処女宮 23.そんなにまぶしいと恋もできない

―8月23日―

「大人気っすね、マスミちゃん。」
待ちゆく人々が街頭のビジョンを見上げながらそんな噂話をしている。
大型ビジョンには愛らしい笑みを浮かべる女性が映し出されていた。
「あたしマスミとお揃いの髪型にしちゃった」
「マスミ相変わらずかわいいよねー。」
「そういやこないだテレビに出てるの見たんだけど、ちょっと天然なんだよねえ。ずれてるっていうか。」
町行く人々の噂話を小耳に挟みながら、私は東京特有の人混みを行く。
若者が多いこの街ではめまぐるしく流行が切り替わる。
今流行しているのは、「星川真珠美」というファッションモデルだ。
最近になって鮮烈なデビューを果たした彼女は経歴も年齢も不明という異色のモデルながら、その美貌であっという間に人気を獲得し。トップスターの座に上り詰めた。
星に真珠、綺麗なものの名前をちりばめた彼女がキラキラと輝いて見えるのも、当然のことと言える。
問題は――それがいつまで続くか、ということ。


「しかしあの子は凄いね。『恋人にしたい女性』第1位なんだって?」
控室。
ここでも星川真珠美の話題は続く。
彼女は女性だけでなく男性の指示も集めているらしい。
「そういえば星川さん、今度映画に出演するのが決まったそうよ。主演じゃあないけどかなり話題になってるみたい。」
「へえ、そうなのか。そんなにまぶしいと恋もできない気がするけどな。」
「あら、あなたも星川さんのファン?」
「違うよ、あの子が恋愛する暇もないんじゃないかってこと。ここまで人気が高いと、もし誰かと付き合ってるってことが明らかになったらスキャンダルになりかねないからね。」
「なるほどね。週刊誌の奴らは何書くかわかりませんもんね。」
私はマネージャー同士の会話に耳を傾けながら、写真を撮影するための化粧を施していた。
今日のアイシャドウは涼しげな薄いブルー。これに、同系統の色のワンピースを合わせる。こういう色はやはり濃淡のグラデーション配色にするのがいい。違う色と組み合わせるよりもずっとシンプルかつ人目を惹きやすい。
などと私が一人あれこれ考えている間に出番は近づいてきた。
「みなさん、出番です!」
「はい!」
――さあ、行こう。
私は今日も、舞台に立つ。