世紀末の救世主

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20XX年、愚かな人間達は押してはいけないボタンを押してしまった。


一瞬にして、全世界は核の炎に包まれて人類の殆どが消滅してしまった。


コンクリートの瓦礫(がれき)に埋もれた街、乾ききった川や湖、砂漠と化した平地。


生き残った人々は、小さな村を作ってかろうじて生き続けていた。


食料と水を奪い合い、争いが絶えなかった。


そこへある男が現れた。


彼こそ、世紀末の救世主と呼ばれたケンである。


彼の胸には、7つの傷などは無かった。


しかし、彼も一子相伝の究極の技を身に付けていた。


村々を点々と旅しながら、彼は伝説を作ってきたのだった。


こんな時代である、病院や薬も殆どない状態で苦しんでいる病人を彼の指先が救っていたのだった。


また、1人の病人が彼の前へ現われた。


彼は、病人の両手を優しく握り目を閉じた。


血液の流れ、気の流れを読み取って、体の悪い部分を読み取っているのだ。


次の瞬間、


「ワター!ワタワタワタ!!!」


彼の指先が病人の体のツボへ打ち出される。


ただツボを押しているのではない。


指先から気を放ち、そしてツボを押す順番により効果が違うのである。


彼は、2000もの技を有する1800年の歴史を持った究極の技のたった一人の継承者なのだ。


患者は、体に電気が走ったようにピクピクと痙攣(けいれん)をした後に、元気になった自分に気がつくのであった。


その風景を見た、この村の長老が彼を引きとめこの街への永住を願った。


「どうか、この村に留まって平和を私達へ与えてください。」


「俺が居る事によってこの村が戦場になるのをあなたは解っていない。」


次の朝、彼がこの村を後にしようとしている頃、1人の男がこの村へやってきた。


彼の名前は、シン。


彼も究極の技を使う継承者だった。


ケンの内部のツボを刺激する技に反し、真の技は外部からの熱刺激を使う技であった。


簡単に言えば、お灸である。


「ケン!俺と勝負だ!!」


シンは、ケンとの勝負をする為にケンの後を追っていた。


「争い事は望まぬが・・・仕方あるまい。」


彼らの技は、人を助けることも出来るが戦いの技にもなりえるのだった。


二人は、お互いの間合いを取りながら睨み合っていた。


シンの体が一瞬先に動いた。


ケンの体に無数の火の付いたお灸が貼り付けられていく。


勝負あったかと思われた次の瞬間、ケンの指先がシンの体に突き刺さった。


「グフッ!!」


シンは、ピクピク痙攣しながら、両膝を突いて倒れこんで呟いた。


「俺の負けだ・・・」


うなだれるシンへ向かい、


「技のキレは素晴らしかった。しかし、貴様は俺には勝てない!


なぜならば・・・」


そう言いかけた時に、ケンの様子が一変した。


「熱っwwwwww!!!」


両手で貼り付けられたお灸を払い除けた。


「お前の技である、お灸は熱を感じるまでに時間が掛かる。


俺の技は一瞬で効果を表す。


それが1800年の歴史の差なのだ!!しかし・・・気持ちよかったぞ!!」


「ケン!お前の技こそ最高の快楽拳だった。一瞬で戦意をなくしてしまった。負けを認めよう!」


そう言って、シンは顔を上げた。


ケンの体を見ると、胸に7つのお灸の火傷の跡がまるで北斗七星のように並んでいた。


これが、もう1人の胸に7つの傷を持つ男の伝説である。



読みきり終了


(この小説は、フィクションです。原作:北斗の拳とは一切関係ございません。)

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夏の終わり

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各駅停車の電車から降りると、懐かしい香りがした。


この街を離れて何年経つのだろう?


昔と、全然変っていない無人駅。


電車から降りたのは、俺1人だった。


キップを改札の箱へ入れ、駅を後にした。


俺は、人通りの少ない駅前通りを歩き出した。


こんな田舎の駅前の通りも、年に1度の夏祭りの夜だけは別世界へと変貌する。


目を閉じるとふっと蘇る記憶。


通りには、浴衣の男女が溢れ、出店が連なっている。


その中を、君と手をつないで歩いたっけ。


満面笑みの横顔を見るのが好きだった。


恥ずかしかったから、正面から君を見つめられなかっただけかもしれないけど・・・


2人でヨーヨー釣りしたね。


ヨーヨーをぶら下げて、この橋から花火を観たよね。


空で弾ける花火。


弾けるたびに歓声が上がった。


川の流れに歪んで見える花火を君が指差して、


「私はこっちの花火が好き!」


って言ったよね。


「空で弾ける花火は、みんなが観てるけどこの花火は2人だけのものだから。」


そういう君を俺はいとおしく感じた。


花火が写る水面に広がる空の暗闇に、俺は永遠の時間を感じた。


「永遠などあるはずないのにね。」


呟きながら、思い出の橋の上から水面を見下ろした。


昼間の川は、川底と魚が泳いでいる現実をくっきりと映し出していた。


通りから外れて、アゼ道を抜けた先に君の実家がある。


あの頃、デートの帰りによく送って行ったね。


長いアゼ道も君と一緒だと短く感じたもんさ。


1歩1歩先へ進むたびに、君との時間が短くなっていく。


次の日になったらまた会えるのに、会えなくなるなんで考えもしていなかったのに。


君を家まで送りなが、アゼ道を遅い足取りで歩いたよね。


途中のこの電灯の下で、初めてのキスをしたっけ。


優しい光の中で唇を重ねたあの瞬間の感覚も今ではよく思い出せない。


見上げると電灯は、割れて今では使われていない様子だ。


いろんな思い出を思い起こしているうちに日は西へ傾いていた。


夕日の美しさだけは、何も変わっていないように見える。


夕日が山に隠れてしまうまで眺めていた。


薄暗くなり、草むらから虫の声が聞こえてきた。


夏の終わりを知らせる虫たちの声。


俺はまた歩き始めた。


そして、君の実家へ到着。


俺を出迎えた君の腕の中には、俺たちの子供が抱かれていた。


初産を終え実家で過していた君の顔は、もうすっかり母親の顔になっていた。


2人だけの時間は、俺にとって長い長い夏の日だった気がする。


俺たちの夏は終わり、3人の新しい季節が始まろうとしている。


夏の終わりを知らせる虫たちの声が、祝福の歌のようも聞こえてきた。


http://jp.youtube.com/watch?v=UQf_94l-X3A&feature=related


読み切り終了


(この小説は、フィクションです。作者の経験は一切関係ありません。)

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俺は、狼を追いかけ続けている。


ヤツは、時代と共に姿を変えて人間へ危害を加えてくる。


昔、野山に居た野生の狼のことではない。


なぜ狼と呼ぶようになったのか・・・


ただ最初に、ヤツが狼の姿を借りて世に現われ人間に危害を与え出したからに過ぎない。


野生の狼はすっかり絶滅の危機に追いやられた現代、ヤツもおとなしくなるかと思われていたのだが・・・


真夏の海やプールへ行くとヤツがまだ健在だと思い知らされる。


肌の表面に浮き立つ、赤黒い傷の跡。


人間達には、見えない傷なのだが、俺の目に狼の牙のあとがハッキリと見えるのである。


現在の狼は、人間の肉体ではなく精神に牙を立てて危害を加えているようだ。


ようやく、現代の狼の尻尾を捕まえた。


ヤツの行動を監視し、ヤツの行動パターンを掴んだのである。


先回りして、ヤツが現われるのを待つことにしよう。


俺は、ある家へ入りヤツが現われるのを待った。


その家の住人は、夫婦と子供が3人。


俺の存在には気が付く事はない。


子供が寝静まった頃、主婦の携帯電話がなった。


「今日も仕事で遅くなる。」


旦那さんからのようだが、ただ一言言って電話は切れた。


家事を一通り片付けた彼女は、パソコンの電源をONにする。


子供の世話が終わり、ご主人の世話もなく、仕事もようやく終わり、1人の時間を楽しめるようである。


お気に入りのサイトへアクセスすると、そこで出合った人達からコメントが書き込まれている。


コメントを読み、その返信を書き込む。


同じような主婦は多く、ごくありふれた光景のようでもある。


ただ1つの違いを除いて・・・


この家に来て、3日が経とうとしていた。


その日の朝、夫婦は些細な口論をしていた。


旦那さんの一方的な都合で、週末の小旅行が延期になったようなのだ。


イライラしながら、子供を学校へ送り出し、末っ子を保育園へ送り届けた。


今日のパートは午後からである。


またいつものように、彼女が忙しい時間の合間にパソコンの電源をONにした。


いつものサイトへアクセスをするものの、今日はコメントが少なかった。


コメントを読んで、返事を書いても、時間が余ってしまったのである。


「もう、何よ!今日に限ってコメントが少ないのw」


自分の都合の良い時に、アクセスして楽しむサイトである。


他の利用者も同じ人間でそれぞれ都合があり、楽しめる時に楽しんでいる。


彼女の場合、お友達と言ってもインターネットで知り合ったお友達は匿名だし、コメントを読んで返信して楽しんではいるが、相手がいまいち生身の人間である意識が薄いように感じる。


実生活では出せない自己中を、インターネットをやっている間は全開放してしまっているようである。


実に、危険である。


「ほら、ヤツが現われた!」


暇を持て余した彼女は、匿名で書き込める掲示板へアクセスをして、他人の事を無責任に誹謗中傷する記事を読んで楽しみだした。


共感する書き込みでもあったのだろうか?


そのコメントへ返信を書き込んでいる。


他人への罪悪感を忘れ、匿名を良いことに誹謗中傷を思うがままに書き込んだ。


日頃のストレスを他人を傷つけることで、発散でも出来るというのであろうか?


その時の、彼女の顔は醜く、目は吊り上り、口は裂け、長く尖った牙が生えている。


ヤツが彼女の体内へ入っている瞬間なのだ。


心の暗闇を作った瞬間に、ヤツは現われそして、体へ入ってくる。


そして、彼女はパソコンのエンターキーを叩いた。


彼女の書き込みは、全世界へ発信され、何処かの誰かの胸にまた狼の牙のあとが付くのである。


そして彼女は、暇な時間が終わるとまたいつもの生活に戻っていく。


「もうヤツを狼と呼ぶのはおかしいな・・・


人間を傷つけてるのは、人間なのだから・・・


どうやって、ヤツを倒すのかって?


インターネットを正しく利用出来ないユーザーが締め出されるのを待つしかないのではないかな???


野生の狼達のように・・・。」



読みきり終了


(この小説は、フィクションです。作者の経験など一切関係ありません。)

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