2010-08-23 13:46:25

・リスクの総量

テーマ:為替、株式、その他

・リスクの総量

主要国の金利が史上最低水準にまで低下している。

18日の円債市場では、新発10年物国債である309回債利回りが0.90%と、2003年8月13日(0.895%)以来、約7年ぶりの低水準となった。

米2年国債の利回りは、19日の引けが0.49%と史上最低を更新した。同日には10年国債の利回りも2.56%となった。

同日発表の、米最新週の期間30年の固定住宅ローン金利平均は4.42%となり、フレディマックが統計を取り始めた1971年4月以来の最低水準を9週連続で更新した。前週は4.44%、前年同期は5.12%だった。

また、期間15年の固定住宅ローン金利平均は3.90%となり、15年ローン金利の統計を取り始めた1991年以来の最低水準を6週連続で更新した。前週は3.92%、前年同期は4.56%だった。

19日は、ドイツ国債10年物の利回りも、2.304%と史上最低に。30年債も2.96%と3%以下になった。

フランス10年国債や、ロシア国債なども史上最低の利回りになってきている。


主要国の国債がこれほどまでに買われているのは、リスク回避からだと言われている。

ここでリスクというものを理解するために、「実践・生き残りのディーリング」の元原稿を載せている私のホームページから、リスクについて説明した項目をご紹介する。



33. 3つのリスクを理解する

相場のリスクは基本的には見えたリスクです。リスクは大きく分けて、3つに分類できます。


1つは通貨や金利、株価、商品、それらのデリバティブなどの価格変動のリスクを意味するマーケットリスク。途中償還条項付きのコーラブルの債券や、住宅ローンを下敷きにしたモーゲッジバックド・セキュリティーズ、自動車ローン、消費者ローンなどを下敷きにしたアセットバックド・セキュリティ
ーズといった債券の、期限前の償還リスク。類似商品間のスプレッドの伸縮を問うベイシスリスクや、金利商品の価格に置き換えられるインフレリスクなどがこれに含まれます。


2つ目は投資物件の安全性、信用度を問題とするクレジット(信用)リスク。株式や債券の発行体が潰れないか、元利金が回収できるかを問うリスクです。買った証券が無事に受け渡されるか、あるいは換金した現金がきちんと口座に振り込まれるかを問うデリバリーリスク、常に正常な価格での売り買いが可能かを問題とする流動性リスクなどもこれに含まれます。国家そのものの信用を問うカントリーリスクも当然ここに含まれます。この第2のリスクは、事前にある程度見えているリスクですから、高利回りなどに惑わされず、慎重に判断しましょう。


3つ目はイベントリスク。予期せぬ突発的なことが起きるリスクです。突然の吸収合併や不正の発覚、大きくは戦争、革命、国交断絶などで証券の価格が大きく変動する、もしくは紙切れ同然になってしまうリスクです。当初考えられなかった税制の変更や規制の導入、廃止なども、金融商品の価格を劇的に変えてしまいます。この第3のリスクには分散投資で対応するしかなく、そこに投資した部分については、なかなかヘッジできません。旅行先の国で予期せぬ革命が起こり、帰国できなくなったようなものです。交通事故なども同様です。これはあらかじめ備えておくことが、事実上不可能なリスクなのです。それこそプレミアムを払って、保険にでも入るしかありません。政治システムの違う国、最近まで違っていた国は要注意ですが、クレジットリスクを超えては、あんまり深く考えないほうが現実的です。


相場で私たちが通常問題としているのは、基本的にはマーケットリスクです。マーケットリスクを軽減する最良の方法は、投資額を減らすことや、デュレーションを短くすることです。すなわち、期待するリターンを最小にすることです。やらねばやられないのです。しかし、それではマーケットリスクはなくなっても、やらないことのリスクを背負い込むことになります。進むことにだけリスクはあるのではなく、立ち止まることのリスクも大きいのです。


年金の資産配分などでも、プロに任せるとリスクがなくなると思うのは間違いです。同じ車に乗っていながら、運転席より助手席の方が安全だと思うようなものです。期待するリターンが同じときは、どのようにしても同じ量のリスクを取らねばなりません。ヘッジとは、あるリスクを別のリスクに付け替えることでしかありません。つまり、当事者であるリスクを避けることは、傍観者であるリスクを取ることを意味するのです。


3つのリスクが理解できたなら、自分の取りやすいリスクを適量取りましょう。リスクとは避けるものではなく、管理するものなのです。
(引用終り)





ここで、今起きているような、主要国の長期国債を買って回避できるリスクは、回避できるとしても、2番目のクレジットリスクなのだ。

「回避できるとしても」と断るのは、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービス社が17日に、現在最上位の「トリプルA」に格付けされている米英仏独の4か国の国債の格付けについて、「格下げへの距離が縮まっている」とのリポートを発表し、財政再建を急ぐべきだと警告したからだ。

ムーディーズは、「4か国が数か月前とは異なる困難に直面しているとし、財政赤字の削減などに取り組む各国が、大規模な財政出動を伴う景気刺激策を行えない中で、どう経済成長を実現していくかが課題になる」とした。

日本国債はすでに2段格下のAa2、AAだが、これも「格下げへの距離が縮まっている」といえるだろう。

とはいえ、他の投資物件と比較すると、主要国の国債のクレジットリスクは、安全資産と見なしてもいいものだ。もっとも、格下げされれば、通常は信用スプレッドの分だけ値下がりする。




では、他の2つのリスク、マーケットリスクとイベントリスクは、どうだろうか?


このところの市場動向のように、信用リスクを回避して、主要国の国債を買い続けた結果、マーケットリスクは史上最大水準にまで高まっている。

金利の変化に対する債券価格の感応度(マーケットリスクとほぼ同じ)は、デュレーションという尺度で見ることができる。デュレーションが長いほど、金利の変化に対する価格の変化が大きくなるので、マーケットリスクは増大する。金利低下時には、デュレーションを長くすれば、より大きなリターンが得られるが、その逆もまた真なので、ハイリスク・ハイリターン型のアグレッシブなポートフォリオといえるのだ。

そして、デュレーションは通常、償還までの期間が長いほど長く、クーポンレートの低いものほど長く、コールオプションの付いていないストレート債が長い。

つまり、史上最低水準の利回りである主要国の国債価格のマーケットリスクは、史上最大水準にまで達しているのだ。


一方、イベントリスクは前もって予測できるものではないので、何とも言い難いが、一般的に所得格差が広がると、イベントリスクは増大する。

日本やアメリカのように、中間層がどんどん失われ、富の偏在がはっきりしてきたり、世界的に見られるように、国家が借金漬けになり、失業者が増大する一方で、一部の金持ちが小国の国家予算に匹敵するような資産を持つようになると、イベントリスクは増大するのだ。現在は、個人が軍隊を持てる時代だといえる。



結論を述べると、主要国の国債を買うことは、クレジットリスクを軽減することには役だっても、マーケットリスクはむしろ増大し、イベントリスクには打つ手がない。つまり、今、世界の投資家や投機家が行っていることは、クレジットリスクよりマーケットリスクを好んで取っているにすぎないのだ。

その結果、主要国の国債市場はすでにバブル化している。

主要国の国債を買っている主役は、世界の金融機関だ。金融機関は金融当局により監督されている。その金融機関が膨大なマーケットリスクを抱えていると、金融当局は大胆な利上げに踏み切れない。そこを読んで、金融機関は更にマーケットリスクを膨らませることになる。こうした一連の行動が、バブルを産むのだ。

バブルはそのようにスパイラル的にリスクを増やすために、時間の問題で例外なく破裂することになる。次に崩壊するバブルは主要国の国債だろう。


そこで、世界一の債券ファンドであるピムコは、この7月から米国債の保有を減らし、新興国市場の債券を増やし始めた。それでも、米国債は値上がりし続けているが、時限爆弾のスイッチは既に入ったとみていていいだろう。




エネルギー不変の法則ではないが、リスクの総量は変わらない。常に同量のリスクがその形を変えて存在している。その時、最も安全な状態のリスクの在り方とは、適当に分散していることなのだ。1つのものに偏れば偏るほど、バブル崩壊時の影響は大きい。

バブルの時は、いつも史上最高水準を更新していく。そして、長期的なディスインフレ時代に入ったなどど、「パラダイムが変わった」と言われるようになる。気を付けたいものだ。



リスク分散については、2005年発刊の拙著「リスク管理資金運用」の後書きでも触れているので、以下に引用する。



終章●運用姿勢――あとがきに代えて


★リスク分散の考え方

2005年5月、世界一の自動車会社、ジェネラル・モーターズの社債が「ジャンク債」の仲間入りをしました。

ジャンク債とは、投機的な(つまり安心して「保有」できない)債券とみなされ、投資不適格ともされます。

そして、一部のアナリストは、満期まで2、3年の債券ならGM債を保有していても構わないが、それ以上はリスクが大きいので売却も視野に入れろと助言しました。

すなわち、世界一の自動車会社が4、5年後には破綻しているかもしれないと示唆しているのです。

企業が破綻すれば、その株式は紙切れとなります。債券は債務返済の優先順位が高いので、満額とはいえないまでも資金回収できる見込みがあります。しかし、破綻によりもっと大きな損失を被る人たちがいます。その会社の従業員です。

一つの会社に勤めているということは、会社と自分とは一蓮托生なのですから、株式投資を嫌おうと嫌うまいと、銘柄的にはその会社に100%投資しているのと変わらないことになります。

たとえば、大和証券に勤めていれば、その収入はおおむね大和証券の収益に連動します。しかし、会社は必ずしも収益に応じて従業員に還元してくれるとは限りません。

そこで、会社の収益に、より多くを連動させたければ自社株を買えばいいことになります。

実際、株式投資には興味がないという方でも、自社株は保有しているという方も多いでしょう。最近流行りの「上場成金」なども、自社株(あるいは買う権利)を保有していればこそです。

しかし、一つの会社と一連托生を決め込むことは、良いときには100%報われもしますが、悪いときにはすべてを失う恐れもあります。

たとえば、自社株を大量に保有していたかつての山一証券の社員は、その破綻とともに仕事を失い、収入の道を閉ざされただけでなく、保有株式も無価値となりました。

そういった一蓮托生のリスクを分散させるには、たとえば(社内ルールで禁じられていなければ)野村證券の株を買えばいいのです。山一証券破綻後も、野村證券が生き残っているのは周知のことでしょう。

とはいえ、山一証券が潰れるような環境のとき、いかに最大手といえども、同じ業界の野村證券の株価が果たして大丈夫なのでしょうか。近年の株価の回復とともに、上場来高値を更新する銘柄も出てきているなかで、野村證券の株価は、いまだにピークの4分の1ほどです。


リスクを分散させるには、より関連性のないものを同時に保有するのがいいのです。

あなたが大和証券の社員なら、野村證券株よりも、三井住友銀行株がいいでしょう。いえ、同じグループの三井住友銀行よりは東京三菱銀行のほうがリスク分散になります。いえいえ、同じ金融関連よりもより遠い業界のものがいいのです。

つきつめれば、大和証券株が下がるときに、相当の確率で上がる銘柄を持てばリスク分散ができます。それが一社だけでなく、多くの違う動きをする銘柄を組み合わせたほうが、あるいは他の金融商品や不動産、外貨などを組み合わせたほうが、もっと効率的なリスク分散ができます。


これが「分散投資」の考え方です。すなわち、株式投資はあなたのリスクを増やすのではなく、分散することにより、リスクを減らすことにもなるのです。

労働組合も強く、もっとも安定しているように見えたジェネラル・モーターズに勤めている人ですらリスク分散が必要な時代です。同社は私がディーラーとして同社の社債を扱っていた20年ほど前には最上級の格付けを得ていました。いま日本の企業で最上級を貰っているところがいくつあるか調べていませんが、そのようなトップ企業に勤めていても10年後、20年後の保証などどこにもありません。

トップ企業のサラリーマンですらそうなのですから、個人事業主やフリーター、主婦、学生を含め、すべての人は自分が抱えているリスクを分析し、適当に分散しておくのが賢明だといえます。

もっとも、分散投資といいながら、闇雲にいろいろなものに手を出すと、そこら中に心配の種があるようなことにもなりかねませんので、くれぐれもリスク管理を忘れてはなりません。

ちなみに、借入金による運用は、リスクを増やします。
(引用終り)




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