シアターコクーンで上演中の、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出『陥没』を観てきました。

2009年の『東京月光魔曲』、2010年の『黴菌』に続く、昭和3部作の完結編。

前2作を観たのはだいぶ前のことになるので、細部は忘れてしまっているのですが、『東京月光魔曲』は暗いロマンがあったような気がするし、『黴菌』はラストの3兄弟の台詞でなぜかボロボロ泣いてしまった。いずれにしても、どこか毒気をはらんだ物語だったと思います。


今回、シアターコクーンのサイトには、

昭和と東京、さらには平成を照射する、“あったかもしれないオリンピックの物語”とあったので、現代と絡めたりするのかな?どんな感じかなー、と思っていたんですが、少し、拍子抜けした感があって、個人的にはちょっと物足りない感じがしました。


でも、シェイクスピアの『夏の夜の夢』を思わせるような展開で、ファンタジー要素があり、不条理感もちょっぴりありつつ、私が今まで観たケラ作品の中では一番明るさのあるお話しでした。

キャストもセットも豪華で、贅沢な作品だったと思います。


以下、ネタバレありの感想ですので、未見の方はご注意ください!





FullSizeRender.jpg


2017年2月12日(日)マチネ

シアターコクーン

作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ

出演 井上芳雄 小池栄子 瀬戸康史 松岡茉優 山西惇 犬山イヌコ

山内圭哉 近藤公園 趣里 緖川たまき 山崎一 高橋惠子 生瀬勝久




今回は、先行予約でとった席が2階で、「S席の範囲広すぎでしょ(怒)」という残念なパターンだったんですが、2階から観るオープニング映像はとても良くて、オリンピックに向かって発展していく日本の状況がテンポ良く映し出されていて、堪能できました。


1961年の東京。

オリンピックを3年後に控え、ホテルを含めた複合施設の着工直前の敷地で、社長(山崎一)が、専務の木内貞晴(井上芳雄)と、その妻であり、社長の娘である瞳(小池栄子)に、敗戦から立ち直った日本の明るい未来、そしてこの施設の明るい未来への希望を語っています。

このシーンは、照明もセピア色になっていて、プロローグなのだな、ということがわかりやすかった。


が、その直後、社長は事故死してしまいます。

その2年後。

オープンを控えたその施設では、瞳がその施設を切り盛りしているようですが、なんと、貞晴とは離婚しており、今は父親の会社に勤めていた大門真(生瀬勝久)と再婚しています。これにはちょっとビックリ。

瞳の従妹の窓子(緖川たまき)が手伝っていますが、夫の真は瞳に運営を任せていて、非協力的な感じ。


また、元の夫の貞晴には若い婚約者の結(松岡茉優)がいて、このホテルで婚約パーティを開くという。

うーん、それって、結としては辛くない?瞳も貞晴も無神経なんじゃ?と思いましたが・・・。


婚約パーティでは、結の友達で歌手のユカリ(趣里)や、そのマネージャーの下倉(近藤公園)、結の高校時代の教師(山西惇)、貞晴の母親の鳩(犬山イヌコ)、貞晴の弟の清晴(瀬戸康史)と、清晴が来る途中で連れてきた船橋(山内圭哉)という謎の男、他に、パーティで手品を披露する予定の手品師のツマ子(高橋惠子)などが一同に会します。


そんな中、死んだ父親が、神様との将棋に勝って、しばらくの間現世に戻ることを許されます。二人の監視役(これは二つの玉で表されて、声は峯村リエさんと三宅弘城さんだったもよう)とともに施設の様子を見に来ると、


愛する娘は違う男と再婚していて幸せではない様子だし、

施設の経営も自分が思い描いていたようにはいっていない。

そして、再婚相手の真が、自分の借金を返すために父親が多額の借金をしていたと嘘をついて瞳をだまし、施設がつぶれるようにし向けて売却しようとしていることを知ります。


ここからは、父親が神様の七つ道具(ふりかけると本音を言ってしまう粉薬、とか、惚れ薬、とか、あと何だったかしら?)を駆使して、娘の幸せを取り戻そうと奮起する展開に。

その過程で、思わぬ人に惚れてしまったり、思わず本音を言ったり、天国に帰る制限時間を守らない父親を戻すために監視役がマネージャーや手品師の身体を乗っ取ってよけいややこしくなったり、

高校教師が貞晴の母親の鳩を好きになって真剣にプロポーズしたり、とあれこれあって、


瞳は、嘘つきで卑怯で、すごくダメな男の真と別れる決心をし、

結も、いろいろと傷ついたけれど、婚約を解消することを決心し、

鳩は高校教師のプロポーズを受けることにし、

貞晴の浮気が原因で離婚をしたけど、貞晴も瞳も本当はまだお互いを想いあっていることがわかり、と、

それぞれの決意と新たな道のりが示されて、幸せな結末となりました。

死んだ父親の娘への愛情が、少しずつ道を誤っていた人々の今を修正していったところが、何とも温かさのあるファンタジーだった気がします。


井上芳雄さん、ケラ演出ではどんな感じになるのかな、と思っていましたが、女に弱い優男、というのが似合ってました。おもしろみ、という点では今ひとつ突き抜けていない感じがしてしまうのは、にじみ出てしまう上品さゆえかしら。でも、瞳がまだ好きでいる、というのには説得力がありました。


小池栄子さんは、今回は少し不幸せで、我慢強い女性の役も魅力的にこなしていました。

あと、驚いたのが清晴を演じた瀬戸康史さん。ちょっと頭が弱くて、でも純粋で鋭いところがあり、突拍子もないことを言う難しい役どころだったのを、とても巧みに演じていて、コメディのセンスがあるなあ、と思いました。


全体的には、東京オリンピックに向けての希望と高揚感が溢れていた時代が描かれていて、タイトルが『陥没』なのはなぜかなあ、と思いましたが、

鳩さんの台詞で、回りがどんどん発展していく中で、自分は取り残されていくような気がする、と言っていたあたり、成長の陰で取りこぼされていくものがある、またはあった、ということかなあ、とも思ったり。

あと、鳩さんが、今までとは違って、これからは自分で決めて行かなくてはいけない時代なのね、と言っていたのが印象的でした。


高度成長期の日本を無邪気に描かれてしまうと、その後のバブルやバブルの崩壊、今も続く不景気を知っている身としては、少し切なくもなりました。

答え合わせをするようなこともどうかと思いますが、ケラさんのツイッターを覗くと、トランプ大統領が誕生し、今、世界が冬に向かっている中で、重い話を書く気にはなれなかった、ということをツイートしていましたが、そうか、そういう気分なんですね・・・。


でも、観客が幸せな気分で劇場を後にできることはそれはそれでいいことだと思うし、

私もほっこりとした気持ちになったし、

といってもどこか鋭い毒針のようなものを期待していた自分もいて、


不条理すぎると理解できないと言い、

シンプルだと毒気が足りないと言い、

いやはや、観客というものはわがままなものですね。

AD