下北沢OFF OFFシアターで上演された、櫻井智也作・演出・MCR『不謹慎な家』と『佐藤さんは殴れない』を観てきました。

いやー、久しぶりに心の底から笑いました。

MCRって、コメディ劇団を標榜しているわけではないと思うんですが、2作品とも劇場が爆笑で大揺れ。

でも、実のところ、両方ともデリケートな部分を扱っているし、ちょっと常軌を逸しているといってもいい登場人物達が危険な水域まで踏み込んだ会話を繰り広げるんですが、そのやりとりに笑いながらも、“優しさ”や“純情”といったものを私は感じとっていました。


そう、なぜかMCRの作品からは、“ピュア”が迫ってくるんですよね。

それも、泥水をいったん飲み込んだ上で精製されて出てきたピュア、っていう感じ。しかも、作為的な感じがしない。

う~ん、でももしかしたら、作者にまんまとしてやられているのかもしれませんが(笑)、テイストの違う短編2編を大いに楽しめたひとときでした。


以下、ネタバレありの感想です。




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2017年5月13日(土)15時、19時

下北沢OFF OFFシアター




『不謹慎な家』


作・演出 櫻井智也

出演・徳橋みのり 濱津隆之 澤唯 志賀聖子 たなか沙織 堤千穂 堀靖明



付き合っている彼氏が殺人を犯して刑務所に収監されてしまったみのり(徳橋みのり)。

冒頭、幼い頃からみのりに恋をしている濱津(濱津隆之)が、みのりを励まそうとするんですが、ことごとく裏目に出て、みのりを怒らせてしまう。このやりとりからして可笑しくて笑ってしまったんですが、

でも、


ある日突然加害者側に立つことになってしまった自分。

加害者の彼女、として回りが見る目。

自分が自分に課してしまう制約。

それでも「待つ」という選択と覚悟。

でもそれは正しいのか、という自問。


など、みのりがおかれている状況が二人の会話から観客に示されて、巧みだなあ、と思いました。


みのりは、同じ境遇の女達を集めて、共同生活を始めることにします。そして、濱津は管理人になる(笑)。

この家に集まってきたのは、自分の夫や恋人が加害者になったことで、自分の人生がガラリと変わってしまった女達。


一人では笑うこともはばかられるけど、この家の中では笑っていい。

一人では待つことができなくなるかもしれないけれど、みんなと一緒なら待てるかもしれない。

世間からはきっと奇異で不謹慎と思われているかもしれないけど、みんなでこの家で肩を寄せ合って生きていこう・・・


ところが、当のみのりが澤(澤唯)という新しい彼氏を作って、この家に住まわせてしまいます。それはルール違反だ、と女達は憤りますが、実は澤も刑務所に入っていたことがあり、しかも彼女は待っていなかった・・・と聞いて、自分の場合と比べてざわざわする女達。

結局、濱津、澤の男性二人をまじえて共同生活を送るのですが、


やがて、夫が出所してきたり、恋人が獄中で自殺してしまったり、もう待つのをやめる決心をしたり、と、女達は一人、また一人と出て行き、みのりは一人になってしまいます。

普段から、みのりは不機嫌で怒りっぽく、説得力のある暴言をはいたり、男達に暴力を振るったりしてこの共同体を牛耳っていたのですが、女達が出て行った後、強がりは言うものの寂しさを隠せない。


みのりは、澤と付き合っているけど、刑務所にいる彼氏のことを待ってもいて、どうすればいいのか、自分でもはっきりしない様子。そんなみのりに、澤は、彼氏が出てくるまででもいいから、側にいると言う。

また、みのりを想い続けている濱津は、報われないとわかっていても、これからもずっと、みのりを好きでいると言う。


この、男達の底なしの優しさと純情たるや!

これは、もはやファンタジーですよね。でも、濱津さんと澤さんが演じると、ちょっとヘンな人たちなんだけど、そこは真実を語っているだろう、と思わせるリアルさがあって、女としては、なんだか、「それ、いい!」と小気味よい気分になりました(笑)


専制君主のようなヒロインを演じた徳橋みのりさんは、複雑な人物像を個性的に演じていたし、

共同生活を送ることになった女達を演じた志賀聖子さん、たなか沙織さん、堤千穂さんも、必死さが笑いをよんでしまうと同時に、苦しみや切なさも伝わってきて、とてもよかったです。


考えてみると、なにも刑務所に入っているとかじゃなくても、男女の間で、相手を

「待つのか」

「待てるのか」

という状況になることはけっこうあるよなあ、なんてそんなことを思ったりもしたのでした。




『佐藤さんは殴れない』



作・演出 櫻井智也

出演・佐藤有里子 堀靖明 加藤美佐江 おがわじゅんや 北島広貴 櫻井智也 伊達香苗



どうやら終電を逃したかなにかで?同じ職場の佐藤(佐藤有里子)の家に、堀(堀靖明)が泊めてもらうことになったようで、深夜の二人の会話から劇が始まりました。

佐藤は、「今、私を女として意識しているでしょ?」といちいち堀に聞いて、堀は寝かせてもらえない。

「全然そんなことない。ともかく眠い、寝かせてほしい!」と言う堀。


私も、堀がただ眠いだけ、というのは本当で、佐藤が自意識過剰なんだと思っていましたが、ごちゃごちゃ言い合っているうちに、堀が、本当は佐藤のことが好きだ、つきあってください!と告白したのでびっくりしました(笑)

佐藤も堀に気があったようで、なんだ、はじめから二人は駆け引きをしていたのね、と可笑しくなりました。


佐藤は、職場の人たちには交際していることを内緒にしてほしい、と言って、二人はつきあい始めるのですが、問題が勃発。

堀が佐藤を抱こうとすると、咳が止まらなくなってしまう。堀は佐藤のことが大好きで、抱きたいのに、咳が出てできない。佐藤も自分に魅力がないせいだと傷ついてしまいます。


時々、佐藤は他の人には見えない誰かと話しているんですが、観客にはそれが見えています。それはしょう太という、ちょっとふてぶてしい態度の少年(加藤美佐江)で、佐藤の側にいて、鋭い言葉を投げたりしています。


堀は、佐藤との約束を破って会社の同僚の北島(北島広貴)と小川(おがわじゅんや)に悩みを打ち明け、北島からは自分の知り合いの風俗嬢(伊達香苗)に相談してみるように勧められ、相談に行きますが、解決ができない。


私は、佐藤が医者(櫻井智也)のところに行って、今、しょう太という男の子の姿が見えているけど、昔いじめられていた自分は、空想の中に逃げ込むことで自分を守っていて、そのうち空想が実体として感じられるようになった、と話したり、

医者が、「あなたは彼氏ができて幸せだと言うけど、本当は幸せではないんじゃないか。」と言ったりするのを聞いて、

佐藤も堀も、本当は何らかの心理的要因があって、そうなってしまうのかしら、などと思っていたのですが、


しょう太の正体がわかった時は、やられた!と思いました。

そういえば、劇のはじめの方から、佐藤は、飼い猫が死んでしまって、とても寂しい思いをしている、と言っているし、医者との会話の中でも、寂しさをまぎらわすためにAVを見ていて、それにしょう太という男の子が出てきていた、と言っていた。


堀の同僚の北島は、ヤク中で、よくトリップしているんですが、北島にだけ、佐藤の側にいる猫の姿が見えて、それは、佐藤が飼っていた猫なのでした。

猫は、死んでしまってからも、飼い主の側を離れがたくて、飼い主がよく見ていたAVの中の人物の姿になって、いつも佐藤の側にいた。

「死んじゃってごめんね。」と猫が言い、涙を流して二人が抱き合うシーンは、犬派の私も、もらい泣きしてしまいました。


つまり、堀の咳は、猫アレルギーだったわけで、

最近は、佐藤に近づこうとしただけで咳が出てしまう堀は、絶望して風俗嬢のところに行って話を聞いてもらっていましたが、

そこに敢然と佐藤が踏み込んでいって、自分から、堀にキス!


佐藤も堀も、外見上、かなり個性的な容姿をしていて、佐藤には、「こんなおもしろい姿の私達が付き合っていることがしれたら、回りにはかっこうのネタを提供することになるから黙っていて」と言わせたり、

かなりのポッチャリ体型の堀が、汗だくで佐藤への想いに必死になるところがおもしろく思えてしまうところなど、ちょっと意地悪な喜びを観客に与えている気もするし、


そんな二人が、愛しているのに、セックスできない、という、デリケートで切実な問題に苦しんでいる姿に笑ってしまうなど、ギリギリの線をいっているとも思えて、ひんしゅくの一歩手前、という感じもします。


でも、最後のキスシーンは、美男美女が演じるよりも、もっと心に刺さった気がするし、なんだか胸が熱くなって、すごくいいクライマックスシーンだわ!と感動しました。


彼女への一途な想いをおもしろく、切実に、切なく演じた堀靖明さん、とてもよかった!

怒鳴ったりはしないけれど、自分の主張を曲げない独特の強引さをもつ佐藤有里子さん、怪演でした。

豊満なボディと包容力が今回も魅力的だった伊達香苗さん、

生意気な少年役が印象的で、最後、泣かせられた加藤美佐江さん、

相変わらずのともだち感が素敵なおがわじゅんやさんと北島広貴さん、

そして医者役がおもしろかった櫻井智也さん、と、


ひと癖もふた癖もある登場人物達が繰り広げるMCRワールドを、たっぷり堪能できました。

観終わった後、すぐにもう一回観たいなあ、と思ったくらいで、いつか、再演してほしいなあ、と思っています。

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