく>
出た・・・
見切り発車(-_-;)

あまりにも見切り発車ゆえにコメ欄はそーーっと閉じておきます。

 

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上記のお話で書いた二人を再登場させました。

ここでは、すでに二人は恋人同士になっています(^_^;)

(いずれまた恋人になるまでの過程を書くとして・・・)

 

【燃灯祝祭】

「あらっ」
奉恩寺駅を降りたところでケータイの充電が切れていることに気づいた。
「いつから切れてたのかしら?」
久しぶりにかかってきた女友達と話が弾んだのが一時間前。そのあと電車の時間だからと慌ててケータイを切った。もしかしてそのとき既にバッテリー切れだったのかもしれない。
腕時計で時間を確認する。
<18:55>
『ヤバいわ。あと5分しかない』
時間にルーズなのはいつも私で、向こうはだいたい時間通りか、それよりも前に到着している。今日は時間通りに到着しなければ、ご飯をおごる約束をさせられていた。
『取りあえず待ち合わせの場所に行こう』
おごるお金が惜しいわけじゃない。むざむざと勝負に負けるのは悔しい。すぐに会うんだから、ケータイの充電はとりあえず後で考えよう。
ウンスはケータイをバッグにしまうと、奉恩寺の山門へと足早に歩きだした。しまう直前に、女友達から電話がかかって来る10分程前に、公衆電話からの着歴があったことをウンスは思い出す。
『間違い電話かしら?』
特に気にもせず、ウンスはそのことをすぐに忘れてしまった。

 

ひっきりなしにクラクションが鳴り響く高速の渋滞を、ようやくのことで抜けて一般道に降りたかと思えば、そこもやはり渋滞していた。暗澹たる気持ちでカーテンの隙間から、外を睨みつけるように眺める。既に陽は暮れて窓の外はネオンが眩しい。社内も煌々と明かりがついていて、反射した窓にはニヤニヤと面白そうに見ている見慣れない男と視線が合う。
「チェ・ヨンよ。まあ、落ち着けって。事故で渋滞が余計にひどいんだとよ」
ふざけた格好と見慣れない髪型のせいだろうか。これはオレの知っている先輩じゃないから、殴ってもいいとさえ思う。すると、剣呑な空気を察知した先輩が慌てて両手を振って牽制する。
「おい、よせよ。渋滞はオレのせいじゃないだろうが」
「・・・」
「まあ、お前を誘ったのは悪かったよ」
ヨンは小さくため息をつく。こんな展開になることは、恐らくこの場の誰もが想像しなかったに違いない。車内に目をやると、十人ほどが乗ったスタレックス(日本版ハイエース車)の中は、高麗時代のウダルチという近衛隊の格好をした男たちが、頭のてっぺんに丸いつけ毛を載せたまま、居心地悪そうに座っていた。中には、鎧をつけたままでも器用に居眠りしている者もいた。
「おい、ヨンア。ここからなら歩いて行ったほうがいいかもしれんぞ」
ペ・チュンソク先輩が、運転席から振り向いて声をかけてくれた。
「あと、どれぐらいですか?」
ヨンが尋ねる。
「うーん・・・2㎞はないだろうが。あ、いや、だけどお前、その格好では難しいな。せめて鎧を脱いでいけよ」
「その格好で運転している先輩のほうがすごいです。このまま行きます。革製の鎧だからまだ軽いです」
渋滞の中、チュンソクが車を端に寄せると、ヨンが座席から立ち上がる。
「ありがとうございます。助かりました」
礼を言って車の外に出る。外は昼間の陽気をまだ含んでおり、じんわりと暖かい。車内は厚着している自分たちにあわせてクーラーを最大限までかけていたことを思い出す。
「それじゃ」
「ああ、また明日電話する」
チュンソク先輩の言葉に頷いて、車のドアを閉める。
すぐに窓が開いて、チャン・ドルベ先輩が顔を出す。
「おい、ヨンア!今日は彼女としっぽりやれよ」
通りを歩く人達にまで聞こえるほどの大声で言われ、ヨンは居たたまれない。
『やはり、殴っておくべきだった』
物騒なことを考えながら、その言葉には返事をせず、奉恩寺のほうへむかって走り出した。

道行く人がすれ違いざまに振り返る。
「えっ!?何あれ?」
「映画の撮影か?」
「ハロウィンと燃灯祝祭を間違えてるんじゃ?」
「とんだ勘違いヤローだな」
走っているときは聞こえない声が、信号待ちではまともに刺さる。早く変わってくれと睨むように信号機を見つめる。
『誰がこんな恰好でいたいものか』
けれど選択の余地はない。
これしかなかったのだ。

割のいいバイトがある。
たった一日で○万ウォンもらえるんだ。
その代わり、朝は午前二時に集合で、解散は午後三時過ぎ。
地方の撮影所に行って、エキストラで立ってりゃいいだけだし、出番がないときには遊んでていいんだとよ。送迎バスもついてるから交通費もかからない。
但し、若くて身体つきのいい奴を十人以上集めないといけない。
なあ、お前。後生だからつきあってくれよ。

そんなチャン・ドルベの誘いを、ヨンはにべもなく断った。
「その日は、用があるから行けません」
丁重に断ったのに、先輩は諦めてくれなかった。その時点で、既にヨンは先輩の頭数に入っていたようだった。(勧誘の報酬を別で貰っていたのかもしれない)
結局引きずられるようにしてスタレックスに乗せられたのだった。

自分を連れていった理由はすぐに判明した。
ドラマの撮影場所で主役のカメラテストを行う際に、背格好や顔つきが似ている自分が適役だったのだ。
エキストラの仕事はただ立っているだけで、確かに割のいいバイトではあった。

ただ、トラブルは帰るときに起こった。

撮影の衣装に着替えたあと、自分たちの着替えや貴重品を置く場所がなく、載ってきたスタレックスに全て置かせてもらっていた。そして自分たちが撮影に臨んでいる間に、ドライバーの家族に急病人が出て、慌てたドライバーはヨンたちの貴重品を載せたまま、ソウルに戻ってしまったのだ。
ヨンたちがそのことを知ったのは帰る直前で、チュンソク先輩がたまたまTシャツの胸ポケットに運転免許証を入れていなければ、その車が戻ってくるまでぼんやりと待たなければならないところだった。
ドライバーとは、マポ区で待ち合わせることになっているが、そちらに寄ってからではウンスとの待ち合わせに間に合わない。
撮影所近くの公衆電話からウンスのケータイに連絡を入れたが、知らない番号だったせいか、彼女は電話に出てくれなかった。

<19:30>
ビルの看板に刻まれた時刻に、ヨンの心は逸る。
燃灯祝祭でにぎわう人の波を縫うように進みながら、ヨンはコエックスの前を駆け抜けて、奉恩寺に急いでいた。

 

<19:35>
『・・・何かあったのかしら』
ウンスの胸には不安が広がっていた。19時きっかりに、待ち合わせ場所だった奉恩寺の正面の灯りのところでヨンを待っていた。けれど、10分を過ぎても彼は来なかった。ケータイを取り出して連絡をしようにもバッテリーがない。急いでコンビニへ行ってモバイルバッテリーを購入した。電源を入れても着歴は残っていない。ヨンのケータイに掛けても呼び出し音が鳴るばかり。ここに至って、ウンスは公衆電話からの着信履歴があったことを思い出して掛けてみたけれど、こちらからは掛け直すことができないというアナウンスが流れた。
「ふっ・・・ウッ・・・」
ヨンが来ない。ろくでもない想像ばかりが頭の中を駆け巡って、何か行動を起こさなければいけないという理性が押し流される。そのうち喉の奥から嗚咽がせり上がって来て、心細さで今にも涙がこぼれそうになる。
『泣いたらダメよ。ウンス』
ギュッと唇を噛みしめて、顔を上げる。ゆっくりと息を吸って、吐いて。落ち着いたところで再び周囲を見回す。
と、チカチカした光が視界に入った。それは道路を隔てたコエックス側で信号待ちしている人達が、何かを撮影しているスマホのフラッシュの光だった。
『何だろう?』
不思議に思っていると、やがて信号が変わって大勢の人たちが横断を始めた。その先頭にいる人影に見憶えがあった。
「ヨンア?」
だけど、何だか変だ。恰好が・・・見るからにおかしい。ウンスが目を疑っている間に、その変な格好のヨンらしき人物がどんどん近づいてきて、目の前で立ち止まった。
「ハァハァ・・・遅くなった。ごめん」
荒い息の中でそう呟いた声は間違いなくヨンだった。
「・・・ヨンア・・・あなた、どうしちゃったの?」
来てくれた嬉しさもあるけれど、それよりも驚きと衝撃の方が大きくて、ウンスは真っ先にそのことを口にした。
「バイトでトラブって」
「トラブルって?」
「いろいろあって、ケータイも財布もない。おまけに服もないから、これで来るしかなかった」
苦々しそうに言うヨンとは逆に、ウンスは段々彼の不幸が可笑しくなってくる。無事だった。約束を守るために急いで来てくれた。嬉しさで変なスイッチが入る。
「うんうん。フン」
頷くフリして最後に笑い声が漏れてしまったのを、ヨンは聞き逃さなかった。
「今、笑っただろ?」
「まさか」
口の端に力を込めて、笑いを堪える。
そのとき、ウンスのケータイが鳴った。画面を見てウンスが驚く。
「貴方からよ」
電話を受け取ってヨンが出る。
「もしもし?」
「あ、ヨンア。無事に彼女に会えたみたいだな」
「先輩。どうして彼女の電話番号を?」
画面は、暗証番号でロックしておいたはずだった。
「お前、わかり易いんだよ。アルファベットでウンス<eun-su>って打ったら一発だったぞ」
大学でヨンとウンスがつきあっていることは、まだ一握りほどしか知らない。その一握りの中にチャン・ドルベがいたことを、ヨンは思い知る。
「お前のケータイと財布。あ、それから服なんだけど、本人意外には渡せないって言ってるから、明日にでも取りに行けよ」
「先輩。なぜ明日なんですか?」
嫌な予感がした。
「就業時間が過ぎたから、明日にしてくれってよ。じゃあな、伝えたぜ」
電話は一方的に切れた。
「何て?」
「服も財布も明日取りに行くしかないらしい」
「・・・そうなんだ」
ウンスは顎に手をやってしばらく考える。
「じゃあ、うちに行きましょ」
「え?」
「ここから近いし、その格好じゃ目立つでしょ?途中で服も買わなくちゃ」
「燃灯祝祭は?」
それを一緒に見るために待ち合わせをしていた。
「いいわ。チラッと見ることはできたし、また来年来ればいいから」
ウンスはそう言うと、ヨンに手を差し伸べた。彼女の耳朶がほんのり赤くなっているのが灯篭の灯りでわかった。
ヨンはその手を掴むと、やや勢いよく歩き出した。
「ちょ、ちょっと。ゆっくり歩いて」
「ああ・・・悪い」
すぐにヨンが歩幅を縮めてくれた。
二人は並んで歩く。
「ねえ、ところでその格好は誰なの?」
「高麗時代末期、ウダルチと呼ばれた近衛隊の隊長の衣装らしい」
「そのつけ毛はどうしたの?」
「カメラテストをする関係で、主役と同じ髪型にされた」
「へぇ~(何を着ても様になるというか、画になるのよね、ヨンて)」
「・・・何?」
「ううん。なんでもない」

 

画になる隣の男にドキドキしているウンス。
初めて部屋に呼ばれて期待と緊張がMAXのヨン。

そんな二人を奉恩寺の弥勒大仏が優しく見守っていた。

 

<おわり>

長くなっちった(汗)
単に「コエックス→奉恩寺」に向かうヨンが書きたかっただけなのヨン。
今日は旧暦の4/8。
この日は奉恩寺で燃灯祝祭が行われるそうです。
ヨンが初めて天界(ソウル)に来たのもちょうどこの燃灯祝祭の期間中でした。

 

 

前からずっと奉恩寺に関するお話を書きたくて、どうにか5/3に間に合いました。

ヨンでくださってありがとうございました。

 

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部屋から出てきた店の女たちが、傍の柱にもたれていたヨンに会釈をして下がる。

閉まった扉を見つめていると、しばらくして扉が少しだけ開き、ウンスが顔だけを出す。
「お待たせ、もういいわよ」
それ以上は出てこないつもりらしい。ひと呼吸置いてから、ヨンはウンスが開けた扉をもう少し広げて中へと入る。卓の上には、ポシャギ(風呂敷)が広がっており、その上には先ほどウンスが身に着けていた

ものと同じ色のチマが畳んであった。
「メヒャンさんに、モンスと妓生の衣装をもらったのよ」
ウンスは嬉しそうにそう言うと、「座ってて」と声をかけて、作業に戻る。
ヨンは戸口に立ったままで、ウンスをじっと眺める。
ポシャギの布の両端を持って結ぶ。たったそれだけのこと。それなのに、この人の仕草や振る舞い、立ち

働いている姿に目を奪われる。取るに足りない、他の者であれば、目に留めないようなことも、この人に

限っては、己はそうもいかない。
己の視線に気づいて、問いかけるように首を傾げるその人に、取り立てて言うことがない場合がほとんど

で、そんなときは、「何も」という返事代わりに小さく首を振るのがこの頃の常だった。
明かりに照らされたウンスの姿を、上から下までざっと目を走らせる。ウンスは、一食(約三十分)も経たぬうちに、宿舎で過ごすいつもの格好に戻っていた。化粧気のない、見慣れた横顔に安堵しながら、己を誘った気配がどこにも残っていないことに惜しい気もあった。
「どうかした?」
「・・・何も」
視線に気づいて尋ねたウンスに、ヨンはやはりそんな返事をした。

 

湯気の上がるクッパが運ばれてくると、二人は卓に並んで座り、それぞれ匙を口に運ぶ。視線を感じて、

ヨンが隣を見る。ウンスが手をとめてこちらをじっと見ていた。
「何だ?」
「・・・ううん。何でもないわ」
いぶかしむヨンに、ウンスは笑ってそう答える。
『ただ食べているだけなのに、この人はどうしてこんなに絵になるのかしら』
ウンスは、ただただ見惚れていた。
咀嚼するときの顎のラインがたまらない。食べ方も粗雑なようでいて、育ちの良さが滲み出ている。宿舎で食べるときは、他の隊員たちと一緒だから、まじまじと見ることは出来ない。
ついつい顔がニマニマしてしまう。
『何だ?』
匙を止めてヨンが目で問う。
『ううん、何でもないったら』
にやけた口元を手で隠しながら、ウンスはブンブンと首を振った。
「あ、そうだ」
首を振ったことで、ウンスは思い出した。
「私、妓生になってみたかったの」
突拍子もないことを言い出したウンスに、ヨンは驚いて匙が止まる。
「しばらく男装ばっかりだったでしょ?おしゃれが出来ないのはまあ我慢するとして、だけど貴方の態度がわりと平然としているから、私のことをあまり意識してないのかなって考えてて・・・」
一つの部屋で寝泊まりしているのに、ヨンは気まずくならないようにいろいろと配慮してくれていた。それは嬉しかったけれど、彼の部屋で一緒に住むと決めたときに、そうなってもいいとウンスは覚悟していたのだ。
でも、彼は一向に手を出して来ない。緊張せず、居心地良くさせてもらっている。有難く思っている心と裏腹に、段々と自分に自信がなくなってきた。
『私って、そんなに魅力ない?』
そんなウンスの不安は、今日見事に消し飛んで行った。もごもごと語尾を濁したウンスの言葉をじっと聞いていたヨンは、ウンスの左手を取ると包帯の部分に視線を向けた。
「これが治ったら、貴女の身体から毒が消えたら、オレは自分を抑える自信がない」
ウンスは熱い眼差しに圧倒されて、問われてもいないのに小さく頷いた。
その返事に、ヨンは喉の渇きを覚えて咳払いを一つした。

 

食べ終わったヨンがウンスを待っていると、戸口に人の気配がした。
「少し宜しいですか?」
「あ、はい。どうぞ」
メヒャンの声にウンスが答える。
「ウダルチの皆様は、出立のご準備が整いました」
ウンスが着替えている間にトルベたちにはクッパが出されていた。あちらは既に食べ終わって帰り支度も

出来たようだった。
「それじゃ、私たちも」
最後に汁を飲み干したウンスが立ちあがる。
「今日は有り難うございました。お礼はまた後日改めて・・・」
「次はない」
メヒャンの言葉をヨンが打ち切る。
「主、お前はこの人を騙してここに連れてきた。王が医仙と称される方を呼び出して協力を請う。一つ間違えば、大罪に問われても申し開きはできない危ない橋だ。仮に、ホンイという娘のためだとしても、知り合いの娘にそこまでする理由を、お前はこの方に打ち明けていない。隠し事のある者に、この方を近づけるわけにはいかない」
睨みつけるヨンの瞳を、問いかけるウンスの瞳を、メヒャンは真っ直ぐに受け止める。
「全てお見通しでございますね。参りました」
メヒャンはあっさりとヨンの言い分を認める。
「此の度の件、もともとはヘジョンから相談を持ちかけられたことがきっかけでした」
「ヘジョンさん?」
「ええ。ユン・ヘジョンはヨンスの母で、私の友人です。そして、この妓楼ソガン亭の真の主です」
驚いた表情を見せたウンスに微笑むと、メヒャンは話を続ける。
「私は、彼女からこの妓楼を任されている、言わば雇われの主なのです。私とヘジョンとは、昔からカヤグムの好敵手でした。一身上の都合で七年ほど前にケギョンを離れたのですが、数年後再びケギョンに戻って来た際に、彼女がここを居抜きで買って、私に切り盛りするようにと薦めてくれたのです。当時はどうやって日々の糧を得ようかと途方に暮れておりましたので、とても助かりました。私は、彼女に大恩があるのです」
当時を懐かしむようにメヒャンは語る。
「ヨンスとホンイ。仮初めの許婚として始まった二人ですが、互いを思慕しているのではないか。ヘジョンはそう考えていたようです。このまま真の許婚になればと思っていた矢先に、ホンイが婚書を返すと言い出して。何とか二人で話す場を設けたいというヘジョンに、任せて欲しいと私の方から申し出ました。母親が口を出すと、ヨンスが反発するかもしれない。そんなことも考えてのことでした」
顔を上げたメヒャンがヨンを見つめる。
「私は八歳で嫁ぎました。夫は私よりも二つ年下でした。誰かを慕う。そんな気持ちがあるということを知る前の出来事でした。ヨンスとホンイ。二人の為と思うあまり、行き過ぎたことを致しました。どうか、お許し下さいませ」

 

それからしばらくして、ウンスたちはソガン亭をあとにした。
一行を見送ったあと、メヒャンは一人で庭に佇んでいた。
すると闇の中から滲み出すように人影が二つ、メヒャンの背後に現れた。
「行ったかい?」
中年の女の声が問う。
「ええ、先ほど」
メヒャンはそちらに目を向けず、前を向いたまま答える。
「ヨンはおめえのこと、気づいたのか?」
中年の男の声が問う。
「いいえ。でも・・・」
「でも?」
「訊かれたわ。『前にどこかで会っているな?』って」
「何て答えたんだい?」
ウンスが着替えている間、廊下ですれ違いざまにそう聞かれた。
「何年か前に、宴席で見かけたと答えたわ。あとは妓楼街でウダルチと歩く姿を見かけたと」
「それで?」
メヒャンは首を振る。
「それ以上は訊いてこなかった。あの日忠恵王を殺そうとした女が私だとはわからなかったみたい。あのときは声も出さず、顔も隠していたから」
「そうかい」
「そうか」
中年の女が再び問う。
「満足かい?」
「ええ」
メヒャンは幸せそうに微笑んだ。


<おわり>

ヨンスの母。
ヘジョンという名前にしましたが、もしや前に他の名前で登場させてたりして!?
前に書いた内容をどんどん忘れていく~(自業自得です、はい)

 

ここで、一旦本編は終わります。
次回「番外編」ということでメヒャンの話が少しだけ続きます。

 

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