シアタートラムで上演された、倉持裕作・演出『お勢登場』を観てきました。

江戸川乱歩の8つの短編をコラージュし、中心に「お勢」という女性を据えて編み上げた物語。

私は原作は未読でしたが、それぞれの短編のエピソードや登場人物を組み替えて、推理、トリック、幻想、怪奇などの要素を組み込んで一つの流れのある作品になっており、その構成の巧みさに唸りました。

俳優さん達も、一人何役もこなしながら、個性的な演技を披露していました。


ただ、ピースがうまくはまった分、陰影、とか、エロス、とか、心がざわざわするような「何か」が欠けていた感じがして、何となく、物足りないような、惜しいような気持ちになりました。

江戸川乱歩、ということで、もっと、濃厚でドロドロしたイメージを持っていたからかもしれません。

原作ファンの方が観たら、どんな感想をもったでしょうか。


以下、ネタバレありの感想ですので、未見の方はご注意ください!



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2017年2月21日(火)ソワレ

シアタートラム

作・演出 倉持裕

出演 黒木華 片桐はいり 水田航生 川口覚 粕谷吉洋 千葉雅子 寺十吾 梶原善




舞台は2階建てになっていて、両脇に階段があり、1階では3分割された板が引き出されてきて、その上で演じることで数々の場面転換になっていました。

オープニングで、黒木華さんが階段に現れた時、その凛とした佇まいがとても美しく、惹きつけられました。


この劇のタイトルになっている『お勢登場』

自らの死期が近いことを悟っている夫(寺十吾)は、妻であるお勢(黒木華)の浮気を知りながらも、幼い子どものためにと離縁できないでいます。

ある日、屋敷の中で子どもとかくれんぼをしていて長持の中に隠れたところ、鍵がかかってしまい、出られなくなってしまいます。


お勢は夫を見つけるのですが、いったんは鍵を開けたものの、再び鍵をかけて、フタを押さえてしまいます。

この時の、黒木さんの一瞬の決断を示す表情が鮮やかでした。


この他のエピソードに登場するお勢は、


木馬館で働いていた若い頃に、同じ職場の中年男からまんまと自分に貢がせたり、

過去に夢遊病を患ったことのある下宿の住人を、再び夢遊病になったと思わせて、自分が殺した大家の犯人に仕立て上げたり、

天の邪鬼の盲人に、穴の開いている場所を教えて穴に落としたり、

と、

お勢の策略にはまった人々は、お勢のせいだとはつゆほども思わず、罪の意識にさいなまれ、精神を病んだり、命を失ったりしてしまいます。


この作品のお勢は、見るからに悪女というのではなく、一見、清楚で、優しくて、でもその裏には緻密な計算と演技力を駆使した冷酷さがある。

その動機は、「退屈だから」と、生きることに倦んでいるからのような気がします。

黒木さんは、そういう人物を明確に演じていたと思います。悪事を働いた後に、ふっと見せる笑顔が印象的でした。


私は、黒木さんのたおやかさや、静謐さの中にある芯の強さを感じさせる演技がとても好きなんですが、今回、黒木さんがキャスティングされたことで、こんな感じの悪女になるのでは?という予想通りだった気がして、今ひとつ、予想を裏切る驚きが感じられなかった、というのは贅沢でしょうか。


お勢にまつわるエピソードと並行する柱として、『押し絵と旅する男』という幻想的な話が展開していました。

遠めがねを通して見た押し絵の少女(黒木華)に恋をした男(寺十吾)が、押し絵の中に入ってしまうというもの。少女の姿の黒木さんが男に寄り添っている姿がとても可憐で美しかった。この場面の絵はとても素敵でした。

ただ、この幻想的な話が、全体の中ではうまくかみあっていなかったような気がします。


この作品、文字として脚本で読んだらとてもおもしろいのかも、と思いました。

今回、8編の短編からそれぞれのボリュームを均等に拾って再構築していたように思いますが、もしかしたら8編は多かったのかも。あるいは、もう少し取捨選択して、濃淡をつけてもよかったのでは?とも思いました。


俳優さん達は、一人何役もこなすし、その演じ分けも大変だったと思いますが、ベテラン勢を含め、みなさんきちんとこなしていました。個々の俳優さん達は個性的で味のある演技だったのですが、アンサンブルとしてのもうひとつ上の何か、が感じられなかった気がします。

もしかしたら、衣裳替えも多く、段取りも複雑だったからかなあ、等と思ってしまいました。


あと、セットも2階建てで、1階から板が出てくるところもおもしろかったし、上下の動線を使って大きく動いてくれていましたが、シアタートラムのキャパにはセットが大きすぎたような気はします。

私は前方よりの席だったので、2階を見上げる形になってしまって、少し見づらかった。また、セットを動かす時の音がけっこう大きく聞こえてきてしまいました。

世田ヶ谷パブリックシアターくらいの規模だとよかったような。


いろいろ言ってしまいましたが、絵として美しい場面はいくつもあったし、特に最後の押し絵の男と少女の姿は、今も心に残っています。

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