肉屋のオバサンは、善行の顔をマジマジと見ました。
何を大げさな、と思い、どこまでが真実なのか、見定める目つきでした。

さらに善行は、声をひそめると、オバサンに近寄るよう、手招きをし、
「ミツキちゃんのお母さんが、いなくなった!」と、オバサンに打ち明けました。
「えっ?」
オバサンは、まるで聞き取れなかったかのように、聞き返しました。
「だから!」
 思わず、声が大きくなりました。
「失踪したんだってば!」
と、善行は、言ったあと、自分でも声が大きくなったことに気付き、あわてて口を閉じました。
「なんで?」
オバサンは、信じられない、という顔をして、ポカン!としています。
すると善行も、
「それは、ボクだって、知りたいね!」
と言いました。

 善行の脳裏には、数えるくらいしか、会ったことはないけれど、少し神経質そうな…エキセントリックな印象であったこと…
ミツキちゃんのことを、普段でも、放置していたこと…ご飯を食べさせてなかったり、帰ってこなくても、心配するそぶりを見せなかったり、よかれと、食べさせても、礼のひとつどころか、
「変態ロリコンオヤジ」と、罵ったこと。
などが、頭によぎり、思わず苦々しい顔になりました…
オバサンは、それに、気付いているのか、いないのか、ぽつりと、
「少し、変わった人だったもんね」
と言い、
「変わったどころじゃない!
 これは、虐待だ!」
と、思わず声が大きくなり、
「ミツキちゃんが…」
と、オバサンが声をひそめると、  
あわてて、口を閉じました。

「ミツキちゃんの、様子はどう?」
 その時、思い出したように、オバサンが言うので、善行は背後を気にしつつ、
今度は小声で
「さっきまで、泣いてたけど、ようやく
落ち着いたみたいだ」と言い
「今、シロと、ボスが来てるみたいだ」
と言うと
「なら、とりあえず、安心ね」
と言って、初めてニッコリと笑いました。


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