サイクルトレーラー・ライフ

リヤカーデザイナー兼ネットショップ店長兼フリーライター(怪しい?)をしている40代男子が、おもにタメにならないことを書いたり書かなかったりします。お酒・本・釣りの話題が中心でしょうか?
ロードバイク+サイクルトレーラーの生活も(販促がてら)紹介します。


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えー、ちょこっと(←)間が開いてしまいましたが、再開です。


まああれですよ


人生いろいろ大変なんや。(←うしろめたいと関西弁)


ではれっつらご!


                


第7話「翔べ! ガンダム」


ネットショップを立ち上げるにあたって、まず清水かつえがしたのはオフィスの確保だった。

といっても、住居とは別に所有しているマンションにパソコンを持ち込んだだけだったのだが。

「よそに家賃払うんだったら、あたしに払ってもらったほうがいいわ」(←かつえっち)

ひっじょーに合理的な判断ができるという点において、かつえはテンチョーズ内でも最右翼である。

矢野京子がしみじみ言う。

「無駄遣いは敵よね~。保証金やら何やらバカらしいわ~」

というわけで、「くじら屋」で買った中古のデスクトップパソコン2台(モニタはでかいやつ)で準備はOK。

他の備品は・・・

テンチョーズからのお祝いで揃ってしまった。

湯沸かしポット、電子レンジ、コーヒーメーカー、ミニコンポ、デスク2台、ちょっといい椅子2脚、ハンモック。

それぞれが別の発送先から一方的に送りつけられてきた。

あいつら裏でこそこそやりとりしてやがったな、と思ったが、黙ってありがたく受け取った。

まああれだ、儲かったら盛大にお返ししようぜ、とふたりは頷き合う。

Bekoハンバーグ(これも届いた)を挟んだサンドイッチを食べながら、考える。

・・・さて、どんなショップにしようかしらね?

ということで、フェイスブックの店長グループに投稿した。



【募集!新ショップのアイディア】

新しくショップをつくるにあたり、どんなお店にしようかと考えています。
買ったお客さんが幸せになり、わたしたちも儲かり、楽天にもちょっとお金が落ちる。
何を売るか、どんなコンセプトにするか、まだ白紙です。
ちゃんと時間をかけて考えて、いいお店を作りたいので、お知恵を貸してください!


売れなければならない。

売れるだけでなく、きちんと利益が出なければならない。

たくさん売れて受賞してすごいねえ、と言われていたのに薄利がたたって潰れたメガショップもある。

忙しいばっかりで、時間と神経をすり減らされてしまうのは幸福とは真逆だ。

コストを掛けずに集客して、安く販売してもちゃんと儲けが出るシステムをつくる!

できるはずだった。このふたりなら。

うしろでニヤニヤ眺めながら協力しようと手ぐすね引いてる連中がついていたら。

手元には何もなく、ビジョン以外に具体的なアイディアもなく、でも希望で胸がいっぱいのふたりだった。

「とりあえず、バカ上司がいないだけでこの幸福感たらないわ~」(←やのちん)

「そのくらいでホクホクできるあたしらって可愛そうだったと思うわよ(笑)」(←かつえっち)

いいな、と思うショップを見て回っていたが、すぐにやめた。

すでに誰かがやっているショップの真似では・・・

面白くない!

様々なコメントが届いたが、それを目にしているうちに浮かんだのは、意外にも当たり前のことだった。

『本当にいいものしかないお店』

いいもの「も」ある、ではダメなのだった。

何を買ってもハズレがない。うれしい驚きに満ちた店。

それは、店の都合で売りたくないものも売らなければならないことの多かった彼女たちの、願いでもあった。

販促ショップの石崎ぷらさんが賢者らしく冷静な意見。

「まずは安定的に売上を確保するための、ロングテールな定番商品は絶対必要ですね」

自社製靴下を販売する小俣おまたんが補足する。

「そのためには、自分が惚れ込んだ商材じゃないとね。愛情を注いで育てていくつもりで」

たしかに、それならページ作りにも熱がこもるだろう。

ジュエリーショップの藤本みっこが言う。

「ないものだったら作っちゃえばいいよ~。うちでも受けられるし、作れる人いっぱいいるもんね」

たしかに、自社で製造を行っているショップもたくさんあるのだった。心強い。

肉屋種田姐がまとめる。

「定期的に見に来たくなるようなお店がほしいな、って常々思ってたのよね。大人がさ」

「それ思った~」(←多数)

簡単に言うけどさ~、とふたりは思う。

それは、定期的に新しいアイテムが追加されなければならないということだ。

これは、と思える厳選した商品を、定期的に、コンスタントにアップしていく。

簡単ではない。

簡単ではないのだけれど・・・

楽しそうすぎる!

バイヤーとして、全国を、あるいは海外をまわることもあるだろう。

出会いもあるだろう。

もちろんリスクはある。山盛りである。

返さなければならないお金も抱えた。

だから何?

いま、わたしたちに制限はない。馬鹿な上司の足枷はない。縛るものはない。

思い切り能力を発揮してやるんだ、そう・・・

自由に!



FBにコメントを返す。

「いいもの探したり作ったりしてくるから、それを提供するから、だれかブログ書いてよ」

「はいっ!」

「はいっ!」

「はいっ!」

「はいっ!」

「はいっ!持ち回りにしたらいいじゃん、得意分野違うしみんな」(←リヤカー屋)

「採用!」

「書くぜえ愛情込めたブログ~」



思わず見に来たくなっちゃう、いいものが寄せ集められた、大人のデパート。

商品への愛情がほとばしった、ブログやらなにやらコンテンツも満載のショップ。



結局は、ありきたりなコンセプトなのかもしれなかった。

しかし、いいお店ってのはとどのつまりこういうお店よね、と思う。

いいものを集めてきて世に問う。

腕の見せどころじゃない、と武者震いした。

「リヤカー屋が送ってきた酒でも開けるか~」

「そうしようそうしよう~」

開けた発泡にごり酒は驚くほど吹いた。

まあシャンパン代わりだ。



つづく


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着地点がちっとも見えません。あと何回で終わるかもぜんぜんわかりません。


なんてことを始めてしまったのだろう(笑)。


明日はどっちだー!


                


第6話「戦場は荒野」


フェイスブックの店長グループにスレが立った。



【退職&新ショップ立ち上げのお知らせ】

このたび、わたくし清水かつえと矢野京子さんは会社を退職し、一緒に新しいショップを立ち上げることになりました。

まだ何を売るかさえ決まっていませんが、売る側買う側双方が幸せになれるようなショップにします。

できれば会社を成長させて、みなさんをヘッドハンティングできるようになりたいわw


炎上、じゃない、祭りになった。

「おお、やっと辞めたか、おめでちょう!」(←多数)

「肉を売るんだ!」(←北海道の肉屋さん、種田やすこ)

「タオルを売るんだ!」(←都心のタオル屋さん、矢島やじー)

「SMグッズを売るんだ!」(←北海道の怪しい馬具屋、堀内つよし)

「それだ!」(←全員)


楽天の店長たちが作っているグループは、店舗運営上の情報を共有しながら、まあたいていは馬鹿話をしている。

もちろん、悩みもまた共有されてきた。

多いのは、運営上のことよりも、労働環境についてのものだ。

スタッフとして雇われてネットショップ業務を行っている者は、ネット仕事に対する周囲の無理解が最大の悩みだった。

ネットに無知な上司が上にいたら、これはもう大変なのだ。

ある程度裁量権を与えてもらって、売上が伸びていくまで長い目で見てもらえる、なんてケースはごく稀だった。

そんな悩みを抱えるテンチョーズにとって、このニュースは希望の光に見えた。

だからこそ、喝采をもって迎えられたのだろう。

さて、時間は数日遡る。


☆★☆★☆★


東の妖精こと濱野カリナが楽天ショップの店長をやっていたのは、前の前の職場だった。

本職は経理の彼女だったが、引き受けたからにはやってやる、と本気を出した。

ネットショップ部門以外にも、親会社の経理もやっていたので激務だった。

決算期など連日の終電帰りだったが、とにかく二足のわらじをパーフェクトにこなした。

ショップレビュー、4.8超え。

ネットショッパーズ的にはネ申の領域である。

いいものを売っているだけでは絶対に叩き出すことの出来ない数字。

きめ細かい、人間らしい対応がもたらしたものだった。

しかし、その会社はネットショップ部門をやめた。

やめたにもかかわらず、カリナへの負担は減ることはなく・・・

面倒なことを人に押し付けて平気な体質に嫌気が差し、ついに退職した。

テンチョーズは言った。

「おめでとう!」

事情を知っていたので、次いけ次、と煽っていたのであった(笑)。

経理のエキスパートの彼女、次もさくっと決まり、やあこれで平穏な日々・・・

ではなかった。あいやー

能力が高く面倒見のいい彼女、どうも周囲に依存されやすいようなのだった。

無理難題に右往左往させられる毎日に、辛抱強い彼女の堪忍袋も強度限界を迎えそうだった。

「クソ社長チネ」

なんて言葉がふと浮かび、あらいけないわ、と打ち消すことの多い今日このごろ・・・

阿呆な上司は最低のタイミングで阿呆なことをやらかす。だから阿呆なのだが。

「濱野さん、ちょっとこの発注どうなってんの?」

そら来た、とカリナは身構えた。

「社長のご指示通りに処理しました」

最速で、完璧に。

「間違ってるよ、おれが発注してって言ったのはこっちじゃない」

ビキ、と脳のどこかで音がしたが、我慢する。

もちろんミスなどしていない。社長はすぐ気が変わる。前言を翻す。

それだけならまだしも、それを社員のせいにする。「自分はこう言ったはずだ」と。

「・・・もうしわけあ・・・」

「困るよ?こうミスが多くちゃ」

ビキビキ

「こっちは中途で拾ってやったんだからさあ」

ぷっつん。

「間違っているのはわたしではありません」

「ああ?」

「社長は脳に欠陥がおありのようです。自分の発言を数時間後に翻し、しかも前の発言を覚えていない。気分次第なのか若年性アルツハイマーなのか単にアタマが悪いのか知りませんが、会社の業務効率を著しく落としています」

「何だと、この・・・」

「この会社にとって、あなたが最大のガンです。今すぐやめるべきです」

顔を真赤にした社長が立ち上がった。あ、殴られる、と思った。

その目の前に、誰かの背中があらわれて視線を遮った。

「社長、濱野さんの言うとおりです」

「何だ貴様、どけ」

「どきません。再三再四発注を変更して業者に迷惑をかけたり時間を無駄にしたり、取引先を失ったり、そのたびにフォローしてるのは濱野さんじゃないですか。彼女の言うとおり、会社の業務上、社長の一貫しない行動は問題です」

「お前、クビな」

カリナは目の前の背中を押しのけた。

「ちょっとどいて。・・・社長、クビはあなたです。役に立たないだけならまだしも、害になるやつはいらない」

社長の顔が赤くなったり青くなったりを繰り返した。忙しい。

がた、と音がして、背後で誰かが立ち上がる気配がした。見ると、年下の女子社員だった。

「わたしもカリナさんの言うとおりだと思う。この会社にいちばん不要なのは社長よね」

男子社員のひとりが座ったまま手を上げて言った。

「さんせ~」

「そうよね~」「よく言ってくれました!」「もうさ、疲れたよ社長の尻拭い」「カリナさん社長でいいよ」

社長がヒステリックに怒鳴った。

「お前ら全員クビだ!」

すかさずカリナが返す。

「会社都合の解雇ですね?ではすみやかに離職票を郵送してください。溜まっていた有給は本日から消化させていただきます。慰留する気などないでしょうが、しても無駄です。あ、今のやりとりは録音させていただきましたから」

さてと、と両手を叩いて私物の整理を始める。

見ると、社員全員が同じことをしていた。

・・・バカね、でもまあ、この会社にいてもいいことないしね。

「ご飯食べに行かない?」

「行く行く~」

誰もいなくなったオフィスに呆然と立ち尽くしていた社長は、へた、と椅子に座り込んだ。

震える指でタバコに火をつける。

「くそっ、フィルターに火ぃつけちまった!」

八つ当たりでデスクを蹴飛ばす。

「ぎゃっ」

小指を骨折した。


☆★☆★☆★


丸岡かよこはちょっと退屈していた。

嫁いできた先は、良く言えば自然豊か、ぶっちゃけて言えば山しかない。街に出るには下山のプロセスが必要だ。

買い物は、いつのまにかネットショップに頼るようになっていた。

買い物ついでに、ショップのブログはよく読んでいた。退屈しのぎだ。

ある日、ふとブログにコメントしてみた。

すぐにレスがあった。

店長の、気遣いのできる感じがすごく良かった。うれしかった。頻繁にコメントを入れるようになった。

それは、まぎれもなく、ひとつの交流のはじまりだった。人と人との。

ああ、ネットショップ、人がやってるんだもんね、と気づいた。

店長ブログには、横のつながりがあるようだった。他店の店長のコメントから、そのショップへ飛べる。

飛んでみた。

愉快な人達が、楽しげに交流していた。

そっと触手を伸ばす。コメントはいつも、歓迎された。本気の歓迎だった。

輪に溶けこむのに時間はかからなかった。

「とまとのしっぽ」のハンドルネームは、いつしかテンチョーズのブログに欠かせない存在になっていた。

そしてその日が来た。

テンチョーズの集まりに、声がかかったのだ。

それはまさしく、交流が本心からのものであったことの証に他ならなかった。

そして、実際に会ったテンチョーズは・・・

素敵な人達だった。想像していたより、ずっと素敵な人達だった。

よかった、と思った。

この人達と知り合えてよかった!

しかし、お互いに無くてはならない存在、すなわち「友達」になってみて、かよこはたまにモヤモヤとした感情を胸の奥に自覚するようになった。

分析するまでもなかった。

わたしも、この人達と同じステージに立ちたい。

同じ目線から、世界を眺めてみたい!

その時、関東のイケメンからメールが来たのだった。

「かつえっちとパオたんが、ふたりでショップを立ち上げるみたいですよ?」

ありがと、ちゅ、と返信してから、すぐにだんなちゃんのもとへ。

「あのね、あのね、話があるの!」

「なに?」

「働きたい!」

飲んでいた缶ビールをテーブルに戻すと、彼は厳しい顔になってかよこの瞳を覗きこんだ。

・・・負けるもんですか!絶対、説得するんだから!

「働く、簡単な事じゃないよ?」

「わかってる。ううん、働いたことないからわかっていないかもしれないけど、覚悟してる。ちゃんと家事は今までどおりやる。おろそかにしたりしない」

「そういうことじゃないんだ」

「でも、でも」

「ちょっと聞いて。働くってことは、その会社の欠かせない一員になるってことだ。簡単に投げ出したりは出来ない。周囲に多大な迷惑がかかる」

考えた。あの人達に迷惑を?そんなのできっこない!

「絶対投げ出さない。それだけは死んでもしないよ!」

「どこで働きたいの?」

かよこは息を整えた。

「お友達の楽天店長さんが、新しくお店を始めるの。ネットショップ」

夫が、テンチョーズに対してどういう感情を抱いているのかはわからなかった。

ネットに張り付いている様子を、苦々しく思っているかもしれない。

でも、ちゃんと説明してわかってもらうんだ!

「あのね、あの・・・」

「わかった」

そういってテーブルの缶ビールに手を伸ばし、美味しそうに喉を鳴らす。

「あのね、清水さんと矢野さんっていう女性二人で、すごくできる人達で、あこがれの存在っていうか」

「わかったよ」

「え?」

「がんばって、会社にとってかけがえのない人になりなさい」

「え?え?いいの?」

「なんで反対される前提なんだよ(笑)。かよちゃんを籠の鳥にするつもりなんて、もともとないよ」

「だんなちゃん・・・」

「自由なかよちゃんが好きで結婚したんだしね。思い切り羽ばたいておいで」

「愛してるぅ!」

わんこがリビングを出て行った。

空気を読んだと思われる。

「ちょ、助け・・・」

だんなちゃん、ファイト。


☆★☆★☆★


数日前にカリナが退職したことを知っていたかよこは、即座にFBメッセージを送った。

「ぷらさんから連絡来た?」

「来た来た」

「行ってみない?」

「行く!」

あっち系のイベントなどで関西慣れしているカリナはふたつ返事でオッケーし、あっという間に新幹線を手配した。

かよこは高速バスで梅田へ。待ち合わせし、淀川社長こと藤本茂樹が代表を務めるアールステージへ。

ネットショッパーズはスピードが命なのだ。

ドアのむこうでは、なにやら話が大いに盛り上がっているようだった。

ふたりはアイコンタクトを交わし、静まったタイミングを見計らって中に飛び込んだ。

「ちわーす!ユーザー目線いかがっすかあ?」

「経理のプロはいりませんかあ?」

扉の向こうには、新しい世界と新しい仲間の姿があった。



つづく(まだまだ)


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もうどうにでもなーれ、という気分が支配的です(作者心情において)。


では参りましょう~。


                


第5話「大気圏突入」


徳島を後にした青いステップワゴンは、来た道を戻って大阪方面をめざす。

出発前に友行みかりんが言った。

「ええっと、時間的に鳴門のうず潮見られそうですよ」

見られなかった。

淡路島の北のはずれにあるサービスエリアで休憩。

土産を買い込む。袖の下用である。

阪神高速の神戸付近は渋滞。下道を使って迂回し、ふたたび高速に乗って一路淀川へ。

「でもさあ、そうそう簡単にお金出すかなあ藤本にいやん」(←永野まゆみん)

「出すで。勝算あんねん」(←福田ゆっきー)

「勝算って何よぅ~」(←矢野やのちん)

「まわり見てみい」

京子は周りの連中の顔を見た。そして言った。

「馬鹿ばっかりよ?」

「・・・否定はせん」

できるはずない。

「せんけど、戦闘力も高いん違う?」

その通りだった。

みな、ネットショップで日々戦っている。

WEBのデザインやら写真の加工やらは、ほとんどの者ができる。

実店舗を切り盛りしながら、ほぼひとりで運営している者もいる。

デザイン、設計、加工を行なっている者も何人もいる。

英語を武器に持つ者もいる。

検索対策ができる者もいる。

為替に強い者もいる。

ここにいるだけではない、一声かければ協力を惜しまないであろうメンバーが、数えきれないほどいる。

いまや小売の最前線とも言えるネットショップで戦っていけるマンパワーはすでにそこにあった。

映画版プリキュアも裸足で逃げ出すほどに。

京子はかつえの顔を見た。

瞳が輝きを放ち始めていた。

かつえっちの瞳に映る自分も、同じ顔をしてるにちがいない、と京子は思った。

胸に、小さな炎が灯る感覚があった。

炎はあっという間に大きくなって、体の内側から熱が指先まで伝わっていった。

「かつえっち、わたし飛びたい」

「なんでパオたんは」

「?」

「いつもわたしと同じ事言うの?」

かつえの口角が不敵に上がった。

「わたしもね、制約のないところで自分の力を思い切り試したいと思ってた」

「うん。それに」

京子はまわりの顔を見た。みな、瞳に力強い何かが宿っていた。そして笑みを浮かべていた。

「わたし、見てみたい。テンチョーズの力が集まったとき、一体どんなことが起きるのか」

「・・・すごい景色を見られそうね」

かつえは瞳を閉じた。京子もそれにならった。

ふたりは、瞼の裏に同じ光景を見た。それは驚くほど鮮明な幻視だった。あるいは、約束された未来。

スポットライトを浴びた壇上から見下ろす、同業者たちの群れ。羨望に満ちた視線。WEB配信のカメラ。

かつえが宣言する。

「とりあえず、3年以内にショップ・オブ・ザ・イヤーいただくわよ」

「2年でいいよねー」(←永野まゆみん)

「1年でひとつ」(←入澤REI)

「バーカ!リヤカー屋さん、飛ばして!」

「かしこ!ふふ、『バロム・1』だ」

リヤカー屋の珠玉のギャグはジェネレーションギャップの前にあえなく撃沈した。

型落ちの青いステップワゴンは、車内にこもる熱の力で重力を振りほどき、路面から0.1mm上を飛ぶ。


☆★☆★☆★


淀川にほど近いアールステージのオフィス前には、なぜか尾張小牧ナンバーのワンボックスが止まっていた。

「あれ?この車見たことあるような・・・」(←荒井)

いたずらっぽい表情で、石崎ぷらさんが手を上げた。

「わたしが呼んでおきました。ギャラリーが多いほうが淀川社長も断りにくいかなと」

悪い顔だ。

オフィスに入ると、見慣れた顔がたくさんいた。

「なにこれ」

京子がのけぞる。

いつもの笑みを浮かべながら、「真ん中の妖精」こと野田あかりがのんびり言う。

「あんなー、ぷらさんからメッセもらってなー、おもしろそうやったからなー、ひろみんに頼んでなー、連れてきてもらったー」

「しょーちゃん(←リヤカー屋のことである)、こういう面白いことは早く教えなさいよ」(←森ひろみ)

「スンマソン」

「まーったく、なんやワレらぞろぞろと」

当の淀川社長が苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「何その嫌そうな顔」(←森ひろみん)

「嫌な予感しかせん」

鋭い、とラブワゴンチーム全員が思った。

「あ、にいやんこれ瀬戸内土産~。つまらないものですが~。えへえへ」(←まゆみん)

「あ、にいやんお肩など揉みましょうか~。えへえへ」(←あやか)

「あ、ふじもっさん、これ珠玉の日本酒」(←荒井)

「ああっ、王禄!リヤカー屋てめー昨日出しやがれ」(←ゆっきー)

「あーうるさいうるさい五月蝿い!とっとと要件言わんかい!」

REIがずいっと前に出た。

「茂樹よく聞け。パオとかつえっちが会社辞めた」

「おお、思い切ったの」

「くびきから逃れたんだよ。これから思う存分力を発揮する場所をつくる。ショップを始めるんだ、ふたりで」

「おお、ええやないか!」

「出資しろ」

「用事思い出した」

逃亡を図ろうとする藤本を20本くらいの手が押さえつけた。その中にはアールステージ社員川畑みちえのもあった。

「あっこの裏切り者!」

「茂樹よく聞け。いや、ふたりの顔を見ろ」

見た。いい顔をしている、と認めざるを得なかった。

「周りの連中を見ろ」

見回した。どいつもこいつもワクワクしているにちがいない表情だった。そして自分の胸の中の虫もざわめき始めていた。

「目をつぶって想像してみろ」

目を閉じた。そこに鮮やかな光景が広がった。一度は自分も夢見た光景が。

目を開けると、みんながニヤニヤした顔で見ていた。「な?」と言いたげだった。

「みっちゃん、カバン」

0.5秒でみちえが差し出す。準備していたに違いなかった。

バブリーなセカンドバッグから小切手を取り出すと、スラスラと数字を書いてかつえに差し出す。

横から覗き込んだまゆみんが不満そうな声を出した。

「えー、にいやん500万ってちょっと少なくね?あいた」

REIの空手チョップが後頭部に落下していた。

「いてーな姉ちゃんなんだよ」

「よく数えろバカ」

「えー?いちじゅうひゃくせんまんじゅうまんひゃくまんせ・・・ゲッごせんまん!!!!!!」

「どええええええええええ」(←一同)

京子が貧血を起こした。例によって綾香が救護。

「ちょ、にいやん、こんないっぺんに・・・」

かつえもさすがに血の気が引いている。

「ちまちまやってもたかが知れとる。成功するには資金の裏付けが必要や。思い切ってやり」

「返済は?」

「10年後の今日、まとめて払え。利子はいらん」

「茂樹~!惚れた!」

REIが首に抱きついた。

「さすが淀川を枯らす男!」「すてち!」「結婚して!」「これ本物?」「目がチカチカする」「おえっ」

ひとしきり賞賛の嵐が吹き荒れたあと、まゆみんがちゃっかり言った。

「まずはさ、これで宴会ってどうすか?」

ぴた、と全員の動きが止まった。

「ナイスアイディ・・・」

「ダメです」

かつえが氷のような声で言った。室温がちょっと下がった。

その時、がちゃ、と音がしてドアが開いた。

「ちわーす!ユーザー目線いかがっすかあ?」

「ちょ、とましゃん?」(←あやか)

楽天ヘビーユーザーにしてテンチョーズと親交の深い、トマトさんこと丸岡かよこだった。

その後ろから、もうひとり顔を出した。

「経理のプロはいりませんかあ?」

「カリナしゃん???」

東の妖精こと濱野カリナだった。ネットショップをやりながら親会社の決算を独りで片付けた経理の鬼だ。

「採用!」

息を吹き返した京子とかつえがハモった。

「どうなっとるんや」

淀川社長が呆れた声を出した。

それは作者にもわからなかった。




つづく

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