サイクルトレーラー・ライフ

リヤカーデザイナー兼ネットショップ店長兼フリーライター(怪しい?)をしている40代男子が、おもにタメにならないことを書いたり書かなかったりします。お酒・本・釣りの話題が中心でしょうか?
ロードバイク+サイクルトレーラーの生活も(販促がてら)紹介します。


テーマ:


えー、小説へのテンチョーズの注文(?)が殺到しておりまして。


やれ金瓶梅を混ぜろだとかいや里見八犬伝だとかそこは銀英伝だろとか好き放題です。


ネットショップ小説だからね?


つうことで第2話!


                


第2話「小さな防衛戦」



矢野京子は走っていた。今日も走っていた。ここのところ毎日だ。

かっ、と雲の上が青白く光った。十数秒遅れてゴロゴロゴロゴロゴ・・・

傘は持っていない。

すくめた首を元に戻し、レターパックではちきれそうなトートバッグを抱えなおし、ふたたび走りだす。

☆★☆★☆★

若い女社長から届く定期メールはあらゆる意味でとっちらかっていて解読が難しい。

難しいのだが、おどろくべきことに、いつの間にやら翻訳の精度が上がってきていた。

人間の適応力ってすぎょいわ、と他人ごとのように感心する京子だったりする。

<ゆうパックにつきましては、矢野さんの酌量の範疇が及ぶところにつきまして、総合的に清算する準備がありますので、月末をもってワンクールとし、口座へのキャッシュバックという形で善処します>

ゆうパックの代金は月末にまとめて精算するからそれまで立て替えとけ、と一瞬でわかるわたしはすでにエスパー?

じゃねえ。

こちとらそんなに裕福じゃねんだ、とっとと金返せ。

・・・を、オブラートでぐるぐる巻にして画鋲を一個だけ仕込み、返送する。

こういう時間が無駄だ、と嘆息する。

席から離れて梱包を再開する。

ひとり。

自宅勤務という形態はありがたい、と思っていたが、最近は自分のひとりごとの多さにぎょっとすることがある。

そう、ネットショップ構築と受注処理が仕事のはずだったのに、いつの間にかゆうパックの発送業務が加わっていた。

自宅の一部は、商品にスペースを奪われている。

この業務が加わる時「いずれ給与アップします」という約束だったが半年過ぎた今も据え置かれたままだ。

・・・ふん、この程度の逆境なんか屁でもないってのよ!

鼻息荒く作業を進める京子だったが、じりじりとプライベートの時間が侵食されていることは自覚していた。

「げ」

時計を見上げて声が出た。郵便局の窓口が閉まる時間が近い。

加速装置、とつぶやいて手の回転速度を上げて作業を終え、発送メールは後回しにすることにして部屋を出た。

☆★☆★☆★

雨が降りだした。大粒の雨は、容赦なく小柄な京子の身体を打った。あっという間に体が冷える。

それでも、品物を濡らさないように大切に胸に抱え、郵便局めざして走った。

郵便局への最後の曲がり角を曲がろうとした瞬間、視界が大きく動いた。

そして衝撃。

濡れたマンホールに足を取られて転んだのだ、と理解するのに数秒を要した。

目の前にレターパックが散乱している。容赦なく雨が濡らす。全部やり直しだ。

よかった、発送メール送らなくて、自分GJ、と思った瞬間に涙が出た。

京子に関心を払うことなく通過する人々の脚が、ぼやけていく。

ひとりだ。わたしはひとりだ。

「やだよ」

声が出た。

涙は驚くほどの勢いで溢れ出た。嗚咽も。止めようがなかった。

世界はいま、京子とは何の関わりもなく存在しているように思えた。何もかもが遠ざかっていく。

「ひとりは、いやだよぅ・・・」

不意に雨がやんだ。目を上げると、足があった。

ダサいスニーカー。視線を上げていくと、長い。細長い。最上部に見たことのある顔があった。

差し出された傘の主。そいつがのんびりした声で言った。

「お、やっぱやのちんだ」

「アラーイ???」

「荒井と申します」

知り合いの、横浜のリヤカー屋だった。その男がなぜ神戸にいるのかわからず、ぽかんとする。

「・・・なに、やってんの・・・?」

「やのちんをナンパ。それはそうと、そろそろ起き上がるという選択肢もある」

とりあえず身を起こしてしゃがみ込み、もう一度荒井の顔を見上げる。少し困ったような顔をしていた。

そういえば、涙は引っ込んでいた。驚きすぎたのだろう。

散乱したレターパックを拾い集めはじめた細長いシルエットに向かって話しかける。

「仕事で来たの?関西」

「ちがうよ」

「今日平日よね」

「うん、圏央道が開通したもんだから」

何を言っているのかさっぱりわからない。

「開通したのよ、圏央道」

ハスキーな声に振り向くと、軽井沢のジュエリー屋、入澤奈央子が立っていた。

何のつもりか腰に手を当てた決めポーズで起伏の激しいボディを見せつけている。

そのハイアーなマウンテンを見、視線を落として自分のささやかな丘陵地帯を見、一瞬涙が戻りそうになったが悔しいのでこらえた。ぺっぺっぺ

「なおちん、何やってんの?」

「あたしがわかるわけない」

なぜか自信満々に答える奈央子だった。

「バカなの?」

「バカはまだいるのよね」

奈央子の指さすほうを見ると、見たことのある青い型落ちのステップワゴンがハザードをチカチカさせながら止まっている。

くいくい、と人差し指を上に向かって曲げるサインに導かれ、ドアが開いて人が降りてきた。ぞろぞろ。

京都のアクセサリー屋、永野まゆみが目を丸くしながら京子を指さした。

「ぱお(京子のことだ)!」

そして、ずぶ濡れでズタボロの京子に向かってこう言った。

「転んでるし~。ひぃ~」

「笑うんじゃねーよ」

駆け寄ってハンカチで顔を拭き始めたのは、おなじ神戸の雑貨屋、小林綾香だった。

「ぱおたん大丈夫?怪我してない?あーあー派手に転んじゃって」

本質的に親切なのだった。

「自分の運動神経を考えなアカンで」

そう言ったのは、大阪・高槻の子供服屋、福田幸代だった。にやにやしている。

「うっせ」

「とりあえず車に戻ろうよ」

もっとも現実的な提案をしてきたのが、やはり大阪の清水かつえ。

あやかが京子を抱え起こし、みんなで車に戻る。その途中でかつえが言った。

「あ、あたし会社辞めたのよね」

「どえええ」「うそっ」「やたっ」「遅すぎ」「ぎゃはは」

座席に収まり、どこかからかタオルを取り出したあやかが京子の頭やら顔やらを拭きはじめる。

目をキラキラさせながら、まゆみがかつえのほうに身を乗り出した。

「どんなだったん、辞める言うたとき?」

「そういう面白い話は道中ゆっくり聞こうぜ。やのちん、部屋まで送るから準備してきて」

当たり前のようにリヤカー屋が言う。

道中?準備?

「ちょ、どこ行くの?」

・・・。

3秒ほど空白があった。

「えっと、じゃあ徳島!」

おま、今思いついたよな?

常識を疑わざるを得なかったが、そもそも常識的なところなど見たことがないような気もする。

だいたい、明日は土曜だが仕事がある。このレターパックの再発送とか。

「仕事がさ・・・」

そうつぶやきかけた京子に、視線が集まる。ルームミラー越しに荒井も見ている。

「仕事が・・・仕事・・・」

一同、じー。

休んでしまえばいい、と考えた瞬間、どこかの鍵がポロッと開いた。

休む、じゃない。そうじゃない。もっと、どーんと踏み出してしまいたいのだ、わたしは。

そう、ずっと頭の隅に追いやっていたのだ。

「仕事なんて、辞めてやるっ!アラーイ、うちじゃなくて会社に向かって。その信号右!」

「かしこ!いえーい!」

みながハイタッチを始めた。人の失職がそんなに楽しいかおまーら、と思った瞬間に笑いが出た。

「ぎゃはははははは」

「でたやのちんのぎゃはは笑いw」

車がオフィスの入ったビルに横付けされた。何のつもりか全員ついてくる。

すし詰めのエレベータを降り、口を真一文字に引き絞った京子を先頭に、期待に顔をテカテカさせた一同が続く。

ドアを開け、まっしぐらに社長のもとへ。

「矢野さん、どうなさったのですかアポイントもなく。矢野さんらしく・・・」

「退職します。いいえ」

気圧されて背中を心持ちのけぞらせ、固まっている社長に矢を放つ。

「あなたを、わたしの雇い主から解雇します」

「あ、あ、あなたは何を」

「では」

きびすを返す。

そのあとを、口を両手で塞いだ一同が続く。なぜか抜き足差し足になっている。

ドアを出た瞬間全員が吹き出した。

「ぱおたんやるときはやるのね」

「おなかいたい」

「社長の顔おもろすぎやで」

「解雇しますキリッ(モノマネ)」

そしてかつえが言った。息も絶え絶えに笑い、涙を流しながら言った。

「ぱおたん、あたしと同じ事言ってるし」

「えっ」

「あたしも言ったった、あんたら全員クビやって」

「ひゅー、かっちょべー!w」

リヤカー屋がスマホをいじっていた。

「アラーイ、何やってんのよ」

「ん?フェイスブックに『やのちん社長を解雇なう』って」

「あのな」

ふたたび車に乗り込み、京子のマンションへ。車を降りて部屋に戻って支度をし、また車に乗り込んだところでふと考えた。

あれ、わたしは何をしているのだろう?

京子の疑問を乗せたまま、青いステップワゴンは走りだしてしまった。

「じゃあ徳島ってことで。永峰由華さんに連絡してみてよだれか」

「はいはーい」

え、これから?順番ちがくね?いまから予定とか無理なんじゃ?

などと京子が思っているうちに徳島のギフトショップにさくっと連絡がついてしまった。

「由華さんいいってさ~」

こいつら全員馬鹿ばっかりだ、と思うと笑えてきた。自分も一緒だ、勢いで会社辞めちゃって。

「そもそもあんたら、なんで来たのよ~」

「それはほら、REI(奈央子のことである)が・・・ウッ」

奈央子の肘を脇腹にくらって荒井が呻く。

「ヒマだったのよ」

嘘に決まっていた。クソ忙しさでは楽天テンチョーズでも1,2を争っているジュエリー屋だ。

そして気づいた。

こいつら、あたしを心配してきたんだ・・・。

バカだけど、察しだけは異常にいい連中、凹んでるのを気づかれてたか。

ふん、この仕返しはいつかしてやるんだから!

スマホを取り出して、楽天トラベルを開く。徳島界隈のビジネスホテルを検索した。

「宿あったよ。『ビジネスホテル近藤』だってさ~。なんか妙にレビューいいわ~」



つづく
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