遅蒔きながら、「ラブライブ」を再放送で全話みた。
アニメとしてさほど面白いとは思わないが
この作品はアイドルというものの認識を大きく変える
重要な作品であると思った。

昔、アイドルというものは
アイドルになりたいもの達は
芸能界へのとっかかりとしてアイドルになる道を選んだ。
もしくは、憧れの男性芸能人に逢いたい
異性からちやほやされたいからアイドルを目指した。

が、現在のアイドルはそうではない。
現在のアイドルを目指す少女達は
同性のアイドルに憧れ
同性の支持を受けたく
アイドルになることそのものを目標として
アイドルになる。
別に芸能界へのとっかかりが欲しくて
アイドルになろうと思わないのである。

しかし、実際にアイドルになるということは
芸能界というショービジネスの中に組み込まれる宿命から逃れられない。
少女達の意思とは関係なく
アイドル活動はビジネスとして成立するものでなければならない。
僕はそこに違和感を感じていた。

が、「ラブライブ」はその違和感を見事に解消してくれた。
「ラブライブ」の中でアイドルを目指す少女達は
スクールアイドルといういわば、クラブ活動のようなものとして
アイドルを目指し、活動を続ける。
「ラブライブ」の中の少女達は、無論、男性の支持もうけるのだろうが
基本、同性の支持、同性に可愛いと思われる為に頑張り続ける。
そしてアイドルの頂点を目指したところで
彼女達の活動はビジネスに結びつくものではない。

恐らく彼女達は高校を卒業すればアイドルをあっさりとやめるのだろう。
青春の一ページとして、彼女達はアイドル活動を認識する。

僕は以前、地下アイドルといわれる少女から相談を受けたことがある。
オーディションを受けて二年間、頑張ってきたが
特に大きくブレイクすることもなく
今にいたってしまった。
このまま続けていても先がみえないし
やめようと思ったりするのだが、事務所にそういうと
そんなにあっさりやめていいのかと止められる。
少ないながらファンもついているのだし
事務所としても君に或る程度の投資をしてきた。
たった二年で、さほど成果がでないといってやめるのは
ファンに対しても、事務所に対しても無責任ではないかと
いわれ、どうするべきか悩んでいた。

僕は、やめちゃえばいいじゃんとこたえた。
アイドルのファンなんてものは
今だけ君に夢中になっているのであって
10年後、君のことなんて応援していてはくれないだろう。
事務所が君に投資するのは芸能活動というものは
当たる確率は極めて少ないが当たれば恐ろしく儲かる
いわば一攫千金の博打であるから、しているだけであり
君が博打を打つ大人達に恩義を感じる必要なんてない——と。

アルバイトをしながら、もう少しだけ頑張ってみよう
あと少しだけ応援してくれる人達の為に頑張ろう
とやっていたところで
三年、四年、五年と経ち、
二十代も半ばにさしかかってしまえば
もうアイドルとしての商品価値なんてほぼなくなってしまうのだ。
いくら頑張ろうと、二十代後半から売れていないアイドルが
ブレイクすることなんてありえない。

アイドルなんてものは、二年か三年やって、
ダメならもう、ダメなのである。

歌や芝居ならば十年、二十年かかろうが
売れることもある。
が、アイドルはそうではない。
そもそもいい加減な気持ちでアイドルを目指したなら
いい加減にあっさりやめて構わないのである。
十代にしか出来ないものだからその想い出にと
割り切っていいものなのだ。

否、そうするほうが健全なのだ。
自分の人生なのだから
引き際がきたと思えば簡単にやめていい。
それを誰にも無責任だと咎める権利は無い。

これまではアイドルになるということは
芸能というビジネスに参加することであった。
しかしもはやアイドルはビジネスと切り離されていい。
「ラブライブ」はそれを教えた。
無論、ビジネス(仕事)としてのアイドルは残るだろうが
「ラブライブ」のようにクラブ活動としてのアイドルが主流になることによって
今後、アイドルは本来の少女文化として、正しく進化していくのではないだろうか。

「ラブライブ」に影響されてアイドルを目指す少女が
急増した今、アイドルはビジネスから開放されたのだ。

野球に青春を掛ける少年らの全てがプロを指向する訳ではない。
目指さなければならない訳ではない。
殆どの野球少年は、自分がプロにはなれないことを知りながら
その青春を野球に捧げる。それと同じように
多くのアイドルを目指す少女達もまた
アイドルとしていられる限られた時間を
アマチュアとしてアイドル活動に捧げればいいではないか。

アイドルのファンもまた
そうやって、プロを指向するアイドルとアマチュアのアイドルとの
二種類があるほうが応援しやすい筈だ。

スクールアイドルはアニメの中だけではなく
現実に存在するようになるべきだと僕は考える。
否、プロとしてのアイドルを目指す少女のほうが
スクールアイドルよりも特殊な存在になるほうが
アイドルの世界は向上するだろう。

「ラブライブ」のように気軽になれるスクールアイドルが
アイドルの主流となる日は遠くない未来、くるだろう。
AKB48にしろ、あれだけの人数がいるのだ。
それは即ち、卒業後、芸能界でやっていけるのは一握りで
殆どのメンバーは時期がくれば芸能界から引退しなければならない
ことを示している。

アイドルなんてものはそんなものでいいではないか。
もはや少女達はアイドルに幻想を抱かない。
人生を掛けない。
そのクールさを少女達自身が認識するところから
アイドルはよりラディカルな存在としてこれから新時代を迎えるのだろう。

ロリータファッションをはじめ
僕はずっと少女達の少女達によるナルシスティックな“可愛い”への同化を支援してきた。

“可愛い”は少女らの特権である。
アイドルになることが少女の特権であるのなら
それはビジネスの拘束から逃れて当然なのである。