【衝撃事件の核心】ある日突然、小学校の校庭に100本以上のミカンの苗木が植えられていたとしたら…。こんな“珍事件”が宮崎県日向市で起きた。今年3月、市立小学校の校庭にパワーシャベルで穴を掘り、ミカンの苗木約130本を植えたとして、県警は威力業務妨害の疑いで男を逮捕。刑事の取り調べに男は「自分の土地だ」と主張しており、実際に登記簿上は校庭の一部が男の父親名義だった。市側は85年前に買い取ったと説明するが、一方で土地の固定資産税を男側から徴収していた。在宅起訴された男は産経新聞の取材に応じ、「逮捕は納得いかんが、裁判で所有を訴えるべきだった」と語った。(高久清史、今泉有美子)

■「逮捕された知人に申し訳ない」

 「自分の土地なんだから、逮捕されるという考えは全くなかった。手伝って逮捕された知人に申し訳ないと思っている」

 4月22日夜、2日前に釈放されたばかりの男は落ち着いた口調で記者に心境を吐露した。そして“決起”に及んだ理由をこう説明した。

 「30年前から市に返還か買い取りを求めてきたが、埒(らち)があかなかった。だから行動を起こした。ミカンを育てて、親しい友人にあげるつもりだった」

 日向灘に臨み、大正時代は港町として栄え、かつては宿屋や船問屋が並んだ日向市幸脇(さいわき)地区。現在は人口約680人が農業を中心に生計を立てるのどかな町だ。日向灘を展望する小高い山の中腹に児童数約20人の幸脇小学校がある。この小さな小学校の校庭を舞台に事件は起きた。

 3月20日朝、出勤してきた男性教頭は異様な光景を目の当たりにしていた。芝生が敷かれた校庭約4000平方メートルのおよそ半分に、碁盤の目のように均等に穴が掘られていた。そして見ず知らずの4人の男たちがミカンの苗木を手際よく植えている。校庭には穴を掘るのに使ったパワーシャベルもあった。

 「何をしているのですか? やめてください」

 教頭は男たちに話しかけたが、男たちは苗木を植え続ける。もう1度、同じ問いかけをすると、1人がささやいた。

 「いや、頼まれただけだから…」

 男たちはなおも作業を続ける。教頭は110番通報するとともに、市教委に連絡した。約10分後、警察官が駆けつけ、男たちから事情を聴いたのだが…。

 「ここはおれの土地だ」

 4人のうち、近くに住む無職の男(59)がこう反発した。警察官が「話はゆっくり聞くから。とりあえず、作業は止めなさい」などと説得を続けると、男は引き返していった。

 日向署は今月6日、威力業務妨害の疑いで、男を逮捕。さらに男から日当数千円をもらって手伝った知人ら3人も同容疑で逮捕した。4人は3月20日朝から22日夕の間、苗木約130本を植えて校庭を使用不能にして学校の業務を妨げたとされる。

 捜査関係者によると、男は取調室でも「登記がある。私の土地に植えて何が悪い」と強気の姿勢を崩さなかった。男は20日、知人の3人は21日に、それぞれ釈放された。そして23日、男は威力業務妨害罪で在宅起訴され、残る3人は起訴猶予処分となった。

■85年前のサトイモ畑買収交渉が育てた因縁

 男は校庭の土地の所有権を主張し、市側とトラブルになっていた。同居の母親(86)に事件前、自分の決意をこう伝えていた。

 「このままでは話が進まない。自分が死んでもこのままだ。何かアクションを起こさないと、市はほったらかしだ」

 問題となった校庭の土地。市教委によると、確かに登記上、約1450平方メートルが男の亡くなった父親名義となっている。男側は長年、土地の返還か買い取りを求めていた。

 このような土地トラブルが生じた経緯を説明するためには、85年前に行われた売買交渉から振り返る必要がある。

 市教委によると、大正14(1925)年、この小学校の校庭を拡充する計画が持ち上がり、市側は小学校に隣接するサトイモ畑約3500平方メートルの買収に着手した。このサトイモ畑は男の先祖を含む5人が所有しており、市側は同年4月に5人と売買契約を結び、契約書を取り付けたと主張している。

 土地の売買を行う場合は通常、買い手が代金の支払いとともに土地登記の名義を変更する。では、なぜ登記が男の父親名義のままになっていたのか。市教委の河埜(かわの)和夫教育部長は「地域住民が売買を知っていたため、名義変更の発想がなかったのでは」と推測する。

 さらに市側はこの契約書が昭和38(1963)年1月に市役所が全焼した火災で焼失したと説明している。当時の地元住民が売買の経緯を書き記したとされる記録簿が現存しており、この記録簿が市側の主張の根拠となる。

 「そんな記録は当てにならない。契約書なんてなく、燃えたなんてウソに決まっている。そもそも本来なら、そういうリスクに備えて登記を変える」

 男は市の主張を真っ向から否定。母親によると、男の祖母にあたるしゅうとめは生前、「大事な畑だったが頼まれたので、(当時の)村に貸した。しかしお金を払ってくれなかった」と話していたという。

 さらに問題を複雑化させているのが固定資産税だ。市側は昨年まで男側から徴収しており、市関係者は「機械的に徴収していた。反省しなければいけない」と説明する。

■決着は法廷で どちらが有利?

 85年前のサトイモ畑買収交渉の因縁から巻き起こった今回の騒動に、日向署も慎重に捜査したようだ。

 捜査関係者によると、同署は当初、器物損壊や建造物侵入容疑での立件を検討したが、男側に土地の所有権があるとなれば、不起訴になる恐れもあるとして見送ったという。

 手伝った3人は反省しており、2人は同校の卒業生だった。2人は「子供に迷惑がかかると思っていたが、(男の頼みを)断れなかった」という趣旨の供述をしたとされる。

 市は土地の所有権が市にあることを確認するため、民事訴訟を起こす方針で、河埜部長は「顧問弁護士は『記録簿が十分な証拠になる』と言っている」と話す。男も「受けて立つ。今から思えば、本来ならミカンを植えずに裁判を起こすべきだった」と息巻く。

 登記上の名義がある男側と、記録簿を持つ市側。“法廷闘争”になった場合、どちらが有利なのだろうか。地元の司法書士は「所有権の時効」というキーワードを挙げ、市が有利とみる。

 民法では「20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者はその所有権を取得する」と定めており、司法書士は「市は20年以上、その土地を校庭として使っていたから、裁判になったら所有権が認められるだろう」と話す。

 幸脇小学校では苗木の撤去と穴を埋めるなどの修繕が行われ、校庭は今月8日から使えるようになったが、児童たちのショックは大きかった。穴ぼこだらけの校庭に3年生の女の子は「私たちの校庭が…」と泣きじゃくったという。

 島田尚人校長は「子供たちはサッカーが大好きで、体育の授業、休み時間、休日も校庭を走り回っていた。今回の事件で子供たちの教育を受ける権利が妨げられたことがとても残念だ」と話す。

 だが苗木を植えた男はこう言った。

 「校庭の半分は植えていない。その半分で工夫して遊ぶぐらいのハングリー精神が必要だ」

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