何も教えない。本を読む塾というのがある。

 越後の北端、新潟県村上市。車のワイパーが利かない降りしきる雪。1月21~25日まで、「けやきぶんこ」で毎月恒例の講座が開かれた。20~70代までの生徒49人が5班に分かれている。

 課題は松本清張の「ゼロの焦点」。前月の講座の際に本を渡され、気に入った部分を書き出す。今回は「北国の冬の情景」「女性の心情」「昭和32年の風俗」だった。

 「ただ感想を書かせると、当たり前のことしか書けない。でも、この方法だとだれでも書けるし、同じ本でも、それぞれが違う感じ方をすることがわかる」。塾を開いている鈴木富夫さん(70)は説明する。

 講談社では名物編集者として知られ、週刊現代の編集長を5年間務めた。62歳で役員退職。その2年後、ゴルフ場でキャッシュカードをスキミングされ、偽造カードで3200万円を引き出された。「原則補償に応じない」という銀行を相手取り提訴。全額返済を勝ち取り、事件がきっかけになり預金者保護法が制定された。

 「訴えられたことしかなかったのに、自分が訴えるなんて。だけど、法律も変わり、人の役に立ったという感慨は大きかったね。現在もね。編集者時代? 人の役に立ってるなんて思わないよ」

 戻ってきた3200万円全額をつぎ込み、「けやきぶんこ」を建設した。大学を出たら「先生」なって戻ってくると言い、出たままのふるさとに。長男は両親の望みを44年目にして実現した。

 「先生と呼ばれているけど、生徒に教えられているのは自分ですよ。一番得をしているのも自分」。「ゼロの焦点」の「灰青色」という言葉に生徒が疑問を持った。みんなで調べ、考えた。いくら読んでも本は尽きない。言葉は尽きない。「大好きな作家、日本最高の小説、世界最高の小説を全部読む」。それが終えたら大往生という。(将口泰浩)

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