下北沢駅前劇場で上演された、アガリスクエンターテイメント『時をかける稽古場2.0』を観てきました。

2014年に初演された『時をかける稽古場』の再演ですが、登場人物が増えたり、展開も変わった部分があって、バージョンアップを施したリメイク作品となっています。

私は初演はDVDでしか観ていないのですが、この「2.0」バージョンも、劇場内が笑いであふれ、俳優さん達の活き活きとした熱気があふれる舞台でした。


公演を2週間後に控えながらも台本が1ページもできていないという危機的状況にある若手劇団が、ひょんなことからタイムマシンを手に入れて・・・という、時間移動SFコメディと、演劇の舞台裏の合わせ技。

舞台裏の話、というと、内輪ウケになってしまいそうな気がしますが、これはそんな感じはなくて、稽古場という限られた空間で展開する壮大な(?)時間移動と、でもみみっちい切実さにあふれたお話しを楽しめました。


そしてみみっちくも切実に時をかけまわる彼らと一緒に時間を旅しながら、私の胸には、いま、ここ、この瞬間、という思いがわいてきました。

大いに笑いながらも、観客それぞれの胸に、いろいろな思いが去来するのが、この作品だと思います。


現在、京都公演中で、4月4日(火)~4月9日(日)まで、京都のKAIKAというところで上演されています。

以下、ネタバレありの感想ですので、未見の方は自己判断のもと、お読みください!




FullSizeRender.jpg


2017年3月28日(火)17時

下北沢駅前劇場

脚本・演出 冨坂友

出演 淺越岳人 榎並夕起 鹿島ゆきこ 熊谷有芳 甲田守 塩原俊之 沈ゆうこ 津和野諒 前田友里子 矢吹ジャンプ さいとう篤史 斉藤コータ ハマカワフミエ




公演を2週間後に控えた3月23日。超遅筆の脚本家のアサコシ(淺越岳人)が主宰する劇団「第六十三隊」の稽古場では、まだ台本ができていないため、仕方なく、舞台の実寸にあわせてエチュードなどをすることになります。そして、稽古場の床にビニールテープを貼ったところ、そのビニールテープに囲まれた者が、2週間後の本番前日、4月5日の自分と入れ替わってしまいます。


そのビニテがタイムマシンであることを確認した劇団員達は、2週間後に行って完成した台本を取ってくるのですが、それはアサコシが書こうとしているものではなく、全く違った内容になっている。

どうやら、このタイムマシンを使って行く2週間後の未来は、現在の直線上にある未来ではなく、限りなく今と近いけれども別の宇宙にある未来・・・

いわゆる、多元宇宙論とか多世界解釈とか言われるそれで、可能性の数だけ無限に存在する世界の中で、別の宇宙に存在する自分と入れ替わっているらしい。


そして、3月の劇団員達と4月の劇団員達がそれぞれの思惑から何度も時間移動をくり返した結果、3月の劇団員達は、台本も読んでおらず稽古もしていないのに明日本番という4月の稽古場に送り込まれてしまい、さらには、5年後のクマガイ(熊谷有芳)、シオバラ(塩原俊之)、コータ(斉藤コータ)までがそこに現れて・・・


ここまでは、にぎにぎしい大騒ぎに観客も抱腹絶倒で、コメディ劇団としての面目躍如。台詞の間合いやリズムがすごく計算されていて、秀逸。多分アドリブとかはないんじゃないかな、その点、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの演出方法と似ているのかな?なんて思いました。

ところが、5年後のクマガイ達から、ある出来事を告げられるとムードが一変します。


それは、この公演は、客演のハマカワ(ハマカワフミエ)のインフルエンザで、初日に中止になってしまうこと。ハマカワから内緒にしてほしいと言われていたのにクマガイがみんなに話してしまったことで、公演が中止になり、そのことがきっかけで、劇団も解散してしまうこと。

だから、2週間前には戻らない方がいい、自分たちが代役を務めるから、このままここで公演をやった方がよい、と。


自分たちの未来を知ってしまった劇団員達は、どうするべきか迷います。

さらに、ハマカワ自身が、自分さえ戻らなければ、公演が成功する確率は高くなる、だから自分は戻らない、と言い出します。

でも、それは成功と言えるのか・・・?

そして、彼らはどんな決断をくだすのか・・・。


ここから先は、初演とは違う部分があって、初演を観た方達の、初演ではモヤモヤとした部分が、今回解消されてスッキリした、という意見や、初演とは違うこの後の展開が、まさに「2.0」、再起動といえる、という意見も多くて、確かに、単なる再演ではなく、今の自分たちが描けるもの、描きたいものを創ろうとした情熱を感じるものでした。


ただ、私個人としては、ちょっとモヤモヤ、っとするところがいくつかあって、


物語の後半で、ビニテがタイムマシンではなく、別の物であった、となるんですが、私自身としては、今までタイムマシンということで話が進んできたのに、ちょっと肩すかしにあった感じがしてしまったのと、(ただ、私の頭が固いせいかも。最初の方から伏線や美術の仕掛けもあったし、タイムマシンというある意味使い古された道具に、ひとひねり加わった、とも言えるのかも)


5年後のみんなが出てくるところからは、冗長な感じになって、ちょっと疲れてしまう感じがありました。ただ、暗転ではなく、映像で処理した部分はスッキリとしつつ、グッとくるところがあったし、優しい未来が用意されているキャストもいて、なんだか私も嬉しくなったりしました。


アガリスクエンターテイメントの作品の特徴は、ある葛藤を呼ぶ状況下において、「解決」を目指して「議論」するところや、笑えない状況も、あえて笑いというエンターテイメントに昇華してカタルシスを生むところだと思うんですが、今回、そこにいたる後半の展開が、情報量が多くて、観客としては、追うのに労力を求められた感じもあります。

作り手のみなさんは、頭の回転が早いんでしょうね。だからこそ、論理的で緻密な作品を創れると思うんですが、私の鈍い頭では、ちょっと混乱してしまい、


「では、どうするのか」

「どうなったのか」

という結末の部分が、未来の不確実性も含めて理解はできたものの、私の胸にはカタルシスとしては、今ひとつすっきりと落ちてはきませんでした。


とはいえ、キャストそれぞれはとても魅力的で、大人数の劇なのに、キャラの描き分けがよくできていて俳優さん達の個性が活きているし、2週間先、という微妙な未来の自分たちと、5年後の自分たちの演じ分けができているのに感心しました。


脚本・演出の冨坂さんは、あて書きをしているとのことなので、それも当然なのかなあ、とも思いますが、やはり、「劇団」である、ということも大きいのかな、と思います。劇団だからこその、相互理解や切磋琢磨が、各俳優さん達の個性を際立たせるのかな、とも。

でも、劇団であること、劇団であり続けることには、観客には知り得ない、苦しみや喜びがあるのかもしれませんね。


今回の作品は、実在した劇団をモデルにしているそうですが、劇の中で「解散」という未来が出てくるので、どうしてもウエットになってしまう部分はあります。

私は、コメディとしてしっかりと構築されている中でのセンチメンタリズムはあってもかまわないと思っていますが、

どんな状況でも笑いに転化する、というアガリスクさんの作劇においては、そのエピソードはちょっと手強かったかな、という気もします。(もちろん、感傷ばかりにひたらせてはもらえず、しんみりした後には笑わせられちゃうんですが)



でも、逆にそこを扱ったり、5年後、というキーワードが出てくるのは、彼らの「今」の関心やいろいろな思いに直結しているのかな、と思ったりもしました。

それに、自分の5年後、に対する思いは、年代によって違うかもしれない。

20代が思う5年後、30代、40代、50代、60代、さらに・・・のそれは、期待や不安、切実さにおいて、違うのかもしれないなあ、なんて思いました。


額に汗をかきながら、ひたむきに笑いをとりにいく俳優さん達を観ながら、ああ、みんな、すごく、「今」を生きているんだなあ、と思って、

劇中の彼らが出した結論も、センチメンタルなものとも言えるけど、今、この時、この座組でしかできない芝居をやりたい、という主張に、二度とない今を大切にしようという思いが伝わってきたし、「青春」という言葉が浮かんできて、胸が熱くなりました。


クマガイの台詞に、「すべての劇団は、いつかは解散する。」というのがあったんですが、きっと、今、演劇の世界に携わっている方にはとても響くだろうなあ、と思うと同時に、「すべての観客は、いつかは劇場に行けなくなる」日が来るのだなあ、とも思いました。

もちろん、好きな劇団はずっと続いてほしいし、自分もできるだけ、劇場に行きたいとは思いますが、いつかは、行けなくなる日がやってくる。


そう考えると、今、ある芝居をやっている劇団があって、その芝居を観にきている、ということは、とても稀有なことで、何度もくり返して観ることができる映像と違って、演劇というのはその時だけの、唯一無二のもので・・これは、何か違う言葉があったんじゃないかしら、と思って、そうだ、「奇蹟」だ、と思いました。


1回1回の公演での作品と観客との出会いは、まさに奇蹟と言ってもいいのかもしれないし、その奇蹟に出会いたいから、私達は劇場に足を運ぶのかもしれませんね。


そしてそして、なんと、京都公演の前に、まさに劇中で起こったことと同じようなことが起こり、降板をする役を演じていた俳優さんが本当に降板することになり、本番直前に、他の俳優さんが代役を引き受けるという・・


劇中とのシンクロ具合にびっくりしたし、アガリスクファンとしては、京都に飛んでいきたい衝動にかられますが、京都でも無事に初日が開いた時はホッとしました。

実際、とても大変な状況だと思いますが、笑えない状況で笑いを作り出すのがアガリスクエンターテイメント。きっと、それすらバネにして、奇蹟のもとで出会った観客達に、笑いを届けていることでしょう。



AD

コメント(5)