「連環宇宙」ロバート・チャールズ・ウィルスン(茂木 健訳) | 水の中。

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スピン膜に閉じ込められ、周囲の時間の流れに取り残された地球――太陽が滅ぶ直前で時間封鎖から解放された現在も、この現象を引き起こした超越的存在「仮定体」は謎のまま。

テキサス州立医療保護センターの医師サンドラは、保護された少年オーリン・メイザーと出会う。彼は自分が書いたという不思議なノートを所持しており、そこに書かれていたのは一万年後の未来世界、タークと名乗る人物の手記だった――


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というわけで、時間封鎖(SPIN)、無限記憶(AXIS)と来まして本作の連環宇宙(VORTEX)、スピン三部作の完結編でございます。えーとしかし時系列的には一作目と二作目の中間に位置しておりまして、なんでまた後戻りしてんの? と思いながらも、少年オーリン・メイザーの手記を通して一万年後の超未来を知ることになるのですが……。



前二作においては、

仮定体とは何者か?
その目的とは?

という謎がまず根底にあってのドラマが展開されていたわけですが、完結編である本作では、最初からなんとなく「あー、そういうモノか仮定体って……」というように仮定体の正体が明かされ気味な描写であるので、結末あたりのアレックスの告白による「仮定体って実はこーゆーモノ!」という種明かしに驚くことができませんでした。そこが少々心のこりというか、まあ作者さんが本作で書きたいのは後半のテーマであって仮定体の正体とかどーでもいいのは分かりますけども、やはり「わー、ビックリ!」とかしたかったのです読者としては……。


しかしなー、そういうわけで「仮定体の正体」には驚かなかったものの、あれだけ巨大な謎であったはずの仮定体の行動が、実はただのルーティンというか、成熟した文明に対してはいつもどこでもやっているフツーのふるまいであるというのが、ビックリを超える脱力感をもたらしますね。忘れかけていたとはいえ、うっすら覚えている(←うっすらとか言う人が書く感想……)前二作での全世界規模での大騒ぎを思うとさー、世界も人生も変わっちゃってさー、あんなに人が死んでさー、うわーあの人達かわいそうじゃんか! なんじゃそら責任とれよ!(誰が)みたいな。



それにしても前二作を読了したとゆー体験すべてをリセットしてしまうような、不思議な完結編でした。

二作目のAXISは「仮定体ってなんぞや?」が強すぎるのでアレですが、一作目とこの三作目に関しては、ひとつの物語として成立しているように思われます(私なんかタークのことよく覚えてなかったしさ……だって二作目って父親さがしの女の人のほうが主役っぽくなかったっけ。いや自信ないけど……)。



本作は超越的存在である「仮定体」の謎を解き明かす物語にはなりませんでしたが、時間の果ての果てまでを体験することができる、SFらしいカタルシスのあるお話でございました。
あたたかいラストではあるのですが、しかしそれとは関係なく「まあ最終的には宇宙とか全なくなるんだしなー、目先のことに大騒ぎしてもしょーがないか」という、良いのか悪いのかよく分からん無常観が芽生えます。

あくせく走り回るせわしない日常が、空しくなるような、気がらくになるような……。



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