読者の皆さまには、いつも私のお話を楽しみにしてくださいまして、ありがとうございます
今日、11月21日は直樹と琴子の結婚記念日~
・・・と、いうことで今回は、結婚5周年という設定で結婚記念日当日のお話を書いてみました。
2人の5周年を祝う入江家の賑やかな様子と静かに5年間を振り返る直樹との対比をお楽しみ
いただけたらと思います。
そして、タイトルをご覧になればお分かりと思いますが、このお話前後編に分かれています。
そのあたりのことは、またあとがきで・・・
どうか、お楽しみいただけますように・・・
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直樹&琴子アニバーサリーストーリー
~琴子色の日々・・・<前編>~
家へと続く長い坂道。
オレは、少しうつむき加減にその坂道を上がっていた。
そろそろ道の先に小さく家が見えてくるあたりに来ても、どうしても顔を上げる気になれない・・・
それは今日に限っては、おそらく家の外壁に掲げられているはずの大きな横断幕をなるべく家に
着くギリギリまで視界に入れたくないという気持ちからだった。
それでも、否応なしに家は近づいてくる・・・
そして、とうとうオレは顔をあげた。
―やっぱり・・・
今年はまた、ひと際大きな赤い横断幕が掲げられていた。
わかっていたこととはいえ、やはりそれを目の前で見る時の何とも言えない気恥ずかしさや小さな
憤りは、いつになっても変わらずオレの胸に湧き上がる・・・
「祝・結婚5周年」と書かれた金色の文字に呆れて首を横に振りながらオレは家の門を開けた。
今日は、オレと琴子の結婚記念日。
今年は、琴子が裏工作をする必要もない日勤のシフトで、残念(?)なことに急患もなく定時に上
がることができた。
病院を出る頃から、まるで監視されているかのように送られてくる琴子からのメールを全部無視
しつつ、それでも真っ直ぐ家に帰って来る自分に5年の間に培ったあきらめと成長を感じずには
いられなかった。
玄関の扉の前でこれでもかという程の大きなため息をついてから家に入ると、すぐに琴子が満面
の笑顔で飛び出してきた。
「入江君、お帰り~全然メールの返事が来ないから忙しいのかと思って幹ちゃんや智子に電話し
て聞いちゃった!・・・そしたら入江君定時に上がったっていうから、よかったって思ってたところな
の・・・」
「ふん・・・」
オレは、あからさまに嫌な顔をして、それ以上の琴子の言葉をけん制した。
「そんなに嫌そうな顔しなくてもいいでしょう?・・・ねっ!早くバッグを置いて来て!今日はごちそ
うが一杯だよ」
琴子は、オレを軽く睨んだあと、すぐに元の笑顔に戻ってオレを急かした。
家族全員と好美ちゃんが顔を揃えたダイニングに入って行くと、お決まりのようにクラッカーの洗
礼を受けてオレと琴子の結婚5周年のパーティーが始まった。
オフクロと琴子が腕によりをかけたという料理に、お義父さんが幸福小館から持ち帰った料理も
加わって、賑やかにみんながオレと琴子の幸せを祝ってくれていた。
この5年間の思い出話は、オフクロと琴子の独壇場だ。
誰も口を挟めるわけもなく、多少脚色された数々の思い出がオレ達の上をものすごいデータ量と
スピードで通り過ぎていく。
目を丸くしながら女2人の機関銃のような話しに耳を傾けている好美ちゃんと笑いながら楽しげに
話しを聞いている父2人、そしてオレはいつもの如く呆れ顔の裕樹と時々目くばせをしながら、早く
静かなところでゆっくりしたいと思っていた。
しかし、食事が終わる頃、急に立ち上がったオフクロがひとつ咳払いをしてから、おもむろに宣言
した。
「さあ、お腹も一杯になったところで、今年はお兄ちゃんと琴子ちゃんが結婚して5年目ってことで、
これから結婚式のビデオをみんなで観ようと思いま~す!」
「おお、いいね~なっ?アイちゃん!」
「うんうん!懐かしいな・・・」
「なっ、なんだって?・・・」
「ええええ~~~!」
「やったぁ~」
「きゃあ~嬉しい、一度見せてもらいたいと思ってたんです!」
オフクロの耳には、自分に都合のいい言葉しか届いていないらしく、不満顔のオレと裕樹には一切
目もくれず、何枚かのDVDを手にみんなにリビングに移動するよう促した。
テレビに映し出されるオレ達の結婚式の一部始終が、一人ダイニングに残って遠目に画面を見て
いるオレの心に不思議な感慨を呼び覚ます・・・
それまで天才と持て囃されながらも、いつもモヤモヤとしていた心の中に突然差し込んだ一筋の光。
琴子との出会いはオレの中に燻っていたたくさんの感情を引き出していった。
日々コントロールできなくなって行く気持ちに戸惑いながら、オレは知らず知らずに琴子に惹かれて
いった。
「きゃあ~琴子さんのウェディングドレス姿、素敵~可愛い~!」
珍しく大きな声で、歓声を上げた好美ちゃんの声にふと我に返る。
すると、その声にすかさずオフクロが答えた。
「花嫁さんの白いドレスはね、これから愛する人の色に染まりますっていう意味があるのよ・・・」
「へえ、そうなんですか?」
好美ちゃんが、うっとりした顔で頷く。
「そうよ~だから、好美ちゃんも真っ白なウェディングドレスを着て、早く裕樹色に染まりに
お嫁にいらっしゃい!・・・」
オフクロが、ソファの一番端に座っている裕樹をチラリと見ながら大げさに言うと、裕樹は顔を
真っ赤にしながらリビングを出て行ってしまった。
「あら、裕樹ったら照れちゃったのかしら・・・琴子ちゃんはお兄ちゃん色でしょう?それで好美ちゃ
んが裕樹色になったら、ママは最高に幸せだわ~」
オフクロの言葉に、みんなが大きく頷きながら好美ちゃんの顔を見ている。
すると、裕樹と同じように顔を赤らめている好美ちゃんに助け船を出すように、琴子が言った。
「あはは~私なんて、結婚する前からずっと入江君一色に染まってたけどね~」
その時、オレはふと思った・・・
―オレの色?・・・それは違うな・・・
むしろ、オレの方が琴子の色に染められている・・・そんな気がした。
琴子の愛情はあの頃からずっと変わらない・・・
ふと、結婚式のビデオに意識を戻すと、オレが琴子の手を握ってお義父さんの前で誓いの言葉
を言っていた。
そう・・・今のオレは、あの頃よりもずっと、もっと琴子を愛している・・・
すると、今度はリビングからひときわ賑やかな笑い声が聞こえてきた。
そして、なぜかみんながオレの方を見て笑っている・・・
「な、なんだよ・・・」
戸惑いながら聞くと、オフクロがニヤニヤと笑いながら言った。
「お兄ちゃんもウェディングドレスを着たからか、随分と琴子ちゃん色に染まったわよねって話し
てたのよ・・・」
「えっ?・・・」
オレは、まるで今のオレの心を見透かしたようなその言葉に、しばし唖然としながらオフクロの顔
を見ていた。
しかし、オレが言いかえす暇もなく、テレビの画面にはまさにウェディングドレス姿のオレが碧潭の
ボートを漕いでいる映像が流れ始め、リビングの面々の意識はまたビデオへと戻っていった。
みんながビデオに注目している隙にオレは静かに席を立った。
今、この5年間の日々に思いを馳せるなら、ここにいる必要はないように思えた。
自分の部屋に戻ろうと、そっと階段を上がっていると再び大きな笑い声が聞こえてきた。
大方、ウェディングドレスを着たオレが、ドレスの裾を踏んで転んでいるシーンにでも笑っているん
だろう・・・
あれほどの屈辱はないと思ったあの日の出来事も、今となっては懐かしい思い出のひとつだと思
えることが、この5年間なのかもしれないと思っていた・・・
ふと振り返ったあの頃に、今ここにいる自分の移ろいを知る。
オレはベッドに寝転びながら、いつしか階下の騒ぎも忘れてあの頃へと想いを馳せていた。
重くなってきた瞼をほんの少しのつもりで閉じると、白い燕尾服に身を包んだ琴子に頬を引き寄せ
られてキスをした場面が浮かんできた。
あれから5年・・・
時に傷つけ合い、戸惑い、それでもただ一途にお互いだけを見つめて来た日々・・・
そして今日、オレはふとしたことで少し悔しい気持を抱きながら気づかされていた。
そう・・それはオレが、琴子の色に染められてきた日々なのだと・・・
つづく
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さて、いかがでしたか・・・
ファミリーの全員登場で、きっとこんな風なんだろうなぁ~と思っていただけたら幸いです。
このお話、ここでENDとなってもいい感じの展開となっていますが、実はまだ先があります。
そして、本当なら全部をひとつのお話としてアップする予定だったのですが、どうしても最後の詰
めが今夜のアップに間に合いそうもなかったので、少し編集して前後編のお話にさせていただき
ました。
後編は、明日以降ということで、もう少しお待ちくださいね・・・
そして、昨夜アップした「お礼とお詫び」の記事には、あたたかいコメントをたくさんありがとうござ
いました。
これからも、自分のペースを守りつつ楽しんでお話を書いていけたらと思います。
今回のお話など、いきなりそんな気持のあらわれという感じで、最後までお読みいただけなくて
申し訳ありません・・・
では、後編もお楽しみに・・・
By キューブ
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