絶体絶命の場面だった・・・
「おい、こっちだ!」
オレは、おろおろしている琴子を促して走り出した。
松本は、須藤先輩がなんとかするだろう・・・
オレの知ったこっちゃない。
オレは人ごみを掻き分け、街の外へ外へと逃げた。
いつの間にか、琴子の手を握って走っていた。
琴子の手は思ったよりも小さくて、オレは決して離してしまわないように、その手を
しっかりと握りしめていた。
初めからおかしいと思っていたんだ。
須藤先輩と琴子がなんて・・・
でも、二人が付き合っているのかもしれないと思わせる場面を目にするたび、オレの
イライラは加速度的に増して行った。
琴子を見るたび、いじめてやりたくなる気持ちを抑えられなかった・・・
いや、思うよりも先に言葉が出ていた。
今にも泣きそうな顔のあいつに向かって、棘のある言葉を浴びせ続けていた。
須藤先輩をテニスの試合で叩きのめしたのも、松本の誘いを受けたのだって、琴子へ
のあてつけみたいなものだった。
―あてつけだって?・・・それじゃ、まるでオレがあの二人に嫉妬してるみたいじゃないか?
オレは、琴子のことなんて、何とも思ってないのに・・・
あいつが誰と付き合おうと関係ないのに・・・
―オレは、どうかしてる・・・
後ろを振り返っても、誰も追ってはきていないようだった。
それでもオレは、琴子と手を繋いだまま走り続けた。
もう何から逃げているのかもわからなくなっていた。
もう一度振り返ったとき、昨日までのイラついた自分が随分遠くに見えた。
”嫉妬”かもしれない気持ちは、いつの間にか消えていた。
琴子が握り返してくる手の温もりがオレに伝えていた・・・
<やっぱり、入江君が好き・・・>
オレのココロに、何かあたたかなものが流れ込んでくる。
そして、昨日までのオレなら、きっと拒んでいたかもしれないその気持ちと、
今は向き合ってもいいような気がしていた・・・
ブログ村のランキングに参加しています。