同じ顔をした美女が2人。

 「コウっち、元気だったー? 相変わらず能面みたいよぉ」
 「剛君も久し振りっ。まっ!すっかり頭領らしくなって、お姉さんは嬉しいわぁ」

 1人は孝樹をコウっち呼ばわりし、もう1人は剛の背中をバンバン叩く。
 剛は動じる様子もなくいつもと変わらぬにこやかな笑顔で「先週の定例会でお会いしたばかりのはずですが」と応じ、孝樹はポーカーフェイスをますます硬くする。一方、辰巳は完全に毒気を抜かれ、横向きに転がったまま口を半開きにして固まっていた。
 葉奈は先ほど孝樹が言ったことを思い出した。

 (たしかに、孝樹先輩が苦手とするだけはある・・・)

 「っんまあっ、かわいいっ!!」

 2人同時に叫ぶと1人は油断していた葉奈に、1人は辰巳に飛びついた。

 「この子が噂の女天狗ね」
 「このこが噂の剛君の玩具ね」

 完全なる同調。
 葉奈は力任せに抱きつかれ、辰巳は頭をくしゃくしゃに描き回される。

 「オモチャって——、お前俺のことそんなふうに言ってたのかよっ!」

 ようやくわれに返った辰巳は頭に置かれた手を乱暴に振り払い、剛をギッと睨みつけた。剛は平然と肩を竦める。

 「言ってませんよ。今の会話を立ち聞きしていたのでしょう。一番扉の近くにいながら、あなたは気付かなかったのですか? 彼女たちに呼応して葉菜の様子もおかしかったでしょう」

 葉奈はさっきの胸騒ぎのような感覚が消えたことに気付いた。あれが呼応というものなのだろうか。

 「失礼ね、立ち聞きなんて」

 葉奈にくっついている方が言うと、しつこく辰巳にちょっかいを出している方が続ける。

 「そうよー、猪突猛進、大いに結構。若者のあるべき姿よね」

 やはり聞いていたのである。
 孝樹はわれ関せずと窓際へ行ってしまった。

 「そろそろ落ち着いていただけませんか。紹介もまだなのですから」

 剛が言うと、2人は急に真顔になってドアの前に並んで立った。

 「私、津山由紀と申します」
 「同じく、美紀と申します」

 みごとにクローンだった。髪形から服装まで同じだから性質が悪い。だが、こうして落ち着いてみると、品が良く知的な印象だ。そして、その後の彼女たちは初めの騒ぎぶりが嘘のように、いたって真面目だった。
 彼女たちが現れる前にしていた計画の説明を繰り返し、明日からの巡回の順番と、いくつかの約束事を確認して、ひととおりの話が終わったところで、剛は話を葉奈に移した。

 「今日お呼びしたのは、」
 「分かってるわ、葉菜ちゃんのことね」
 「でも珍しいわね、まだ覚醒しないなんて。それに木の葉天狗にしてはおとなしいじゃない? 本性はまだ隠してるのかな?」

 興味津々の視線を感じて葉奈は少し俯いた。

 「天狗に関してはまだ半信半疑。自身が天狗であるということについてはまったく信じていないようですね」
 「ふうん、ま、無理ないけどね。だったらさっさと変身して見せればいいのよ」

 よせばいいのに辰巳が口を挟む。

 「そのために津山さんたち呼んだんスよ。ほら、女同士の方がより刺激になるかなって、」
 「いやん、刺激だって、なんかエッチね」

 再びテンション上昇。

 「ちがっ、俺はただ覚醒を促すって意味で、」

 完全に乗せられてむきになる辰巳を剛は諦めたようにちらりと見た。

 「赤くなっちゃってかわいっ」
 「やっぱり遊ぶなら烏天狗よね。コウっちは1年の時から私たちのこと冷めた目で見るし、」
 「剛君は、適当にかわされちゃうし、」

 もう一騒動起こるかというとき、孝樹が珍しく苛立った声を発した。

 「剛っ、時間の無駄だぞ」

 剛がそれに同意すると、彼女たちは渋々本題に入った。どんなにふざけていても剛の言葉だけは必ず従う。

 「百聞は一見に如かず、よね」