櫻葉【20】◆電気を点けてはいけない部屋◆続編





「オレ、ここ来たの、じゅんちゃんと最後に会った日以来だよ…」



とは言っても、“ヤツ”以外の誰かと来たことはない。

櫻井先生は、色々なお店に行くけど、“ヤツ”は馴染みのお店を作るタイプだった。



「マサキ、、なんで言わなかった?
俺がどうこう言える立場じゃねぇけど。
おかしいと思ったんだ。
あっさりアイツと別れられたから…」



『次のターゲットがマサキだったとはな…』と言って“ヤツ”は眉間に皺をよせて、オレを心配そうに見る。


その中には、“同情”と“憐れみ”が混ざってる気がした。



「じゅんちゃん、言わなかったんじゃなくてね。
知らなかった、が正解なの。」



「え?」



「オレ、ずっと知らなかった。
先生に隠されてた。
でも・・・・」



知ったからって、オレの気持ちが変わることはなかった。

ターゲットだったとしても幸せなんだ。



「騙されてんだぞ?」



「ふふふ~、じゅんちゃんがそれ言う?」



「まぁな…」



「ねぇ、不思議なんだけど。
じゅんちゃんの手首に痣があったの見たことない。
じゅんちゃんは、してなかったの?」



「俺はないよ…
ただ、俺の前に付き合ってた人がそれをされてたんだ。
アイツは最初、俺の友達と付き合ってたから。」



“ヤツ”の口から出た櫻井先生の過去と、“ヤツ”と“アイツ”の関係にはびっくりした。


“ヤツ”は、櫻井先生と付き合っていた友達を助けるために、“アイツ”に近付いたんだ、と言った。

友達から切り離すためだったはずなのに、いつしか自分がそこに堕ちていた、と。



「だから、負い目みたいなものがあった。
言い訳にしかならないけど、アイツと友達が別れることになったのは、
アイツから見れば俺が割り込んだから。
だから、なかなか別れられなかった。
でも、、マサキに会って俺も変わりたいと思ったんだ。」



きっと人生には、いくつもの小さな歯車があって、そのどれもが微妙なバランスを保って動いてる。


ううん、動こうって頑張ってるんだ。


誰かを助けるために、他の誰かを傷付けたり、犠牲にしたりして、どれが本当の“善”で、どれが“偽善”かなんて区別が出来なくなっていく。





…つづく…




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