リクエスト第4回目は、いつもコメントをくださるyukoさんからのリクエストひらめき電球


★お見合いを決めた時から、お見合い中までの直樹の気持ちを小説にしてください!

との、リクエストをいただきました★


お見合い中までということでしたが、その日の夜の直樹のココロを中心に書かせて

もらいましたにひひ

今回は、重いテーマだったので全体的にトーンが暗いかもしれませんが、私なりに

直樹の気持ちを表現できたんじゃないかなと思っています。


yukoさんや読者のみなさまが、キューブの解釈に共感してくれることを祈りつつ・・・


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 ~あの夜へ戻れるなら~


オレは、自分の部屋のドアの内側に寄りかかって、琴子が階段を駆けあがってくる音を

聞いていた。
激しく閉まるドアの音・・・おそらくあいつは、枕に顔を押し付けて泣いている。


「お前も、早く男つくれよ・・・」
ほんの数分前にオレが琴子に言った言葉・・・
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この言葉がどれ程琴子を傷つけるか、十分にわかっていて言った言葉だった。
こうでも言わなければ、あいつはオレをあきらめないだろう・・・
そして、オレもあいつを断ち切れない・・・


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大泉グループとの提携話が進む中で、降って湧いたように持ち上がったオレの見合い話。
オレが大泉会長の孫娘と結婚すれば、大泉グループとの絆は何よりも強いものになるだろう。
それでも、初めは結婚など考えられなかった。
オレの力だけで、何とかしてやろうと精一杯の努力もした。


しかし、倒産のうわさに不安を募らせる社員の訴えに、オレは揺れた。
ずっとココロの中に浮かんでは消え、消えては浮かび上がる言葉が、オレを支配し始め

ていた。


<大泉会長の孫娘と結婚すれば、会社は救われる・・・>


「この会社はつぶしません!」
社員に向かって、きっぱりと宣言しながらオレは決心していた。
この見合い話を進めること・・・それは、すなわち夢との完全な決別を意味していた。





「お見合いをする?」
オフクロが大きな声をあげた。
オフクロの驚きようは、持っていた食器を思わず落としてしまうほどのものだった。
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「まさか、会社のために犠牲になるつもり?」
声をひそめて言ったオフクロの言葉に、一瞬ひるみそうになりながら、なんとかその場を

取り繕った。


オレは嘘をついた。
オフクロにも、自分自身にも・・・


見合い相手が好みだったから、気が変わったなんて、本当は写真すら見ていないのに・・・
会社を救うためにこの身を犠牲にするのなら、相手がどんな人だろうと関係なかった。


オレは追い詰められていた。


それが、見合いするということを正当化するには、あまりに見当違いな言い訳だったとし

ても、今のオレにはもうこの道しか残されていないように思えていた。


オレの決断を知って、琴子が泣いていた。
あんな泣き方をする琴子を見たのは、初めてだった。
オレに背中を向けて、顔を伏せて、嗚咽をこらえて、一言の文句も言わず、肩を震わせて・・・
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ほんの一瞬、決心が揺らぐのを感じた。
琴子の気持ちがわかっているだけに、かける言葉など浮かぶはずがなかった。


オレは、迷いを振り切るように一瞥もくれず琴子の前を通り過ぎた。
もう決めたんだ。
たとえ琴子がどれ程泣こうとも、この決心は変えられない。
パンダイを救って、オヤジを安心させたい・・・その思いだけが、その時のオレを支えていた。


ただ、この見合いが上手く行けば、近い将来琴子はこの家を出て行くだろう・・・
オレは、うつむいた琴子の横顔を思い浮かべながら、ココロの中に鈍い痛みが広がってい

くのを止めることは出来なかった。






「夢はありますか?・・・」
不意の沙穂子さんの問いかけに、オレは我に返った。


そこは、見合い場所に選んだホテルの庭に建てられた小さなチャペルの塔の上・・・


この見合いをぶち壊したいオフクロの少々暴走気味の言動に閉口したオレは、オフクロと

大泉会長をレストランに残して沙穂子さんをホテルの庭へ誘った。


庭を歩きながら、琴子の存在にも気づいていた。
オフクロ同様、この見合いの邪魔をするために何かたくらんでいるのだろうと思えたが、

オレは放っておいた。
たとえ琴子が何をしようとも、無駄なことだった。
それよりも、見合いの邪魔をしようなんてあまりに琴子らしい発想に、オレは少しほっとし

ていた。
あの日肩を震わせて泣いていた、あんな琴子の姿を見るよりもずっとましだと思えた。
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この見合いに、政略的な意味しか持っていないオレは、おそらく今まで誰にも言ったこと

のないような優しい言葉をかけ、家族にも向けたことのないような微笑みを浮かべて沙穂

子さんを見ていた。


ココロの片隅にくすぶるような違和感と嫌悪感を感じながら、それでもオレは彼女に対し

て十分紳士的に振舞っていた。
理性の仮面を被り、会社を守るためという大義名分をココロに潜ませながら・・・


それが、彼女のほんのひと言にオレは我に返り、動揺していた。
「夢はありますか?・・・」
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―オレの夢?・・・オレの夢は医者になることだ。


会社を継ぐと決心した時に砕け散ったはずの夢の欠片が、オレのココロの中でまだ息づ

いていることをあらためて感じていた。


「夢をあきらめたら、何もなくなっちゃうよ!」
琴子が必死になって、オレに訴えた言葉が頭をかすめ、オレは沙穂子さんの問いかけに

答えることが出来ずに背中を向けていた。


夢を捨ててまでオレがしようとしていることは何だ?
自分を騙して、琴子を騙して、そして今、目の前にいるこの聡明な女性までも騙そうとして

いるんだ・・・そうまでして会社を守って、その後オレには何が残るのだろう?


まず間違いなく、幸せな未来は想像できなかった。
それでも、幕は上がってしまっていた・・・もう戻ることはできない。
なぜなら、沙穂子さんがオレを見つめる視線に、好意以上のものを感じてしまったから・・・
彼女がオレを気に入れば、この見合い話はあっという間にまとまるだろう。
それは、本当ならオレにとって好都合なことのはずなのに、ココロは重くなるばかりでオレ

は彼女の目をまともに見ることが出来なかった。
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そして、たった今琴子に投げつけた言葉・・・
「お前も早く男みつけろよ」

どうして、オレはこんなひどい言葉を琴子に言えたのか。
あいつを遠ざけるためだけなら、他にも方法はあったはずなのに・・・
琴子の部屋のドアが激しく閉まった時の音がいつまでも耳に残って、オレは思わず耳を塞

いでいた。


オレは胸に押し寄せてくる後悔の波と必死に戦っていた。

声を押し殺して泣いていた琴子の後姿。
大泉沙穂子という女性に、何の感情も抱けなかった自分。
病院のベッドに横たわるオヤジの姿。
オレに不安を訴えた社員の顔。


オレを取り巻くさまざまな事柄が、ココロの中で交錯していた。


ふと、オヤジが二度目の発作を起こした日の夜の出来事が思い出された。
あの夜、オレは確かに琴子に慰められていた。
琴子に抱きしめられて、その真っ直ぐな愛情とぬくもりは、かじかんだオレのココロを温

めてくれた。そして、目の前の困難に立ち向かう勇気すらあたえてくれたのに・・・

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オレは何をしているんだろう?・・・
この先、オレは何を得て何を失うんだろう?
どんなに考えても、答えはでない。


もう後戻りできないことはわかってる。
これは、誰でもなく、オレ自身が決めた道なのだから・・・


でももし戻ることができるなら・・・オヤジが倒れる前の、夢を捨てる時が来るなんて思って

もいないあの頃へ戻りたい。




いや・・・せめて琴子がオレの背中を抱きしめてくれたあの夜へ戻れたなら、もう一度あの

ぬくもりに身を委ねて、あの日からやり直すことが出来るのに・・・

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                                           END


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 ~あとがき~


この頃の直樹は、ホントにかわいそう・・・

入江パパが倒れて、治るまでという条件付で引き受けた会社は実は倒産寸前!

そんな中で、降って湧いた大泉グループ会長の孫娘とのお見合い話。

彼女と結婚すれば、会社は救われると本人でなくても考えるのは当然のこと。

追い詰められた彼の決断を、誰も責めることは出来ないけど、本当はそれは間違い・・・

でも、気付いた時にはもう運命は転がり始めていたといった展開ですね。

そんな直樹の、理性の裏側に隠された葛藤するココロを書いてみました。


このお見合いによって、直樹は琴子以外の女性と初めて密度の濃い時間を過ごすことに

なります。(深い意味はありませんよ~!)

それは、特別な意味を持つ相手として、初めて琴子と比べる対象が出来たことになるわ

けですね。

そんな中で、直樹は琴子への思いを深めていったんじゃないかなと思うんです。

自分で突き放しておきながら、前以上に琴子のことが気になり始めるんですから!

沙穂子のすること、言うことに対して、「こんな時琴子なら・・・」ってすぐに考えるでしょう?

そんなきっかけを作ったのが、このお見合いなら、これも二人の恋には必要不可欠な

スパイスだったのかもしれませんが、すれ違う二人を見ているのはやはりつらいですね。



いかがでしたか?

次回もどうぞ、お楽しみに♪




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