化学スモッグ注意報

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「今日は所により海から強い風が吹き付けます。一部地域では化学スモッグ注意報が出ています。首都圏の方は十分にご注意ください~」

とテレビの天気予報が言う。

「今日も化学スモッグ注意報かー」
とパパ。

「あら、いやだわ、午後から洗濯物を干そうと思ってたのに。」
と少し困り顔のママ。


僕は特殊合皮製のマスクとゴーグルを引き出しから出して身に着け、玄関を開けた。

「いってきまーす!!」

うーん今日もいい天気。

こんな気持ちいい空に目に見えない、科学スモッグが充満してるなんて、信じられない。

いますぐマスクもゴーグルもとって、駆け出したい気分だけど、

化学スモッグ警告の日はこれを身に着けないと先生に怒られちゃうんだ。
でも、これで今学期は、もう六回目だし、慣れっこなもんだよね。


駅前では、プラカードをもった数人の集団が騒いでいた。

「原子力発電を即刻停止せよ!!!!」
「東京電力、政府は責任を取れ!!!!」

登校途中にたまに見かける人たちだ。
なんでもセイフやカイシャに押しかけて迷惑をかけるんだとか。


ときどき、彼らのことを周りの大人たちが冷たい目で見ているのを知ってる。

「だからって、原子力がなくちゃ、電気をまかなえないのに。。。」
「騒いだってなにも変えられやしないのに。。馬鹿だなあ。。。」



一度パパがこっそり化学スモッグについて教えてくれたことがある。

もう十年以上前、ちょうど僕が生まれたころ、発電所で事故が起きて、
危険な化学スモッグが漏れ出して、その近くには誰も人が住めなくなったらしい。

今も誰もいなくなったその町でそこに水を送り込む機械だけが、自動で動いているんだって。

でも、ときどき風の強い日には、そこから化学スモッグが僕らの町にまで届くのだとか。
事故が起きたときは、その事故を起こしたカイシャやセイフに対してすごい反対運動がおきた。

でも不思議なことに一年もしたら、そんなことはニュースにもならなくなっちゃったんだって。
それに、化学スモッグのことも最初は違う名前で呼んでたんだけど、その名前は禁止になったんだってさ。

いまでは時々天気予報のついでに科学スモッグの話をするくらい。

いまどき、そんなこと話題にする人は駅前で騒いでた変な人たちだけだよね。

さー、学校に着いたー。そろそろ授業が始まるよ。あ、ちょうど先生もキタ!

「はい、みなさん、ちゃんとマスクをしてますかー。マスクをしていれば、化学スモッグは大丈夫です。
直ちに健康に影響がないレベルですからね!」


あ、そうそう、思い出した!これもパパが内緒で教えてくれたんだけどね、

化学スモッグのことを昔は”ホウシャノウ”って呼んでいたらしいよ。



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以前に2009年5月のテポドン発射の日に書いた「晴れ時々ミサイル」の中で

・・続きは次のミサイルのときに・・

って描いたけれど続きはミサイルじゃなかったね。

晴れ時々ミサイル

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晴れ時々ミサイル

テーマ:

2009年5月
テポドン発射の日に。
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「今日の天気は、全国的に晴れ時々ミサイルです。」

天気予報が告げる。

それを見ていたママが言う。

「あなたー、今日はミサイルよ、防護スーツはちゃんと着た?」

「ああ、ありがとう、うっかり忘れるところだったよ。あぶない、あぶない。」

と、パパはそんなことをいいながら、銀色の防護スーツに着替える。

「これさえ着てれば、ミサイルも放射能も怖くないからな。
じゃ、カオル、行ってくるよ。いい子にしてるんだぞ」

そういってパパは通勤用のジェットブーツを履くと二階の窓から
勢い良く飛び出していった。

防護スーツを持ってないわたしは、ミサイルの日は外に出られない。

今日は学校もお休みだ。

「あーあ、つまんないの」

そう思いながら、窓の二重になった防弾ガラスを通じて外を眺める。

道を歩く人も、鳥や動物の姿も。動くものは何もない。

時々防護スーツ姿のサラリーマンが、靴底から火を噴きながら飛んでいく以外は。

外は雲ひとつないのに。
空はあんなに青いのに。
私は家から一歩も出られない。

隣の国の狂った軍事用コンピューターはときどきこうやって、
ミサイルを大量に撃ち込んでくる。

決まってこんな晴れた日に。
わたしは遊びに行きたいのに。

十年以上前の戦争のさなか、クーデターで指導者を失い、
なおも続いた動乱で国が荒れ果てた後も
コンピューターだけは動き続けている。

人が入り込めないほど放射能で汚染された無人の基地で、
コンピューターだけが生きていて、
いつまでも戦争を続けてるなんて。

考えているだけでも、頭がおかしくなりそうだけど、
これが、現実なんだから仕方がない。

前に、パパが話してくれたんだけど、

いまから十年以上も前の話、隣の国から初めてミサイルが飛んできたとき、

それはもう、みんな大パニックになって、

国中大騒ぎになったらしいんだって。

でも、いまではそれも嘘みたいに、みんな慣れっこになってしまっている。

防護スーツが発明されて、ほぼすべての家がシェルターに覆われるようになって。

いまではミサイルによる犠牲者は一年間の交通事故死亡者よりもずっと少ない。

嘆くわけでもなく。誰かを責めるわけでもない。

天気予報の隅っこでときどきその事を意識するだけになっている。
現実なんてそんなもん。

「あーあ、つまんないの」

わたしはこれから始まる退屈な一日を思って、ため息をついてほおずえをつく。

空はあんなに青いのに。
わたしは遊びにいきたいだけなのに。


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続きは次のミサイルの日に。お楽しみに。
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