それから、おねえさんとてをつないで、いろんなところにいきました。
 おねえさんのては、おもったよりもちいさくて、つめたくて、にぎっていて、とてもあんしんできました。

 おねえさんは、ぼくにいろんなことばをおしえてくれました。せかいはひろくて、ことばでみちあふれていたので、ぼくはたくさんの言葉をおぼえていきました。

 それからボクは、お姉さんといろんなはなしをしました。

 「このお池ではね、雨がふると、にじ色のかえるが『つばさをください』をうたうのよ」
 
 「『にじいろ』ってなぁに?」

 「なんかこう・・・きれいな色のことよ」

 「ふーん・・・あ、そうだ。『池』と『ぬま』と『みずうみ』って、どうちがうの?」

 「コイがおよいでいるのが『池』で、カッパがいるのが『ぬま』で、白鳥がいるのが『みずうみ』よ。」

 「ぬまにはカッパがいるんだぁ・・・あ、ボク、カッパ見たことあるよ。うそじゃないよ」

 「そう。どんなカッパ?」

 「あんね、家にすんでてね・・・・」

 ・・・ボク達は、ながいながいながい道を行きました。ケーブルだらけの町がありました。時間が凍りついたままの海がありました。

 「ほら、ごらん。」

 お姉さんは指をさしました。

 「双頭の猿がいるわ。頭が二つあるでしょ?」

 猿は愉快に笑ってました。

 二人で、不味いチャーハンを食べました。不細工な木と、ハンサムな木との格差がひどい森がありました。

 「チカチーロって、何?」

 となんとなく聞いたら、

 「夏野菜の一種よ」

 と言われたけれど、ちょっと悪戯っぽく笑っていたので、多分嘘なんだなって、ボクは思った。でも、不思議とその嘘は嫌いじゃなかった。

 「あのさ、ボク思うんだけど、『森』と『林』の違いって、リスがいるかどうかだと思うんだよね。」

 「うん。いい線いってるけど惜しいわね。」

 「じゃぁ、なんなのさ。」

 「フルートを吹いてみて、動物達が集まってきたら『森』で、虫がたかってきたら『林』よ。」


 道はどこまでも続いていて、この旅は永遠に続くような気がしていた。永遠に続けばいいと望んでいた。だけど、モグラ達が闊歩するお洒落な商店街に着いた頃、ふいに旅の終わりを実感した。

 オレ達は、お洒落な商店街に似つかわしくない、古臭いうどん屋に入った。吸殻が入ったままの灰皿と、ペタペタする床と、古いマンガ雑誌(表紙が土山しげる先生だった)と、やる気のなさそうなオバちゃんモグラに迎えられて、瓶ビールと適当につまみを注文した。壁には、『冷やし中華始めました』と書かれた古い張り紙があった。
 不思議と会話のないままお互いに杯をかさね、ビールが空になったので焼酎のお湯割をたのむことにした。

 「焼酎のお湯割りはね・・・」

 ふいに、女が言った。

 「お湯を入れた後に焼酎を入れるのよ。焼酎の上からお湯だと、香りに蓋をしちゃうでしょ。」

 オレはそれに応えて言った。

 「焼酎の上からお湯を入れたほうがいいとも聞いたよ。お湯の上から焼酎じゃ、風味を壊しちゃうから。」

 「あら、それじゃぁ・・・」

 「まぁ、好きに作ればいいんだよ。焼酎のお湯割りなんて。」

 「・・・それもそうね。」

 そう女が言って、二人で笑った。そのあと、先に焼酎入れたのと、後から焼酎入れたのを飲み比べて、確かに香りが違うとか、風味が違うとかお互い納得したあと、目隠ししてどっちの焼酎かあてっこしたりして、結局どっちも大して変わらないという結論にいたって、また二人で笑った。


 ・・・・

 それから、また歩き出した。

 立ち飲み屋の灯りが見えた。

 「それじゃ、ここでお別れね。」

 そんなことを言われたので、

 「やだよ。」

 って、言ってみた。

 「明日も仕事あるんでしょ?給料前借するんでしょ?」

 「やだよ。給料前借したら、お小言言われるんだよ。30過ぎてお小言言われるのって、精神的にくるんだよ。」

 「計画的にお金使わないからでしょ?」

 「正論いうなよ。」

 「正論言うよ。いつまでもこのままじゃいられないんだよ?」

 「現実突きつけんなよ。」

 「あたしが現実突きつけなくても、現実の方からどんどん追いかけてくるよ・・・あのね、最後に、一つだけいい?」

 『最後とか言うなよ』とは、言えなかった。

 「あたしね・・・言葉をどんどん覚えるほどね、どんどん言葉に出来ないことが増えていったの・・・だからね・・・あたしね・・・言葉を覚えて、言葉を教えてもらって、本当に良かった。」

 そして笑って続けた。

 「アリガトウお兄ちゃん。」

 「・・・どういたしまして・・・ユザメちゃん・・・」
 
 「へへへ・・・やっと言えた。・・・これで、あたし感謝知らずじゃないよね。」

 「うん。ちゃんとお礼できて、えらいね。」

 そう言って頭をなでると、ユザメちゃんは少しくすぐったそうにした。

 それから、

 「これ、もうあたしのおうちじゃないから、お兄ちゃんに返すね。」

 ユザメちゃんはそう言って携帯をオレに手渡しして、

 「それじゃ、お兄ちゃん・・・またどこかで・・・

  ・・・ニコミ・・・きっと・・・

  サメチャウ・・・だから・・・

  オキテヨ・・・オキャクサン・・・

  ニコミ・・・オキャクサン・・・

 ・・・ニコミ、サメチャウヨ

 オキャクサン・・・オキャクサン!!!」


 国籍不明の田中さんがオレの肩をゆすっていた。

 「ギュウスジノニコミ、デキタ。アツイウチニタベテ。」

 ども、すいません。と口の中でモニョモニョ言いながらオレは苦笑いをした。立ち飲み屋のカウンターに突っ伏して寝てしまうとは、我ながら器用なことをするもんだ。

 牛スジの煮込みを食べようと割り箸に手を伸ばした時、小豆色のジャージのポケットから携帯が零れ落ちた。

 それを拾い上げて、傷を確認した後、空っぽになったディスプレイを見た時、

 オレは、少し寂しくなった


                                        了
 

 
 
 
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 世紀の対決の結末に、スタジアムは地響きを立てて沸いた。歴史的瞬間に立ち会ったという興奮に、誰もが包まれていたのだ。
 たかしも
 「おおぉぉぉおおおおおお!!!!だぜぇぇっっっ!!!!!」
 と、勝利の喜びに雄たけびを上げていた。

 ボクは、それをみて、『うれしそうで何より。』と思った。
 さて、これから勝利者インタビューなどがあるだろう。それから、何がしかのセレモニーもあるだろう。全て付き合えば、一時間弱もかかるだろうか。
 正直、ボクは帰りたかった。これからの勝利者インタビューもセレモニーも、その主役はたかしであって、ボクではない。ボクは、別にいてもいなくてもいいに違いない。別にいてもいなくてもいいのであれば帰りたい。それから、どこかいい感じのお店で、温かいおウドンを食べたい。幸い、皆の注目はたかしに集まっているので、少しづつ少しづつフェードアウトしようとした。
 
 その時

 「石橋英明!!思い知ったか!!」

 と、たかしがボクを指差して言った
 人がせっかくフェードアウトしようとした時に、どうしてこの人はこんなこと言うのかなと思ったけど、

 「そうだね。」

 と応えてあげた。

 「この負け犬!えっと・・・悔しいだろ!」

 「うん。」

 「『うん』て・・・何か・・・何か言うことあるだろ!!」

 「帰っていい?」

 「え?」

 「帰っていいかな?」

 「そうじゃなくて!!・・・えっと・・・謝れよ!!!」

 「あ・・・うん・・・じゃぁ・・・目にジェラートを投げつけて、ごめんなさい?」

 「そうじゃないだろぅううううう!!!!!!!!」

 たかしは、怒り狂って叫んだ。赤いオーラに包まれて、その周囲に火花がバチバチ咲いていた。

 たかしは、めっちゃキレてた。

 「たかし殿、やめるでござる!!勝負がもうついた以上、これから先はただの暴力でござる!!!」

 「・・・ここは何とか食い止める・・・君は・・・早く立ち去るんだ!!」

 たかしとボクとの間に、ケンとフランデスが立ちはだかった。
 いつの間にか事態は大事になっていた。
 ボクは事態がつかめずに、ポカーンと立ち尽くしていた。
 エリと、マナミも立ち尽くしていた。
 
 「いーしーばーしーひーでーあーきぃぃいいいいい!!!!!!!」

 たかしが叫んだ。彼を包むオーラがさらに大きくなり、火花は稲妻になった。
 ゴゴゴゴゴと凄まじい音をたてて、スタジアム全体が揺れだした。
 観客は、悲鳴をあげ、我先にと逃げ出そうとパニックを起こした。

 なぜ、こんな憎しみをぶつけられなければならないのだろう。
 一体、ボクが何をしたと言うのだろう。
 ボクは、まったくその場を動くことが出来なかった。

 「やめるでござる!!!これ以上は、たとえたかし殿といえど・・・」

 「畜生!!!石橋英明!!!!お前は、俺達を生んでおきながらっ!!名前をつけて、物語を作っておきながらっっっ!!!!」

 ボクが彼らを作り生み出したことが悪いというのだろうか・・・幼いボクが空想に遊んだことが、そんなにいけないことなのだろうか・・・

 「どうして結末を与えないまま放置したっっっ!!!!!」

 たかしが吠えた。
 その声は、とても悲しく響いた。

 「お前に見捨てられて・・・俺達が、どんな気持ちだったか・・・お前に分かるかぁああ!!!」

 たかしの言葉が、ボクに突き刺さった。
 たかしの言う通りだった・・・
 
 『バーニング・ファイヤー・フレイムたかし』
 それは小学生の頃のボクが作った、ボクだけの、だけどボクの中ではちゃんと存在するお話だった。
 その物語の中でたかし達は、戦い、笑い、生きていた。
 だけど、ある時から
 具体的に言えば、小学四年生の頃、地区の子ども会のゴミ拾い活動の際に、成人向け雑誌の自動販売機を見つけてから、(一個上の大沢君が、『英君見ちゃ駄目!!』と言うのを振り払って見た。)性に目覚め、それ以降、想像や妄想の世界がエロ一辺倒になったその時から、
 たかし達の冒険は、止まったままになってしまったのだ。

 一度彼らの物語を始めておいて、
 ボクは、その結末をつけることを、無責任に放置してしまったのだ・・・

 『ごめんなさい』
 ボクは心の底から思った。
 怒りに燃えるたかしに一歩一歩近づいた。
 『ごめんなぁ』
 ボクの胸は、たかしへの謝罪の気持ちでいっぱいになった。

 でも、たかしへ告げるべきなのは、そんな言葉ではないことくらい分かっていた。

 ボクは、たかしの肩に手を置いて、言った。

 「大魔王ウルゴリラには魔法は効かない。剣でも倒せない。最大魔法の力を剣に乗せて攻撃するしかないんだ。だから・・・


 ・・・ボクは物語を紡いだ。ウルゴリラを倒すために、たかし達は伝説の武器を手に入れた。
 たかしは剣を、フランデスは鞭を、ケンは刀、ブーはレスラーシューズ・とみ、けんた、やすおの3人は釣竿・・・

 ボクが口にした瞬間から、まるでずっと前からそこにあった様に、たかし達の剣や鞭や刀が現れ、その代わりに、ボクの中からまた何かが消えた。
 考えれば当たり前のことだ。
 この世界は、言葉で出来ている。
 剣や鞭や刀も言葉で出来ていて、その言葉は、ボクの頭の中から出て行ったモノで、
 だから、ボクは、今何かをなくしたんだろう。

 それから、また、物語を紡いだ。

 激しい戦いの後、大魔王ウルゴリラは倒された。全ての世界に平和が戻って、つでに、あんなことになった村娘のお米ちゃんも、なんだか無事に元に戻って、それから、たかしとお米ちゃんは結婚して、子供が3人生まれました・・・

 たかしの側に寄り添うように、村娘のお米ちゃんと、男の子2人と女の子1人がそこにいました。多分、女の子は、このあいだ学校で習った『下こく上』(戦国時代とかの言葉)あたりがそうなったんじゃないかと思います。

 たかしのお話は、終わりました。でも、ボクはまた新しいお話をし始めました。
 次から次へと、どんどん新しいお話がボクの中で生まれてきたからです。

 ・・・王子様は、もう泣くことを止めました

 ・・・記憶をなくした2人は、また『はじめまして』から始めました

 ・・・カエルは一生、トムのことを忘れませんでした

 ・・・味ご飯にカレーをかけたよ(食えないことはない)

 ・・・つくえだけが残りました

 ・・・それがサバのゆらいです


 ぴちぴちした さばが めのまえで はねておる
 それからね
 それからもね
 どんどん、ぼくのなかから、おはなしがでてくるけんね
 どんどん、はなしをしたら、なんかいろんなもので
 せかいがいっぱいになっていって
 それからね
 ぼくがどんどん、からっぽになっていくきが、したっちゃけど
 でもね、
 あんね、

 ありのす のなかに おおきなひとが おるとよ
 
 かぼちゃ で うみが きいろく なったとよ

 おおかみ が はなを いっぱい うえてね・・・・

 あんね

 きいて

 それからね 

 ・・・それから

 それからね・・・















 「いしばしひであきくん」

 そうだれかがいって、やけん、ふりむいたら、きれいなおんなのひとが おってね

 「それ、あたしのだから、かえしてね」

 てゆって、なんかしかくいのを ぼくのてから とったんよ

 きれいなひと やなって おもって、 おんなのひとば みとったらね
 
 やさしくわらって
 
 こうゆったんよ

 「おいで。あたしが『ことば』を おしえてあげる」

 
 最終章・旅の終わりとながいながいながい道 へ続く

 
 
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 ・・・ヌタウナギのジェラート早食いだと・・・?

 ボクの発言にスタジアムはザワザワし始めた。

 「今更そんな急に・・・そんな勝負認められるはずないだろ!!だぜ!!」

 たかしが抗議の声をあげた。それはそうだろう。

 「・・・怖気づきやがって・・・」

 ボクは、たかしにハッキリ聞こえるように呟いた。そして畳み掛けるように続けた。

 「バーニング・ファイヤー・フレイムの癖にヌタウナギにビビッてんのかよ!この・・・あの・・・怖がりさんめ!!!」

 指をびしっと突きつけて、たかしを挑発した。ここで冷静にさせてはいけない。『いくらなんでもそれは無いでしょう。』と冷静に返されたら、全ては水泡に帰してしまう。勝負はもう始まっているのだ!!
 

 「この俺が怖がりさんだとー!?」

 生みの親のボクだから知っている。
 たかしは挑発に弱い。
 現に今も頭に血が上って語尾に『だぜ』をつけるのを忘れている。それどころか、髪は逆立ち、額に血管が浮き出て、全身が怒りのオーラで包まれている。どうやら、ボクの挑発は効果抜群だったようだ。
 ただ、効果抜群すぎて、たかしを必要以上に怒らせたような気がしなくも無い。
 ゴゴゴゴと会場全体が地響きをあげ始め、たかしは『波ぁ』をうつ姿勢に入った。

 はい詰んだ。
 詰みました。
 これはどう見ても、波ぁでわき腹を抉られて死ぬコースですね。
 分かってました。そんな気がしてました。
 そもそもジェラートの早食い勝負ってなんだよ!通るかそんな話!!!
 
 「ワハハハハハハハハハ!!!」

 レフェリーとして立っていたケンが、突然笑い出した。

 「いやぁ、ヌタウナギ結構!ジェラート結構!!」

 「・・・ケン・・・お前まで、こんな奴の口車に・・・」

 「口車結構でござらぬか。その口車に乗らずに、ここでその『波ぁ』を撃って場をうやむやにしてしまうと、それこそ『怖がりさん』を認めてしまうことになるでござるよ。」

 「ケンまで何言うんだ!俺は怖がりさんなんかじゃないぜっっ!!!」

 「そんなこと拙者とうの昔から知っておる。なぁ、たかし殿、敵の土俵であえて勝負するも一興!もとより拙者ら、そういう不利な状況で常に勝ってきたではござらぬか!?」

 ケンは真っ直ぐたかしの目を見据えて言った。

 「・・・分かったぜ。その勝負、『ヌタウナギのジェラート早食い』受けて立ってやるだぜ!!」

 高らかに、たかしが宣言した。
 馬鹿めっ!!この勝負を受けたとき、すでに自らの負けが決定したとも知らずにっっ!!

 すぐに『ヌタウナギのジェラート早食い』のセッティングが行われた。長机一つにパイプいすが二つ。それに、シュナイダーが作ったジェラートがいっぱいに入っているクーラーボックスが何個も運び込まれた。
 その後、不正がないよう、レフェリーのケンによる入念なチェックが行われる。
 会場が、固唾を呑んでいた。誰もが世紀の決戦が始まるその瞬間を、今か今かと待っていた。
 そして、ケンが高々と手をあげ、開始の声をあげた!!

 「始め!!!」

 早食い勝負はスタートダッシュが肝心。そうに違いない。(ボク自身、早食い勝負には疎いので、ハッキリとそうだとは言い切れないが、そんな気がするのである)
 だが、たかしは動かない・・・・否!動けないのだっっっ!!!
 それはなぜか?その答えは、なぜこの勝負が『ヌタウナギ』のジェラート早食いなのか!?という問いの答えでもある。
 読者諸君は、
 「はい、これがヌタウナギのジェラートですよ。」
 と渡されて、すぐに食いつけるだろうか?
 ほとんどの人が戸惑うだろう。
 そんな得体の知れないモノに、すぐにパクつけるはずがないっ!
 だから、たかしも、すぐにジェラートに食いつけないのだっっ!!
 
 しかし、その戸惑いは一瞬なのかもしれない。
 これは、互いのプライドをかけた真剣勝負なのだからっ!!
 だが、その一瞬っ・・・その刹那っ・・・それが明暗を分けるのだっ!!!
 それは、この勝負が、お互いのプライドをかけた、負けられない一戦なのだからっ・・・『負けられない』という強い思いがっ・・・皮肉にも自らに鋭い刃となって突き刺さってくるのだっっ!!!

 負けられない勝負における一瞬の戸惑い・・・それをリカバリーしようとして、
 たかしは、ジェラートを急いでほお張ったっ・・・かっ込んだっっ・・・その結果っっ!!!

 「ぐわぁあああああだぜぜええええ!!!!」

 たかしの苦しげな悲鳴が上がったっっ!!
 急いでジェラートを食べようとしたその結果・・・頭がキーンとなったのだっっっ!!!!

 ヌタウナギのジェラート早食い勝負・・・『早食い』と銘打っているがしかし、それは時間との戦いではなく、いかに『頭キーン』を防いでいくか・・・これは、そういう戦いなのだっっっ!!!

 その点においてボクは磐石!なぜならば、朝から夕方までずっと、ジェラートを食べ続けて、『頭キーン』をあまりしないようにジェラートを食べる、その術を身に着けたからだっっ!!

 『頭キーン』を制す者は、ジェラートの早食いを制す。ボクはその『頭キーン』を完璧に制したっっ!!つまり、この勝負、 百パーセント完璧に完全にボクの勝ちなのだっっっっ!!!!!

 ・・・思えば長く苦しい修行だった
 手足は振るえ、唇は紫になった・・・
 もう、ジェラートなんか見たくない・・・それくらいの量のジェラートを食べた・・・
 その結果、お腹を壊してしまった。
 今は、おウドンが食べたい・・・温かい、おウドンが食べたい・・・
 心の底からそう思う・・・
 ジェラート?そんなもん、食ってられっか!!!
 体中がジェラートを拒否する。
 今も一口もジェラートを食べることなど出来ずに、ただただ立ち尽くしている・・・
 そうか・・・
 そうだったんだ・・・
 今、やっと分かったことがある・・・
 ―ヌタウナギのジェラート早食い―
 この勝負を、たかしが受けたとき
 否
 ボクがこの勝負を提案したそのとき

 すでにボクは負けていたのだっっっ!!!!!

 はい詰んだ。
 詰みました。
 隣では、必死にたかしが『頭キーン』と戦いながらジェラートと格闘している。
 ハハハ・・・そんな必死にならなくても、君の勝ちは決まっているのにね。
 そもそも、そこまでして勝ちにこだわる理由はなんだい?
 ボクには分からないね。その気持ち。
 こんな勝負、負けたって別に
 負けたって、別に・・・・・・
 なんだろう・・・この気持ち・・・
 こんな勝負・・・もう、別にどうだっていいのに・・・
 こんな下らない、早食い勝負なんて
 負けたって・・・
 ・・・・・・やしい・・・
 ・・・・・悔しい・・・
 負けたくない・・・
 勝ちたい・・・
 勝ちたいっ!絶対に!なんとしても!!!
 勝ちたい!いや、勝つっっっ!!なんとしても!!!!
 落ち着いて考えろ
 心はホットに、頭はクールに
 
 モグラ商店街のウドン屋のときも
 
 電車でブリキのオッサンに絡まれたときも
 
 凍った海が割れて溺れそうになったときも
 
 工場に雨の巨人が現れたときも
 
 いつもボクは、切り抜けてきたじゃないかっっ!!
 この旅で出会った人たち
 くぐり抜けてきた冒険の数々・・・
 その集大成を・・・今・・・

 その時、ズボンのポケットがブルブル震えた。
 今朝会った綺麗なお姉さんから託されたゲームボーイみたいなアレが、震えていたのだ。
 ディスプレイに、便箋のようなマークが表示されていたので、なんとなく指で押してみると

 『目を狙え』

 というメッセージが表示された。

 目を狙え・・・そうか!!!

 ボクはジェラートを手で掴んで、たかしの目に投げつけたっっっ!!

 「ひゃぁぁ!!」

 突然の奇襲にもんどりうつたかし。

 「勝負あり!!」

 レフェリーのケンが高らかに宣言した。

 「この勝負、石橋英明の反則負けとするっっっ!」
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