世田ヶ谷パブリックシアターで上演された、りゅーとぴあプロデュース・笹部博司上演台本・鵜山仁演出『エレクトラ』を観てきました。

実は、観劇日の数日前にひどい風邪をひいてしまい、ぎりぎりまで行こうかどうか迷っていたんですが、芝居が始まってからは、前方の席だったこともあり、俳優さん達の迫力のある演技を間近に観ることができて、集中して観ることができました。


いわゆるギリシャ悲劇を生で観るのは始めてでしたが、人間の愛憎や血で血を洗う残酷さ、感情のぶつかり合いがビビッドで、それらを隠し立てをせずに描いてしまうところがむしろ清々しくさえあると思いました。

今回の作品は、全体的には重苦しくはなく、わかりやすい作品になっていたと思います。


以下、ネタバレありの感想ですので、未見の方は自己判断のもと、お読みください!





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2017年4月15日(土)ソワレ

世田ヶ谷パブリックシアター

原作 アイスキュロス・ソポクレス・エウリピデス「ギリシャ悲劇」より

上演台本 笹部博司

演出 鵜山 仁

出演 高畑充希 村上虹郎 中嶋朋子 横田栄司 仁村紗和 麿 赤兒 白石加代子



劇場に入ると、舞台上には真ん中に一本の太い柱があり、全体的には廃墟を思わせるような美術でした。

パンフレットによれば、この作品は、ギリシャ悲劇の中の「アトレウス家の物語」を中心に上演台本を構成したとのことで、「エレクトラ」、その弟の「オレステス」、その姉の「イピゲネイア」の物語から成っています。


ギリシャ軍の総司令官アガメムノン(麿 赤兒)は、トロイアとの戦争に向かう際、帆を進めるための風を起こすために、長女イピゲネイア(中嶋朋子)を生け贄に捧げます。アガメムノンの妻クリュタイメストラ(白石加代子)は、娘を生け贄にした夫を許すことができず、愛人のアイギストス(横田栄司)とともに夫の殺害を企て、帰還した夫を自らの手で殺害します。


次女のエレクトラ(高畑充希)は、父を殺した母を許すことができず、父の死後、亡命させた弟のオレステス(村上虹郎)と共に母への復讐をすることを胸に誓い、不遇の生活に耐えています。

母は、エレクトラに、自分の苦しみを話し、理解を求めますが、エレクトラは聞く耳をもたず、激しく言い争います。

そしてある日、アポロンの神託を受けたオレステスが戻ってきて、母と愛人を殺害し、復讐を果たします。


若く、頑ななエレクトラを演じた高畑充希さん。キラキラとした生命力にあふれていて、今後の活躍が楽しみな女優さんです。今回も、母役の白石加代子さんに懸命に挑んでいましたし、オレステスを演じた村上虹郎さんも、純真さや不安、姉への思慕などがあふれる演技でした。

アガメムノンを演じた麿 赤兒さんは、独特の存在感。

そして、白石さんの説得力ある台詞や、カッと目を見開く表情などには、ぐーっと惹きつけられました。


ただ、白石さん、麿さんというベテラン勢(しかもアングラ演劇出身で独特の存在感を放っている)と、高畑さん、村上さんという若い二人の演技の質やスタイルがあまりに違いすぎて、火花が散るというよりは、異種格闘技のように思えてしまいました。

また、高畑さんの演技が、とても現代的で、その所作も、現代の若い娘のよう。

これは、あえてそうしたのでしょうか。私的には、(これは、いいのだろうか・・・?)と、違和感を感じてしまいました。


何というか、舞台上で、それぞれが役を生きている、というよりは、白石さん、麿さん、高畑さんがいた、という感じで、俳優さんの個々の魅力を楽しめた、とも言えますが、それぞれの個性が物語から浮き上がってしまっていたようにも見えました。

その中で、エレクトラの妹のクリュソテミスを演じた仁村紗和さんは、他の人たちに比べると地味な印象でしたが、その役を生きている、というように、私には感じられました。


そして、アイギストスを演じた横田栄司さん。

今回、横田さんの出演を楽しみにしていたのですが、台本や演出に関わることだと思いますが、クリュタイメストラとの絡みも一切ないし、なにか、あっさりと殺されてしまうし、アイギストスの描き方って、これでいいの?とちょっとすっきりしませんでした。

体格のいい横田さんが、オレステスに殺される場面も、反撃できそうに思えてしまってリアリティがない感じだし、

今回、殺害される場面で台詞を追加したとのことですが、すごく説明っぽくなっていて、ちょっと滑稽な感じになっていたのも、う~ん・・・?


あと、衣裳・・・

いや、ああいう姿もとても似合うのですが、鵜山さんは、登場人物の一部に、時代からはずれた衣裳を着せるのがお好きなようで(それを言うならエレクトラもですが)私としては、またか・・・と思ってしまいました。


でも、台詞の明晰さや求心力はさすがで、パンフレットのインタビューの中で、蜷川さんから、客席はお前達が思っているより遠いんだ、と言われたことから、今でも観客に台詞を届けようと努力されている、というのを読んで感じ入りましたが、横田さんを起用するのなら、もっと、実力と魅力をきちんと活かしてほしかったな、と思います。


その後、エレクトラとオレステスは母と愛人殺しの罪に問われ、死刑判決を言い渡されます。エレクトラが、母への復讐を果たしたのに、「今、私の胸には何もない・・・」という、虚しさのつまった台詞が印象的でした。

そして、二人の前にアポロン(麿 赤兒)が現れ、予言をします。それに従った二人は、死刑を免れ、放浪の旅に出たオレステスは、死んだと思われていた姉のイピゲネイアと出会います。

イピゲネイアは、生け贄になる寸前に死を免れ、タウリケで巫女になっていたのでした。

そしてイピゲネイアとオレステスは、再びギリシャへと戻っていきます。


イピゲネイアを演じた中嶋朋子さん、とても良かったです。

冒頭の長台詞の中で、どんな運命の中を生きてきたのか、どんな悲しみと想いの中で生きてきたのかがはっきりと伝わってきました。オレステスとの再会の場面も、その心情が手にとるようにわかったし、イピゲネイアという役を、しっかりと生きていたと思います。


物語の最後には、女神アテナ(白石加代子)が登場して、エレクトラに復讐から自らを解放するように諭し、エレクトラも、アポロンの予言の通り、子を産む未来を信じて生きていこう、と誓います。


非道な人間の役と、神の役を、白石さん、麿さんがそれぞれ二役で演じていたところに、人間の中にある神性と、一方では遙か昔から戦いをくり返している人間の業を感じさせられました。

この物語も、神の予言や神託によって人間が右往左往させられてもいるわけですが、古代アテネで劇を観ていた観客達にとっては、ある意味、人間の愚かな行いも、神の采配によるもの、というエクスキューズ、というか救いにもなっていたのかな、と思ったり、

最後には、神によって倫理的な采配がくだされ、人間が救済されるところに、カタルシスを感じていたのかしら、などと想像してしまいました。


今回の作品は、コロスも出てこないし、全体的にカジュアルな作りで、病み上がりの身には優しかったですが(笑)、こういうのもアリと思う反面、もう少し、重厚なものを観たかったな、という気もします。

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